青天の霹靂
「よぉし、ホームルームの時間始めるぞ」
教室の引き戸を開け、担任の守山先生が入ってきた。
生徒たちは話を切り上げると、自分の席へと戻っていく。
クラス替えも無く、担任も変わらなかったこのクラスの雰囲気は一年生の頃と変わらない。
つむぎの席は窓際の最後列。
誰もが羨む特等席だが、彼女にはそれよりも嬉しいことがある。
「ほら、消しゴム」
今日すでに何度も聞いた声、隣の席に座っているのが湊だからだ。
ありがとう、そう伝えつむぎは落とした消しゴムを受け取った。
席順は出席番号で決まっている。偶然とはいえ自分の苗字に感謝をせずにはいられない。
「湊くんの右隣の席って関口くんの席じゃないっけ? なんで1つズレてるんだろ」
「関口1番前の席にいるし、誰か転校生来たりして」
湊が冗談のように言うと、タイミングを合わせたかのように守山先生が話を始めた。
「ええ、皆さんにサプライズがあります。なんとこのクラスに転校生がやってきます。仲良くするように。じゃあ入って」
突然の話にクラスが困惑に包まれる。
それを気にすることもなく、その少女は教室に入ってきた。
ーー綺麗。
これがつむぎが彼女に思った最初の感想だった。
「鈴音りかと申します、中学生の途中までは隣の街に住んでました。仲良くしてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします。」
この美しい容姿に、透き通った声。男女問わずクラスのみんなが彼女に魅了されていた。ある1人を除いては。
「あれ、湊くん? やっぱり湊くんだぁ! 久しぶり!」
「うん、久しぶり」
彼女に笑顔が浮かんだ。その声は一気に明るくなった。
クラスメイトの視線が湊とりかを行き来する。
つむぎは自分の心に少しずつモヤがかかっていくのを感じていた。
ーーやだな、聞きたくないな。
ぎゅっと気持ちを押し殺し、つむぎは口を開いた。
「あの子と知り合いなの?」
「まあ、なんて言うか、同じ中学ってだけ」
「そっか、なら仲良くしてあげなきゃ! 知り合いいなくて不安だろうし」
「そうだな」
つむぎの言葉に嘘はなかった。優しい湊であればつむぎが言わなくてもきっとそうすることも知っている。
ただーー。
「そっか、あの子が」
つむぎはその言葉を聞こえないように押しつぶすしかなかった。