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魔王の視点

全三話です。

よろしくお願いします。

「今日も楽しく勇者くんとお話できたのかい?」


 夕食時。僕は娘に毎日している問いを投げかける。

 娘は僕の問いに対して今日一日を振り返り頬を赤く染めてひたいの角の根元をかいた。その調子だとどうやら本人的にはうまくいったようだ。

 僕が盗み見ている限り、照れてうまく喋れない娘に対して勇者くんはあくまでも年下の……そうだなぁ、妹というものに対するような接し方をしていて、現状娘の恋の進行度は20パーセント以下と見立てていいと思う。

 微妙と切って捨ててしまえばそれまでだが、相手はこの世界の救世主である人間側の最終兵器である勇者で、それに恋をしているのが魔族側の君臨者である僕こと魔王の娘である。

 直接の宿敵ではないが、その肉親との関係にしては殺し殺される関係でないだけでずいぶんうまいことやったものだと感心する。

 この二人を見ていると、ずっと長い歴史で争い続けた人間と魔族であるが、もしかして分かり合えるかもしれないとすら思わせる。

 そうなったらいたずらに誰かが死ぬことはない。そうだったらいいな。とは思ってしまったりすることはあるけれど。

 それに全てを託せるほど僕は積み重ねた歴史という遺恨を楽観視はできなかった。


「ねぇお父様、今度勇者様のお誕生日らしいの。なにかプレゼントをしたいのだけれど、男のヒトってどういうものを渡せば喜んでくれるのかしら?」


 親である僕の前で、想い人の誕生日プレゼントの事を聞いてくる。

 こんなんでも僕は一応魔王である前にこの娘の親である。正直少し嫉妬みたいなものもある、少しからかってやろうなんていたずら心みたいなものが鎌首をもたげるけれど。


「確かにモノというのは大切かもしれないけれど、彼は勇者だぞ。だいたい欲しいものなら自分で手に入れられるさ。そうなるとモノより心。お前が心を一生懸命考えて送ったという事実の方が喜ばれると思うぞ。重ねておくがあくまでも僕の場合は、だぞ」


 事実はわからない。もしかしたら高価なものをあげたほうが喜ばれるかもしれない。だけど僕は真っ直ぐに僕に助けを求めてきた娘にいじわるをするようなことはできない。

 だから僕は僕が思う最高のプレゼントの定義を真っ直ぐに娘に投げ返す。


「そうかぁ。確かにそうかも……。うんっ。そうするわ。そうなるとなにがいいかしら」


 どうやら納得してくれてようで、そそくさと食事を平らげて、ごちそうさまの言葉も忘れて部屋へと戻っていった。

 まったくはしたない。いつもは内気で他人と話すことすら苦手でおどおどしている娘だというのに。まったく恋というのは人であれ魔族であれこうも変えてしまうのか。


「魔王様。差し出がましいようですが、よろしいので?」


 僕の影に潜んでいた部下が訪ねてきた。

 こいつは優秀なヤツで魔王軍内の実力は8番目くらいだが、僕は正直一番信頼している部下である。


「娘様の恋慕はきっと不幸な結末をもたらしますよ?」


 コイツはこういうやつだ。僕が間違っていると思えば相手が上司だろうがしっかりと進言してくれる。

 声にはわずかに震えがある。僕という力で魔族を統一した暴君に意見したのだ。気まぐれで殺されかねないというのに、それでも魔族の未来を想ってこそこうして命がけであろうが進言してくる。

 

