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ガフンちゃんとあたし 〜 言葉の通じない友達のことをもっと知りたい 〜  作者: しいな ここみ


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アリサ

 みんなが食事をしながらワイワイやってる声が、廊下からも聞こえていた。

 あたしがトイレから帰ろうと歩いていると、向こうから本多くんが歩いて来た。


「よっ! 本多くん。楽しんでる?」


 あたしがお腹にグーパン入れる真似をすると、本多くんはよろめきながら、「あの」と言った。


「ん? 何?」

 あたしが聞くと、

「その……ね」

 と言う。


「なんなの?」

 あたしが笑うと、

「えっとね」

 と、もじもじした。


 しばらく微笑みながら、言葉を待って立っていると、ようやく本多くんは言いたいことを口にした。

「アリサ」


「えっ?」

 びっくりして嬉しくなって、あたしは口を両手で覆う。


 唐突に下の名前で呼ばれるなんて、思ってもみなかった。


 でもなんか違う話だった。


「アリサ……って、フェニーちゃんが言ってたでしょ?」


「……ああ」

 そう言えばあたしの顔を嬉しそうに見ながらフェニーちゃん、アリサアリサって言ってたなと思い出しながら、

「……うん」

 少しだけがっかりした。


 でもあれが何だったか説明してくれるんだ? さっぱり意味がわからなかったので助かる。


「フェニーちゃんさ、俺に教えてくれって言って来たから、教えたんだ」


「え」

 あたしは本多くんの顔を見つめた。

「何を?」


「アリサの日本語での読み方」


「ああ〜……!」


 それでようやく理解した。そう言えば今まで英語風にあたしのことを『Alissa』って呼んでた。それがさっきは確かに『ありさ』だった。気にしてなかったからわからなかった。


「あたしが気にしてると思ったのかな」

 可愛いな、と思って、くすっと笑ってしまう。


 でも嬉しかった。その気遣いが。フェニーちゃんの心が見えるような気がして。


「可愛いよね、フェニーちゃん」


「えっ」

 ちょっと胸がうっ!となった。

「あ、うん。そ、そうだね。顔も可愛くて性格も可愛いなんて……、大違いだなあって思う、あたしなんかとは」


「そそそそんなことないよ!」

 いきなり本多くんが慌て出した。

「俺は、アリサちゃんのほうが可愛いと思う!」


「えっ」


「あっ」


 会話が続かなくなった。向かい合って立ったまま、2人廊下でもじもじしていると、大広間の襖が開いて、乱れた浴衣姿でお父ちゃんが出て来た。


「むっ? そこ、何をしているんだね?」


「あっ、お父ちゃん。トイレ?」

 あたしは沈黙を破ってくれたことに感謝しながら心の中で舌打ちした。


「君。そこのヒョロガリ男子くん」

 ヒョロガリ中年が自分のことを棚に上げて言った。


「はい」

 本多くんが素直に返事をした。


「有紗は俺の娘なんだが? 君は何をしちょるのかね? 口説いてたのか?」

 ヤバい。お父ちゃん、酔ってる!


「そそそんなんじゃないですよー」

 本多くんが可愛く顔の前で手を振った。


「何っ? うちの娘は口説くに値しないほど魅力がないとでも?」


「そそそそんなことないです!」


「じゃ、結婚するのかあ!? 責任取れるのかあ!?」


「えっ?」


「ちょちょちょっとお父ちゃん!」

 あたしは履いてるスリッパを脱いで手に持ち替えながら言った。

「お酒入ったら本当みっともないんだから! 早くトイレ行け! さっさと行かんとこれで叩くぞ!」


「うん。うんこして来る」


「そんな宣言いらんのじゃ! はよ行け!」


 ビシッ!と腕を叩くと、お父ちゃんが泣き真似を始める。


「あーん。反抗期だ。小さい頃はあんなに可愛かったのに!」

 本多くんの横を通り過ぎながら、

「君も苦労するぞ。こんな暴力嫁もらったらな。じゃっ!」


 ようやく行ってくれた。

 酔っ払いオヤジは本当にタチが悪い。


「ごめんね」

 あたしは本多くんに謝った。

「うちのお父ちゃん、バカだから……」


「いや。なんか俺、仲良くできそう」


 よかった。なぜかあたしはほっとした。


「戻ろうか」と、あたしが言うと、「うん」と本多くんが言い、動いたら手と手が触れた。お互いドキッとした動きをしてから、2人時間差を置いて大広間に戻った。




 ウルちゃんがあたしの席に座っていたので、じゃああたしはウルちゃんの席に……と行こうとしたら、絡まれた。


「なー、アリサぁー」

 ウルちゃんの声が粘っこかった。

「あのひとさー、奥さんいるのー?」

 顔も赤い。


 ウルちゃんの飲んでいるウーロン茶がなんだかやたらと黄色い気がする。まさかなあ……。


「あのひとって……カクさん? ウルちゃん、カクさんのこと好きなの?」


 恋とかには興味がない親友だと思っていた。


「あのひとさー、あたしのこと『お嬢さん』って呼んでくれたのー」

 ウルちゃんの息がなんかオヤジ臭い。

「『お嬢さん』だってよー。あたし、初めてそんなの言われたよー」


 確かにウルちゃんは知らない大人からは大抵「お姉ちゃん」とか「兄ちゃん」とか呼ばれている。


 そしてたぶん、カクさんがそう呼んだのは、単にウルちゃんの名前を知らなかったからだ。


「早く寝る部屋帰って恋バナしようぜ〜」


 ウルちゃんの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。

 やめておけ。カクさん47歳だぞ。奥さんはいないらしいけど、33歳差はさすがに……。それに動機が『お嬢さん』と呼ばれからだなんて不純すぎる……


「アリサ〜」

 フェニーちゃんがまたあたしに話しかけて来た。

「アリサ、アリサ〜」


 可愛い。言葉を覚えはじめて喋ってみたくて仕方がない幼児みたいだ。


 でもあたしも……そうだな。フェニーちゃんの好きな男の子とか聞いてみたい。


 でも……。そうか、言葉が通じないんだった。



 どうしよう。



 本多くん、呼ぶ?

 呼んじゃう?




 その前にまずはカラオケ大会だ。フェニーちゃんの日本語の歌が聴きたい。


 ごはんが終わると、みんなでセルフで食器を片付け、そのまま大広間でカラオケ大会に移行した。






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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで一気に読みました。 やっぱキャラがいいよね。 ハイペースで読んでもキャラがしっかりしているので、誰がどんなキャラか理解できる。 そしてリアル。こういう奴いるよねみたいな。 カク…
[一言] 「いや。なんか俺、仲良くできそう」 よかった。なぜかあたしはほっとした。 来てますね! ね?! 来てますよね( *´艸`)
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