写真を撮ろう
本多くんが自慢のカメラで写真を撮ってくれた。あたしもフェニーちゃんもお揃いの浴衣姿で、並んでほっぺをくっつけたり、目を閉じてキスする真似したり、あんまり綺麗でもないうちの旅館のロビーが、あたし達の笑顔で華やいだ。
「本多くんも入んなよー。撮ってあげるよー」
カメラの操作を教わり、マニュアルモードだったのをオートに切り替えてもらって、あたしが本多くんとフェニーちゃんの写真を撮ってあげた。
それまでおどけてたフェニーちゃんが急にすました女優さんみたいになって、本多くんがファンの一般人みたいになるかと思ったら意外、彼もまるで映画の登場人物みたいで、違和感がなかった。
主役とヒロインと言うにはいくらなんでもおかしいけど、ヒロインの従兄弟の男の子役ぐらいだったら充分務まる。
うーん。あまりに大人しいから気がつかなかった。
次いでフェニーちゃんがあたしと本多くんを撮ってくれた。本多くんはフェニーちゃんと並んでる時には大して照れてもなかったのに、あたしと並んだ途端に真っ赤になった。
あたしもなんだか気持ちが幸せになって、ほっぺたが紅くなっちゃった。
「フェニーちゃんが、俺のカメラで色んな人を撮ろうってさ」
本多くんがそう言って立ち上がった。
あたしも一緒に立ち上がって、フェニーちゃんと手を繋ぐと、本多くんの背中を見ながら廊下へ歩き出した。
中庭に出ると高倉くんと張本さんが悪いことをしているところを見つかったみたいにこっちを向いた。チューしようとしてたところ邪魔しちゃったかな。でも写真を撮ると言うと、笑顔でぴったりくっついてポーズをとってくれる。どうかこれをただの『懐かしい写真』にしませんように。10年後ぐらいに彼らのスイートホームで一緒に見ながら『懐かしいなあ』って2人で言いますように。
2階に上がりかけたところで大浴場の前のベンチにキーコちゃんと谷くんが並んで何か話しているのを見つけた。本多くんがカメラを向けるとキーコちゃんは天使のスマイルを浮かべてピース、谷くんは悪魔みたいな目でじっとこっちを睨みつけて来た。10年後ぐらいにキーコちゃんがこの写真を見て青春の汚点だったと気づきますように。
2階に上がってマイちゃんとウルちゃんの無防備な寝顔を収めると、自動販売機コーナーへ。緑子ちゃんと郷田くんはまだそこにいて、ジュースを片手に昔話で盛り上がっていた。でも本多くんがカメラを向けた途端、サッとお互い距離を取る。
「ダメダメ。ちゃんとくっつきなよ〜」
あたしが言うと、緑子ちゃんはクールビューティーを取り戻し、
「こっ、こんな粗野な男と一緒に写りたくないですわ!」
そう言ってツンと反対側を向く。
「撮んな、てめー」
郷田くんはそう言って本多くんを蹴る真似をする。
そのまま2人は立ち上がり、なんか悪い夢でも見ていたかのような表情で、それぞれ男子部屋と女子部屋に戻って行った。うう……。邪魔してしまったみたいだ。
廊下の向こうを歩いているカクさんの後ろ姿が見えた。声を掛けようとして、挙動不審なのに気がついて、様子を見た。
女子部屋の前を通り過ぎようとしたところで立ち止まる。中で眠っている2人の姿を、柱の陰からじっと見つめている。
ウルちゃんは布団に顔を埋めてた。マイちゃんは最初に見た時とまったく変わらず、綺麗に上を向いて寝ている。浴衣を着たマイちゃんの大きな胸が、見事と言えるぐらいに上下している。
カクさんはそこにじっと立って、うっとりしたように見とれている。
その決定的な姿を後ろから本多くんに写真に収めてもらった。
それをネタにゆすろうと3人で話し合い、結局は削除してあげることに決まった。よかったね、カクさん。日頃の行いが良くて。
「楽しかったね」
「あは、楽しかった」
「好開心♪(楽しかった)」
参加者全員を写真に収めると、あたし達は3人で顔を見合わせて笑った。
そこでフェニーちゃんが思い出し、言う。
「エッ! ミロリちゃん、ゴウダタロウダくん、まだだ!」
そうか。あの2人をまだ収めてなかった。
どこにいるのかと探したら、すぐ見つかった。
女子部屋で、マイちゃんウルちゃんと離れて、畳んだ布団にもたれて2人で仲良く眠っていた。男子部屋ではプロレスごっこをやっているので、仕方なく郷田くんもこっちに来たのだろう。
しかし、仕方なくにしては、めっちゃくっついている。
向かい合って、ほとんど顔がくっつくのではないかというぐらい、まるで抱き合うようにして眠っている。お互いの顔に寝息がかかってそうだ。
ふふふ。なんてシャッターチャンスだ。ポン太くん、GO。
3人で寝顔を覗き込みながら、ニヤニヤしながら写真に収めてやった。彼と彼女は幼なじみだ、間違いなく10年後にも、20年後にもこの写真を一緒に見ることだろう。その時に2人の関係がどうなっているかわからないが、はっきり言ってこんなにお似合いの夫婦は滅多にいない。
そう思いながら、あたしがにこっとしながら顔を見ると、本多くんが「あはっ」と笑った。
さて、4時からはあたし達のために大浴場が開けてもらってある。
さてさてみなさん、
お待ちかねのサービスタイムですよ〜!
って、あたし、誰に言ってるんだろう?