「そうだな。僕もそう思うよ」


 なるほど、その進言は恐らく正しい。

 娘と勇者は直接の宿敵ではないだろうが、それでも双方のバックが納得はしないだろう。娘が人間側に寝返るにしろ、勇者が魔族側に寝返るにしろ一悶着が容易に想像できる。

 またどちらかに身を寄せるにしろ、受け入れる側の反発も相当なものだろう。


「ならばなぜこんな茶番を?」


 茶番と来たか。命を賭してズバズバ物言うヤツだが、ここまではっきりと言われたのは初めてで、思わず笑ってしまった。


「茶番か、そうだな。そう見えるよな。ふぅ、僕はお前を買っている。お前は口が堅いヤツだと思っている。だからこれから言う事は他言無用だぞ」


 部下の間でもこれらの出来事、娘と勇者の恋慕が茶番と揶揄されているのは知っている。

 勇者が僕を討ちに来るたびに僕はどこかへ雲隠れして王座で娘が勇者を出迎えて、毒気を抜かれた勇者が娘の相手をして帰っていく。

 当然余計な犠牲を出したくないから、その間は勇者に襲い掛かるのは程々にしておけとは厳命してある。

 なるほどたしかに愚行でしかない。かつて暴力で成り上がった魔王は娘の為にその立場を私益化していると言われても仕方ない。

 だけれどもこれらに当然理由がある。

 僕はずっとこれを秘めてこんな愚行を行ってきた。しかしずっとそれを1人で秘めておくのに疲れてしまったのかもしれない。

 だからコイツにくらいなら告げてもいいと思ったのかもしれない。


「最初に危機感を覚えたのは先代の勇者を倒した時だった。かつてない程に苦戦したのを実感した。どうやらこの勇者というシステムは倒されるごとに次の勇者に経験と技を引き継いでいく呪いだということに気付いてな。今はまだいいかもしれない。だけどこのまま何も考えずに勇者を倒し続けたらいつかは敗北してしまうと気付いたのだ」


 なんというか、インチキ極まりない仕組みだ。

 コレがダメだったらアレ、アレがうまくいかなかったらコレ。人間を創生した神というのはヒトを消耗品くらいにしか考えていないに違いない。そうして強さだけを呪いとしてひたすらに次代に引き継がせてここまできた。


「まだ大丈夫、まだ勝てる。だがいつまで勝てる? いつまでこんなイタチごっこにつきあわなければいけない? 勇者もといニンゲンだけを相手にしているわけではない。魔族側にだって僕に反旗を翻すヤツはいくらでもいる。たった一つのことに意識を向け続けるわけにはいかなかったんだ」


 というか、正直潰してはまたでてくる勇者というものに飽き飽きしていたというのもある。

 ゴキブリを潰すような不快感を抱いていたといってもいい。


「最初は本当に偶然だった。僕が西方の……あのなんだっけ? なんとかっていう反乱者を鎮めに行っているとこに勇者が僕を討ちに来て、娘が勇者に会って、あろうことか娘は勇者に恋をしてしまったという」


 別に恋をしただけなら別にそんなことは捨て置いてもよかった。

 だが娘から聞いた話によると勇者は娘を殺さなかった、まったく害することもなかった。どころか世話まで焼いたという。


「確かに娘が無事だというのはほっとしたよ。なにせたった1人の家族だからね。だけども僕はそんな安心感を覚えるよりも先にあることを考えていたんだ」


 魔族は僕という魔王を頂点にそこから他の地を四分割しそれを4人の魔族に治めさせている。なんでも四天王とか呼ばれているらしい。

 確かに四天王も他の魔族や人間にとっては脅威かもしれないが、その4人が結託し部下を引き連れて一斉に僕に襲い掛かっても僕にはまったく勝てない。

 そういう意味では魔族は僕のワンマンチームということになる。

 僕が存命な今はまだいいだろう。最悪僕が出張って行って力づくで押さえつけて終わり。

 関係やら在り方に重心を置く人間とは違って、魔族は基本的には力に順ずる生き物だ。強ければいい、実に簡単だ。

 でも仮に僕が死んだらどうなるだろう。僕が勇者に討たれてしまったらどうなるだろう?

 きっとそこから魔族は人間に蹂躙される。そういう危機感を少なくとも僕とこの影に潜んでいる部下は抱いている。


「一番いいプランとしては娘と勇者をくっつけてしまえばいいって思った。そして魔王の娘と勇者の子供を新たな魔王として育てようって思ったんだ。二番目のプランとしては娘ごと勇者を封印してしまえばいい、娘もずっと勇者と一緒にいられるし、それなら今代の勇者が存命な限り次代の勇者は生まれない」


 正直うまく行くかは五分五分だ。娘が人間側に寝返る可能性や二人でどこかへ逃げてしまって行方不明とかになる可能性だってあり得る。

 最悪はたった1人の娘に裏切られて寝首をかかれてしまうというパターンも無いとは言いきれない。

 だけどこのまま成長し続ける勇者というシステムに敗北してしまうよりは分のいい賭けだ。

 だから僕はそれにベッドすることにした。


「魔王様。それはあまりにも……」


 部下はその後の言葉を発しなかった。

 あまりにもどうだというのか?

 そんなものに魔族全体の命運を賭けるなんてと非難しているのだろうか?

 或いはたった一人の家族である娘を道具のように扱うことを非難しているのだろうか?

 まぁどっちでもいい。

 魔王の娘と勇者の恋慕、さて乗るか反るか?


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