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蛇草-Recollection -  作者: 津城志織
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金目当てのクズ野郎

エリカの能力。

それは簡単に言えば瞬間移動。

視界に写る範囲で彼女と彼女に触れている物を好きな位置に瞬間移動することができる。

それが、エリカから教えてもらった能力の概要。

だけど、今みたいに突然知らない場所に移動したり二日前の夜みたいに気づいたら包丁を持っていたりなど、エリカが私に教えた能力の概要以外にもエリカは能力で何かができる。


「はは、両目やられてたら、確実に死んでたよ」


顔の約半分が赤く染まっているエリカはへらへらしている。

ガラスの破片が腕から顔にかけてひどく刺さっているので、流血がひどかった。


エリカは狂ってる。

なぜこんな怪我をしたのに、笑っていられるんだろうか。

顔の約半分が赤く染まっているエリカが片目を閉じはヘラヘラした口調でそう言った。


「怖いこと言わないでよ...」


私はエリカの流血している顔の近くに左手を向け「巻き戻し」をした。

そして、次に腕に左手を近づけ、同じように能力を使った。

刺さっていたガラスは消え、顔と腕の赤く染まった面積はしだいに小さく、やがて消えた。傷口は塞がり、傷一つない綺麗な肌に戻った。


「すごいなぁー、みもりんの能力はぁ」


エリカはついさっきまで流血していた顔をさすりながら気味が悪い笑みを浮かべている。


「それはそうと、なんなのさっきのは。」


いきなりガラスが割れ、強風が窓から舞い込んできて部屋を荒らした。

あれもこのゲームの能力なのだろう。

能力の規格が計り知れない、あんな災害みたいな能力。


「ありゃ確実にみもりん狙いだな。みもりん百点だし。お金にしたら一千万円ぐらい稼げるからね。」


「え?お金?」


「あれ、知らないの?1ポイントで一金貨買えるんだよ。その金貨は一オンス金貨ね。それで売れば十一万ぐらいで売れるからね、貧乏は喉から手が出るほど欲しいんだよね。」


「このゲームやる人ってみんなお金目当てなの?」


「うーん...そうだね。稼いだポイント全部換金するって人も少なくないって聞くからね。」


ポイントを稼ぐことは金儲けにつながる。

だからこのゲームは成り立っているのか。



「でも、もう安心してね♪ここは名古屋のアパートっ!名古屋のゲーム参加者は今全然いないし、いても弱い能力ばかりだからね。でも、一応状況確認する?」


私は本を開き状況を確認した。

そこには何も書かれてなかった。


「誰もいない」


「でしょ?名古屋が一番安全なんだよね。私の持ってるアパートの中で」


「え?アパートそんなに何個も持ってるの?」


「うん、私名義じゃないのがほとんどだけどね。」


「人のアパート奪ったの?」


「違うよ。他の成人している参加者にお金を払って借りてもらってるんだよ。」


「へー。そうなんだ。」


「じゃあ時間もたった頃だし、さっきの部屋に戻ろうか。」


「なんで戻るの?」


「逆に狩るんだよ、相手は私たちが強風によって傷を負ってると思って油断しているからそこを狙うんだよ。」


「いや、でも、危ないよ。部屋の中に襲ってきた人がいたらどうするの?また、強風で吹き飛ばされるよ。」


「大丈夫!大丈夫!いたら、私の能力ですぐに逃げたらいいよ。万が一襲われても、みもりんの能力があるから大丈夫。」


「でも...」

エリカは私の言葉を聞かず、私に抱きついた。


「きゃっ!なにっ!?」


「これだったら、強風で飛ばされても私から離れることなくすぐ移動できるでしょ?」


ああ、まじで行く気だよこの人...


「どん!」


その言葉と同時に目の前の景色は一瞬にして変わり、

私の目にはさっきのアパートはひどく荒れた情景が写った。

恐れていた部屋にあの能力を使った敵と鉢合わせするというシチュエーションにはならなかった。


「ほらね、誰もいないでしょ?」


「いや、でも隠れてるかもしれない」


「隠れる必要なんかないでしょ、私の能力を知ってるわけないし。」


「でも、相手が私たちの情報を買ったかも...」


「その可能性は低い。相手がもし金目当てのクズ野郎だとしたらできるだけ多くのポイントを稼ぎたいから能力の情報は買わないよ。そもそも買ってたとしたら、あんな攻撃私にはしてこないから」


