ひとりに慣れない彼だから
「もう
あたしたち
さよならね」
そう言って
彼女は出て行った
けれども彼女には
後ろ髪を引かれる心持ちが
長く長く残った
だから髪を短くした
それでもいつまでも
心に残っていた
彼のことが
彼はと言えば
未練たらたらで
彼女の小さな背中が
彼の目に焼きついている
東のドアを開け放して
また彼女の姿が見えるようにと
希望的観測に揺れている
「あたしたち
よく似てるわ
そう思わない?」
そんな言葉から始まった
シェアハウスの関係は
いつしか心が
重なり合うまでに発展し
彼女がいるから
彼も幸せだと感じられる
そんなところまで
たどり着いた
でも
彼女が居なくても
彼は変わらず元気で
何かの拍子に笑顔になることもあった
こうやって
少しずつ
彼女の居ない住まいに慣れて
ひとりでいることにも慣れて
やがて
ただひとり
朽ち果てていくのだろうか
彼はぼんやりとその様を思い
ひとり涙に濡れて
ティッシュで涙を拭い
鼻をかんだ
呆れ顔の彼女は
東のドアの中
「何よ
花粉症?」
驚いた彼は
どうして
ここにいるのかも
問わぬまま
彼女に駆け寄った
抱きしめれば伝わる
とでもいうのか
無言の彼に彼女は
両手で彼の背中を
あやすように叩き
「ただいま」
と告げた




