かくしごと
高校1年生の冬、つむぎと湊が恋人になって3ヶ月が過ぎた頃、2人は湊の家にいた。世の中ではクリスマスの時期がなんだと騒いでいる時期だった。
湊の家はとても質素で、必要最低限の物しか置いていなかった。一人暮らしの男子高校生の部屋ならもっと散らかっていても不思議ではないとつむぎも考えていたが、湊の綺麗好きな性格を考えればそれも違和感はなかった。
2人は映画を見ながら、つむぎが持参したケーキを食べてダラダラと過ごしていた。
つむぎにとってこの時間がとても幸せだった。
つむぎと湊が通う高校は県内トップクラスの進学校だ。
湊はその中でも常に上位3人に入るほどの秀才で、容姿は誰よりも整っている。夏に行われたミスターコンでは上の学年を抑えて優勝するほどに目立っていた。
密かにファンクラブがあるとの噂もできるほどだ。
つむぎにとって湊は別次元の存在だった。もちろん席が隣という理由で話はしたことがある。それが偶然である事には違いなかった。それをつむぎも自覚していた。だから積極的に関わることは避けていた。
そんな彼が今隣にいるのだから、もしかしたら一生の運を使ってしまったのではないかとつむぎは考えてしまう。
ツンツンと、湊の頬に手を当ててみる。
少しだけ困った顔をして「なんだよ」と言い返す。
「なんでもない」
つむぎは綺麗な笑顔で一言だけそう返した。
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年が明け、学校が始まった最初の土曜日につむぎは再び湊の家を訪れていた。
その日は遊びに来ていたわけではなかった。
湊が風邪をひき、その看病に彼女としてやってきた。
最初は風邪をうつしたくないと言っていた彼も、つぐみの心配には折れるしかなかった。
「もう、一人暮らしなんだから動けなくなったらどうするの? おこだよおこ!」
「ごめん、ごめん」
「うん、気をつけなきゃダメだよ。はい、おでこ出して」
湊が一人暮らしをしている理由をつむぎは本人に聞いていない。湊はあまりこの事に触れてほしくないように思えたからだ。
熱さまシートを貼り替え、つむぎはベッドの端に座り込んだ。
「何か食べた? 食べないと元気でないよ? 色々買ってきたけど何がいい?」
「つむぎの手作りのおかゆがいいかな」
「あんまり期待しないでね」
つむぎは立ち上がり、キッチンの方へと向かった。最低限あった調理器具を見繕い、念のために買った材料からお粥を作り始めた。経緯はともかく初めての手料理は少し気恥ずかして、緊張してしまう。
「はい、どうぞ。出来上がりましたよ」
つむぎは出来上がったお粥を湊のところへと運んだ。
湊はなんとか体を起こし、お粥を口へと運んだ。
「⋯⋯美味しい、懐かしい味がする」
「よかった、いっぱい食べて元気になってね」
湊は何回も美味しいと言って、作った分を食べきった。
つむぎはそれが嬉しくてたまらなかった。
「片付けておくから、早く横になって休んでね」
「ごめん、ありがとう」
湊が横になるのを見届けて、つむぎは食器の片付けを始めた。
自分が作った料理を大好きな彼氏が美味しいと食べてくれたことが嬉しかった。
片付けを終え、つむぎは彼のベッドがある場所へと戻った。ベッドのそばに座ると、湊を大事そうに覗き込んだ。
彼は目を閉じていて、眠りに落ちているようだった。
愛しい彼の頬に手を添えてつむぎは一言つぶやいた。
「良くなりますように」
それからしばらく、つむぎは湊の顔を眺めていた。
ーー今なら、きっと。
つむぎは湊の顔に自分の顔を近づけた。
2人はまだキスをしたことがない。
ーーなんてね。ずるいよね、こんなことしたら。
つむぎが体を起こしたその時だった。
「⋯⋯ごめん」
湊が弱々しい声を上げた。
つむぎが湊を見る。彼はうなされているようだった。
「大丈夫?」
その問いかけに返事はない。
「⋯⋯ごめん、りか」
その言葉を聞いたとき、つむぎは胸がキュッとなったのを感じていてた。
「湊くん、今のは聞かなかったことにしておくね」
それだけ言い残し、つむぎは彼の部屋を後にした。