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魔王の娘の視点

「ばいばい勇者さま。またね」


 今回も勇者様はわたしの父である魔王を倒しに来たけれど空振りでわたしと遊んでくれた後に不完全燃焼で帰って行った。

 今代が倒れれば次代へとひたすらに紡がれていく勇者というシステムにうんざりしているお父様は今日もなんらかの用事を装っては勇者様との決着を先延ばしにしたみたい。

 たぶんずっとこのまま勇者様と戦う気はないのだろう。

 勇者様も先代の勇者があまりにも圧倒的な力の差で敗北したものだから、使命感から戦わなくてはいけないと思いつつも本能で尻込みしている感じがする。

 だからお父様となんだかんだ戦わなくてもいい現状にはホッとしているところがあるのだろう。

 魔族の長である魔王と人間の最終兵器である勇者。魔族と人間の双方はいつだって領土だとか食料だとか色々な理由で争っていて、最後には魔王と勇者が出張ってきて決着をつける。

 最初からあまりにも強く生まれ君臨する魔王に、歴史を積み重ね強さを脈々と受け継ぎ強くなっていく勇者。

 今はお父様のほうが強いけれど、このまま勇者を殺し続ければそのパワーバランスはいつかひっくり返るだろう。

 だからお父様はわたしを利用しようとしている。具体的には勇者様に恋慕を抱いているわたしを使って勇者様を魔族側に寝返らせる、或いはそれが無理ならわたしごと封印してしまおうと企んでいる。

 わたしを戦略に組み込んでいるところ申し訳ないが、随分と部の悪い賭けだ。

 最悪わたしが人間側に寝返って寝首をかきに来る可能性とか考えないのだろうか?

 いや、お父様はそんな可能性を考えた上でわたしが失敗しても次の戦略を展開すればいい使い捨てくらいに考えている。

 親としては最低かもしれないけれど、種の存続としては長の判断は正しいのかもしれない。

 ただいずれにしても分が良い賭けは言えない。


 勇者様も勇者様でお父様を倒すための手段として最少極大聖魔法陣とかいう魔族を縛り人間を強化する為の手段を試みている。

 これは魔族には感知できない微弱な魔法を魔王城の至るところに仕掛けるものなのだけど何分時間が年単位でかかるし、もしもバレてしまったらすぐにダメになる方法だ。

 あまりにも細い綱渡りをし続けている。

 わたしの好意を受けて対応しつつこの綱渡りをしている。わたしの好意を隠れ蓑にしている。

 これも随分と分の悪い賭けだ。

 勇者様はまだ誰にも気づかれていないと思っているけれど、こうしてわたしは気付いている。そしてこの魔法は未完成の現状であるならばわたしでも解けてしまうくらいには弱い。

 それをしないのはわたしの気まぐれに過ぎない。もしも完成する場面になってもこの魔法陣を解くかどうかはそのときの気分しだいだろう。

 もしこれが完成してお父様と勇者様が対峙するとなると勝算は五分五分って所だろう。

 こんな細い綱渡りをしてそれでもなお五分は敗北する。

 こちらもこちらで随分と分の悪い賭けをしていると言える。

 

 それにしてもなぜ魔王も勇者も各々の種族の為に身を粉にしてまで奉仕しなければいけないのだろう?

 自発的に魔王も勇者もそうあるべきと思い込んでいる。役職にそう思い込まされている。

 魔王も勇者ももっと自分の欲望の為に力を使ってもいいと思う。

 なんせどちらも各々の種族の最終兵器なのだ。本気で暴れ出したら個ではどうにもできない。軍とか国とかそれらで結託しないと即座に滅ぼされてしまう。

 魔王と勇者対他の全世界でいい勝負になるくらいだろうと思われるくらいの戦力をあの二人は有している。


「あ~あぁ。早くそうならないかなぁ」


 わたしの最終目標はそこだ。

 窮屈そうなお父様に勇者様。どちらにも自由に生きて欲しい。お父様にはこんなに甘やかして育ててくれた恩があるし。勇者様に抱いた恋心も本物だ。どちらも大好きだ。

 そんな二人の自由の為には早く世界に絶望して欲しい。

 お父様サイドには、魔王は勇者の力を恐れて後手に回っている。このまま腑抜けてしまった現魔王に魔界を任せていていいのか? と血気盛んな輩に密かに振れ回って各地で反乱を誘発して。

 勇者様側には、勇者は魔王と戦う使命を放り出してその娘に執心である好色勇者であると世論に少しずつ浸透させていって四面楚歌な状況になってもらって。

 どちらも圧倒的な強者であるから周りに助けなど求めないだろう。

 そんな背を預けられるような相棒はどちらもとうに死んでいる。

 そして世界に絶望し、世界という共通の敵を前にして二人で手を組んでほしいのだ。

 今までは互いをよく知らないまま、役職だけで反目している両者が世界を相手取って滅ぼす様をわたしは見たいのだ。

 二人がさら地に均して静かになった世界が見たいのだ

 当然お父様も勇者様も愚者ではない、どころか賢人だ。

 凝りに凝った役職に染みついた概念をぶっ壊す前にわたしの計画が露呈しては目も当てられない。

 わたしは残念ながら魔族としての能力はぼぼない。戦闘となったらなにもできない。

 だから頭を振り絞るしかないのだ。

 個では何もできないくせに全て滅んでしまえばいいという思想を抱えてここまできてしまったわたしは何を利用すればそれができるかひたすらに考える事しかできないのだ。


「はぁ、なんて分の悪い計画だわ」


 でも、だからこそ、こんなにも面白いのかもしれない。

 魔生たった一度きり、だから自分の思いに蓋をするのは馬鹿らしいし。想いを遂行するためには尽くせる手段は全て試すべきだと思っている。

 頭が痛くなるくらいに画策して、そんなのをあっさりと打破されて。それでも諦めず次の手段を企む。

 無力ながらもせっかく魔王の娘なんてものに生まれたのだ。そんな無力というハンディキャップすら楽しんでやりたいことをやろう。

 さあ。楽しみながら世界をまっさらににするといたしましょう。


よんでくれてありがとうございました。

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