その時ガチャガチャとドアノブが鳴った。

エリカが手で指図すると私たちは隠れた。


「あれ、針金で開けれたと思ったのにな。」


中学生ぐらいの高い声がした。


「バカかお前はそんなただ針金をぐちゃぐちゃしただけでカギ開くわけないだろ。」


「おかしいな。テレビではこうしたら空いてたのに。」


「テレビと現実は違うんだよ。」


と、別の男の声が聞こえた。


「まあいいや、早く中に入ろう。」


ものすごい音と同時に二人の男が部屋に入ってくる音がした。


「やっぱ先輩の能力はすごいですね」


「おまえのだって使い勝手は悪いがなかなかやると思うけどな。」


二人の男はずかずかと会話しながら部屋に入ってくる。

私は息を潜めた。


エリカを見ると手に刀を持っている。

いつの間にかエリカが刀を出していたことに私は驚いたが、彼女の表情は一切動じていなかった。

エリカは鋭い目つきをして、男たちがリビングに入ってくるのを待っていた。

男の一人がリビングの足を踏み入れると、エリカは一気に飛び出した。


「はっ!?なんで...。」


見ると、身長が高い大学生ぐらいの男とまだ中学生ぐらいの少年がいた。


飛び出したエリカは一瞬にして消えると一瞬にして二人いるうちの後ろに立っている中学生ぐらいの少年の子の背後に移動した。

するとその少年の首はごとんと落ちた。

エリカが刀で首を切り落としたのだ。

膝から崩れるそれは大量の血が噴き出していた。


するとそれに気づいたもう一人の男に切りかかろうとし刀を大きく振り上げた。


その男はそれに対抗すべく能力を使い、エリカに向けて強風が死体ごと飛ばす勢いで吹いた。

しかし、エリカはそこにはいなかった。


「残念♪」


すでにその男の背後に回っていたエリカはその男の背中を切りつけた。


「ああああっ!」


男は背中を切りつけられた痛みによって痛々しい声をあげた。


男は傷つきながらも死に物狂いでエリカに反撃を試みたが、彼女は再び瞬間移動して避けた。


「強い風を操るのはいい能力だけど、それだけじゃ私には勝てないよ」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


仲間を殺された怒り。それと、自分自身が死ぬことを恐れた焦りが入り混じった声を上げた男は、必死にエリカに能力を使った。

しかし、能力はエリカには及ばなかった。

エリカは瞬間移動で男の背後に回り、男の首を刀で搔き切った。

男は痙攣し、首から大量の血を流して動かなくなった。


エリカは男の死体を見つめ、深い溜息をついた。


「使い勝手の悪い能力が私に勝てるわけないじゃん」


エリカはポケットから本を取り出し、男の死体に本をかざした。

男の皮膚からは緑のクリスタルが浮き出てきた。


「はぁ、10ポイントかぁ。超ビミョー」


エリカは私にそのクリスタルを投げて渡した。


「みもりんそれあげるよ。でも、まだ転送しないでね。」


「...なんでそんなに容赦なく人を殺せるの?」


まるで魚を捌くかのように人間を殺していた。

殺す必要はあったのだろうか。

相手が救済を使っていたとしたら、殺さなくてもポイントを入手出来ていたのに。


「うーん。自分を守るためかなー」


「でも、なんで殺さなきゃいけないの?自己防衛だって、相手が救済を使っている場合は殺す必要もないんじゃないの?」」


「いや、報復される可能性もあるじゃん?だから、殺さなきゃいけないんだよ。」


エリカは首を切り落とした少年に本をかざしながらそう言った。


「うわー外れー。たったの5ポイントじゃん」


すると、エリカはまた私にクリスタルを投げて渡した。


「それもあげるよ。」


私にはわからなかった。

人を二人も殺しておいてこんな明るく喋れる神経がわからなかった。


「うわぁ駄目だ。これもパスワードだけのやつじゃん。」


エリカは男のスマホを物色していた。


「みもりん。もう転送してもいいよ。」


私はクリスタルを転送する気にはなれなかった。

これを送るとあの高校生みたいに跡形もなく消える。



「ごめんね、怖がらせちゃったね」


私はエリカに向き直って、少し動揺した声で言った。


「でも、本当に殺す必要があったの?報復されるのを恐れて、自分から人を殺すってどうなの?」


エリカは少し考え込んでから、静かに言った。


「そんな考えじゃ、何百ポイントも稼げないよ。このゲームはやるかやられるかだけ。残酷だけど、ポイントを多く稼ぐってことは人を多く殺すってことなんだよ。」


「でも、それって...」


私は言いかけたが、エリカは私の言葉を遮って続けた。


「私たちはこのゲームでポイントを稼ぐためにはどんな手段を使ってでもクリスタルを奪わないといけない、それがこのゲームの攻略法なんだよ。自分が殺される前に相手を殺すことは自己防衛だし、殺すことはいけないと思って殺さないのは自殺と同じなんだよ。」


エリカははっきりとそう言ったが、私にはその言葉がどうしても受け入れられなかった。


「でも、人を殺すって...本当にいいのかな」


私の声は小さく、不安が込み上げてきた。


「でも、私たちが迷ったり躊躇したりすると敵に殺されるんだよ?私たちはただの殺人鬼じゃなくて、ただこのゲームに従っているだけなんだよ」


エリカは私を励ますように微笑んだ。だけど、私の心は重く、どこか罪悪感を感じた。


「そっか......」


私は深くため息をついた。


「私このままこのゲーム続けることできるのかな...」


エリカは私の肩を軽く叩いて言った。


「大丈夫。私も最初はみもりんみたいに人を殺す行為が許せなかった。でも、ゲームをやっていくうちにそういう感情はなくなってきた。みもりんもきっと慣れるよ。」


私はエリカの言葉に少し安心した。でも、それでも心の中で、自分がこのゲームを続けることに不安が残っていた。


「じゃあ、もう転送しようよ。死体と同じ部屋にいるのも気味が悪いからね。」


私は自分の本を取り出し二つのクリスタルを転送した。

二人の死体は消え、本だけが残っていた。

そして、私は15ポイントを入手した。


「やったね、みもりん。15ポイントゲットだね♪」


エリカは私を励ますように私を祝った。


だけど、私の心の奥底にはどこか重苦しい感情が残っていた。


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