納豆の味
納豆を口に入れたフェニーちゃんが叫んだ。
「アッー!」
かわいい顔がとんでもない苦痛にゆがむ。
やっぱり無理だったんだ。台湾人に納豆は、無理だったんだ。
あたしは臭豆腐、美味しかったけど、無理もないよ。だって臭豆腐とは違って、息を止めて食べても納豆はネバネバで、口の中に臭さが広がるんだもん。
「ウエエエエ!」と舌を出して苦しんでいるフェニーちゃんを、みんなが幻滅したように見つめる。緑子ちゃんが泣いている。谷くんが悪魔みたいな顔で笑ってる。
「ほうら」
キーコちゃんが愉快そうに、言った。
「本性現した」
慌てて水を差し出すあたしよりも早く、フェニーちゃんは目の前にあったカレー皿を取ると、行儀悪くカレーを口にかき込んだ。口の周りにうんこのようにカレーがついて行く。ああ……。フェニーちゃんの偶像が音を立てて崩れて行く。
「ンッ?」と、フェニーちゃんの苦しみが止まった。
いきなり自分で納豆を全部、カレーの上にかける。
そしてスプーンを持って納豆カレーを勢いよく口に入れた。
「オイシイヨ!」
フェニーちゃんの目がキラキラ輝いた。
「スシ、オイシイヨ!」
残念ながらそれはお寿司じゃないよ、フェニーちゃん。
わあっ! とみんなの顔にも輝きが戻る。
どうやらカレーと納豆の組み合わせなら、口に合うようだ。それどころかとっても気に入ってしまったようで、フェニーちゃんはカレーも納豆もおかわりをした。
「あらよかった」
キーコちゃんがフェニーちゃんの隣にくっついて、微笑んだ。
「よかったね、ガフンちゃん。私、苦しめたかと思っちゃった」
いや、実際、一瞬は苦しんでたよ。
でもカレーに救われて、本当によかった。
それにしても、フェニーちゃんへの例の嫌がらせは、今のところ息を潜めている。スリッパの中に画鋲とか入ってるかもしれないから気をつけてとは言ってあるが、今のところそういうことはまったくない。
いいことなのだが、気を抜いてはいけない。
犯人の子は、今回参加した中にいて、虎視眈々と機会を窺っているのかもしれない。




