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ガフンちゃんとあたし 〜 言葉の通じない友達のことをもっと知りたい 〜  作者: しいな ここみ


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38/66

気をつけろ、あいつ魔法を使う

まだソフトボールが少し続きます

 四者連続ランニングホームランで4点を取られたが、ピッチャー郷田くんがその後をピシャリ、なんとかチェンジした。


 我がチームの攻撃。トップバッターは『すばしっこそう』『幹事だから』という理由であたしが立たされた。


 相手チームのピッチャーはフェニーちゃんだ。


 あたしはルーティンをしながら打席に入る。前髪をツンツンといじり、ちょっとおどけた踊りを踊ってから、「ニャー!」と大声でネコの鳴き真似をすると、バックスクリーンをイメージしてそこへバットを向ける。


 対抗心を燃やしたのか、フェニーちゃんもマウンドの上で、中学生にしては抜群のスタイルを揺らして踊り、急に横を向くと、おどけた動きで頭をカクカクと前後に動かす。そしてまた急にこちらを向いて「ミャオ、ミャオ、ミャーオ~」とネコの鳴き真似をしたかと思うと、あたしに向かってボールを突き出した。


 あたしの動作は何の感動も呼ばなかったが、フェニーちゃんの動きは『かわいすぎる』と、みんなをどよめかせた。


 一塁側のファウルグラウンドで緑子ちゃんが絶叫する。

「フェニたん! フェニたぁーーーんっ!」

 失神する勢いだ。


 ふん! これはソフトボールだ。かわいさ比べではない。ソフトボールで負けなければいいのだ。あたしは指でカモンカモンして挑発する。フェニーちゃんはニヤリと笑うと、振りかぶった。


 あれっ?


 何が起こったのか、まったくわからなかった。あたしはいつの間にか見送り三振していた。


 あたしは去り際に、次のバッターの掛橋傑かけはしすぐるくんにアドバイスした。

「気をつけろ。あいつ魔法を使うぞ」


「うぃーす」

 あたしの言葉を信じてないような返事をして、掛橋くんは打席に入った。

 完全にフェニーちゃんを舐めている態度だ。まぁ、転がせばヒットになるのは間違いないので、その態度はあながち不遜とも言えない。彼は陸上部の短距離走のエースなのだから。


 掛橋くんもしかし三球とも見送り、三振した。まるで魔法にかけられたように、棒立ちで。うっとりとした笑いを浮かべながら。


「んー。確かに魔法だった」

 ベンチに帰って来るなり掛橋くんは言った。

「なんか投球っていうよりダンスを見せられてるみたいで……思わず見とれてしまうんだ」


「それな」

 あたしは同意した。まるで同じライブを観終わって、興奮しながら感想を言い合うように。


 マウンドの上で、フリルのついた白いブラウスにガーターベルト付きの黒いズボンを穿いて、フェニーちゃんは異世界からやって来た魔法のダンサーのように踊る。それに見とれてしまっているうちに、いつの間にか三球ストライクを投げられてしまっているのだ。


 しかしクリーンアップはそうは行かないぞ。うちのチームが誇る最強の3番バッター、郷田太郎くんだ。彼に魔法は効かない。


「かっ飛ばせー! た、ろ、う!」

 緑子ちゃんがノリノリで声援を飛ばす。

「三振だー! フェ、ニ、たん!」

 どっちを応援しているのかはよくわからない。


 郷田くんは黒いキャップを目深にかぶり、フェニーちゃんの魔法にかからないように、ボールの出所だけを見ていた。さすがだ。


 カキーン!と郷田くんのバットが快音を放つ。守備の穴を狙うのは定石だ。セカンド谷くんを襲った打球は痛烈で、谷くんは思わず避けた。まぁ、グローブをはめていないので、谷くんでなくても避けるだろう。取ったら、痛い。


 4番、酒匂さこうくんも帽子を目深にかぶった。これも痛烈な打球がセカンドに飛ぶ。谷くんは真っ正面のライナーをまた避けた。せめて体に当てて止めろよ。


 5番の茂部もべ達也たつやくんもセカンドを狙う。今度は谷くん、避け損なって体に当たり、前に落としたが、内野安打になった。ツーアウト満塁だ。


 ここで6番は漆原。漆原舞。マイちゃんだ。


 えーと……。打席組んだの、誰?


 主審のカクさんがニコニコ優しく笑いながら見守る。


「なんで……わたし?」

 マイちゃんは打つ前から諦めている。

「なんでここで……わたしなの……?」


「おカーさん!」

 マウンドの上からフェニーちゃんが日本の母マイちゃんに声を掛けた。

「Slow! Slow Ballヨ。OK?」


 そう言った通り、フェニーちゃんは山なりのボールを投げてくれた。

 マイちゃんはそれを目で必死に追って、顎が上がる。ボールが落ちて来た時にはその大分上を、力ないスイングでバットが通った。振り終わって転んでスカートの中身をまた全員に披露しそうになったのをキャッチャーのホドリゲス忍くんが優しく支えてくれる。


「頑張れ! 漆原さん!」

 キーコちゃんが声援をくれる。

「ホームラン打ったら一発同点だよ!」

 無理を言う。


 さっきの優しすぎるボールでも打てないのを見て、フェニーちゃんがマウンドを下りて来た。マイちゃんの真ん前にしゃがみ込んで、そこからポイッとボールを投げてくれる。トスバッティングだ。しかしマイちゃんは思い切り振り遅れ、空振りした。


 マイちゃんの言うこと聞いてあげてればよかった。ツーアウト満塁でキーコちゃん対フェニーちゃんの勝負だったらどれだけ試合は白熱しただろう。


 ノーボール、ツーストライク。マイちゃんがとても打てそうにないので、トスを送る人と打つ人が交代した。打席に入ったフェニーちゃんが、マイちゃんのトスするボールを待つ。……あれ?



    かっきーん!



 白球が空へ飛んで行った。


 満塁ホームランだ。同点だ。






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― 新着の感想 ―
[一言] えっ?? なんと これは… 続きが激しくきになりますが 仕事してきます(^^;)
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