犯人
算数の苦手なあたしはまた間違えた。・゜・(ノ∀`)・゜・。
大浴場はあまり大きくなくて、20人いっぺんには入れないので10人ずつ2組に分けて入ったと書いたが、考えたら違うだろ。
お泊り会の参加メンバーが女子だけで20人もいたと言うのか?
ソフトボールのチーム分けの時に書いただろう。『参加メンバーは女子11人、男子9人の全20人』と!
と、いうわけで、あたし達女子は10人全員が一緒に大浴場に入ったのだった。
え? 11人だったんじゃないかって?
もう1人は田中ここみさんという子で、彼女はアノ日だったので、お土産コーナーの隣のゲームコーナーでずっとパチスロを打っていたのだ。
めでたし、めでたし。
いや、めでたくはなかった。
この後、大変なことが起こってしまった。
あたし達は岩で囲まれた狭い湯船に10人まとめて浸かった。
「芋の子を洗うみたいだってよく言うよねー」と、マイちゃん。
「うちらイモかぁー」と、ウルちゃん。
「こんなかわいいイモ、いるかなー」と、緑子ちゃん。
「ふふふふ」と、キーコちゃん。
「はあ〜、きもちい〜」と、初登場の長友裕香ちゃん。
「台湾にも温泉って、ある?」と、フェニーちゃんに聞いたのは、これも初登場の茂部遥ちゃん。男子の茂部くんの双子の妹だ。
「台湾も温泉、アルヨ」と、フェニーちゃん。
「わー、行ってみたい!」と、あたし。
「信くぅ〜ん! そっちの声、聞こえるよぉ〜!」
張本さんが隣の男子風呂の高倉くんに甘い声を投げた。
「一緒にお風呂入ってるみたいだねぇ〜!」
「エロい……」初登場の織田わかなちゃんがポツリと言った。
女子風呂と男子風呂は古い木の壁1枚で隔てられており、向こうの声もよく聞こえて来た。
「菜穂ちゃ〜ん」
さっきの張本さんに応えて、壁の向こうから高倉くんの声が、聞こえて来た。
「そっち、みんな、すっぽんぽん?」
「うん。すっぽんぽんだよ〜。そっちはぁ〜?」
張本さんがサカリのついたメス猫みたいな声を返す。
それには答えず、高倉くんの声が言った。
「あとでみんなの乳首の色、教えてね〜」
ざばん!と浴槽のお湯が揺れ、女子全員が「いやいやいやいや!」と拒否反応を示す。
「信くんのバカ〜!」と、張本さんに怒られてる。
当たり前だ。自分の彼女の乳首の色だけ気にしとけ。
「すげー」
「すげー」
壁の向こうでホドリゲス忍くん、酒匂育生くん、茂部達也くん、掛橋優くん達らしき声が聞こえた。
「カクさん、すげー」
おっと!? カクさんも男子連中と一緒に入っているらしい。一体、何が凄いというのか?
「ボーボー!」
「ボーボーだ!」
何かの毛の話らしい。
カクさんの声が言った。
「フフフ。キミ達もあと5年もせずにこのぐらいなりますヨ」
自慢げだ。
「すげー」
「かたい!」
「でかい!」
何の話かわからなかった。
みんなで呆れて何の話かわからないふりをした。
壁の向こう側はリア充と体育会系男子の声ばかりで、本多くん、谷くん、中村くん、郷田くんの声はまったく聞こえて来ない。
「本多く〜ん」
あたしは張本さんの真似をするわけでもないけど、壁の向こうにいる彼に声を投げてみた。
「そっち石鹸なかったら言ってね? 投げるからぁ〜」
石鹸がないわけないだろう。自分の旅館だからそんなことあるわけがないと知っている。ただの話しかける口実だ。
壁の向こうからは何の返事もなかった。まったく、なんであんなにも無口なんだろう。大事なこともなんにも言ってくれないし……。
「本多くんて?」
みんながあたしの言葉に反応する。
「本多くんって?」
「有紗ちゃん、本多くんと付き合ってるの〜?」
「あ、いや……」
あたしが白々しく自分の言葉を誤魔化そうとしていると、壁の向こうから郷田太郎くんの声が聞こえた。
「オレ様のを見ろ!」
何のことだろう? と思っていると、体育会系4人の声が反応した。
「おおっ!」
「郷田くん、生えてる!」
「すげえ!」
「オトナだ!」
カクさんのフフンと笑うような声が聞こえた。
「フッ……。まだチョロチョロのヤワヤワですネ。産毛みてーだナ。かわいいワ、オマエ」
どうも郷田くんと絡むとボビーみたいになる。
しかしどうも妙だ。
いつもなら一番騒がしいやつの声がまったく聞こえて来ない。
「谷が大人しいの、不気味だね」
長友さんが声を潜めて言い出した。
「うん、あのお調子者が一言も喋ってるの聞こえて来ない」
茂部さんが同意する。
「ねえ、有紗ちゃん。ここって覗かれたり、しないよね?」
織田さんに聞かれて、あたしは答えた。
「うん。うちのお風呂だから安心して。そんな穴とかは……」
「オイッ!?」
ウルちゃんが急に何かを見つけたような声を上げた。
みんなで一斉にウルちゃんのほうを見ると、深刻そうな顔をして壁の一点を指さしている。そこに緑色のカエルがくっついていた。
「ひやあっ!?」
マイちゃんが怖がって声を出す。
「なんでこんところにカエルが!?」
「いや、カエルかわいいじゃん」
あたしはそう言いながら、
「こんなとこにいたら茹で上がって死んじゃうよ〜」
カエルちゃんを助けようと、手で捕まえた。
非常口のドアから逃してあげようと思ったのだが、カエルを退けて、えっ?と思った。
カエルが掴まっていたところの壁に、穴があった。こんな穴、知らない。ちょうど向こうからこちらのベストアングルを覗けるような穴だ。
『まさか……』
谷くんが覗いているかと思い、穴を覗いて見た。
向こうからは目、ではなく、カメラのレンズがこちらを見ていた。
あたしは思わず悲鳴を上げた。
「誰か向こうからカメラで撮ってるよ!」
あたしの声にみんなが反応した。
向こう側の男子たちも反応し、口々に、軽蔑を込めて、そちらでカメラを手にしているらしき犯人の名前を口にした。
「本多! てめー!」
「そのカメラ、何だ!」
「盗撮してんのか!?」
「お前、そんなやつだったのかよ、本多!」




