表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガフンちゃんとあたし 〜 言葉の通じない友達のことをもっと知りたい 〜  作者: しいな ここみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/66

全員集合!

「わぁ! 素敵な旅館だね」

 キーコちゃんがあたしの家を見上げて、言った。


「趣あるぅ~! 日本の旅館て感じ」

「赤い屋根がいい感じ。趣あるぅ~!」

 張本さんと高倉くんが同じテンションと口調で、イチャイチャしながら言った。


「ちっちゃい旅館だけど、一応大浴場もあるよ」

 あたしはみんなを案内して入口に向かいながら、振り向いて言った。

「みんなで同じ屋根の下で寝れるなんて、楽しいよね!」


「うんうん! 提案してよかったぁ~」

 キーコちゃんが眩しい笑顔でうなずいてくれた。


「あはっ」と、本多くんが笑ってくれた。


 張本さんと高倉くんは何やらヒソヒソ話をしてる。たぶん夜になったらお互い、男子と女子の部屋をそれぞれに抜け出す相談だ。まぁ、好きにさせてあげよう。


 全然立派じゃない、どちらかっていうと地味なうちの旅館の見た目をバカにされるかと思ったけど、谷くんはやたら大人しかった。最近いっつもしてる悪魔みたいな目つきで、何もないほうの横を向いてる。


 あたし達がちょうど旅館に入ろうとしたところに、白い小型トラックがやって来た。荷台にプラスチックのお酒の空き箱をたくさん乗せてる。トラックの横には『西園寺酒店』と書いてある。


 助手席のドアが開いて、黒いパーカーにだぼついた黒い綿ズボン姿の、つまりは真っ黒けな郷田太郎くんが、面倒臭そうに降りて来た。続いて真ん中の席に乗っていた緑子ちゃんが、目立ちまくりの真っ赤なドレス姿でうきうきと降りて来る。


「ちょっ! 太郎! 早く退きなさいよ」

 緑子ちゃんが言った。


「っせーな。てめーの動きが速すぎんだよバーカ」

 郷田太郎くんは背中を緑子ちゃんにつつかれながら、面倒臭そうにノロノロ歩く。


「あのっ……? 緑子ちゃん?」


 あたしが声を掛けると、緑子ちゃんはぱあっと顔を明るくして、

「有紗ちゃん! 来たよぉー! フェニたん、もう来てるかなーっ?」

 真っ赤なドレスをヒラヒラさせて、踊るように聞いて来た。


 あたしは質問に質問で返した。

「あのっ? 郷田くんと緑子ちゃんって、どういう関係?」


「っせーな!」

 郷田くんが高いところからあたしを睨み下ろして来る。

「お隣同士だよ! 幼なじみだ! なんか悪りィーのか!?」


「ええーー! 仲よかったのー!?」

 あたしとキーコちゃんが声を揃えた。


「腐れ縁よ。仲がいいわけじゃ……」

「っせーなー! どーでもいいだろ!」


 2人は真っ黒けと真っ赤っかで、背の高さもスタイルもいい感じで、並ぶとなんだか格好良くて絵になる。お似合いのカップルみたいに見えた。

 教室じゃまったく絡んでるところ見たことなかったので、知らなかった。この2人がまさか、幼なじみの仲良しだとは!


「……で、フェニたん、まだ来てないの?」


「うん。もうそろそろ来ると思うんだけど……」


「フェニたんに見せたくて、これ着て来たんだ。……場違いだったかな?」

 緑子ちゃんは真っ赤なドレスをヒラヒラさせながら、今更になって恥ずかしくなったのか、赤いハイヒールで小石を蹴った。


「ううん! よく似合うよ!」

 あたしは褒めるのを頑張った。

「でも、入ったら浴衣に着替えようね!」


「緑子のくせに真っ赤っか……」

 郷田くんがバカにする口調で笑った。


「言うなーっ!」

 緑子ちゃんが郷田くんのお尻を蹴る。


 そこへ並んで自転車でウルちゃんとマイちゃんが到着した。


「おーっ! 賑やかに集まってんなー!」

 さすがウルちゃんだ。お洒落っ気まったくないグレーのジャージの上下でやって来た。


「お世話になりまーす」

 マイちゃんはあたしのお母ちゃんに言うように、あたしにぺこりと頭を下げる。

 かわいいブルーのブラウスに清楚な花柄の白いスカート。さすがは今日の準主役だ、お洒落してる。


「フェニー、まだ来てないのか?」

「フェニーちゃん、まだなの?」


「うん。お父さんとお母さんと、もうすぐ来ると思うんだけど……」


「あ」

「あ……!」

「来たーーー!!」


 みんなが注目する方向から、角を曲がって、ご両親をまるでSPのように付き添わせて、フェニーちゃんが現れた。

 みんなで大声を出してから、息を呑み、ほうっと溜め息を吐いた。


 白いフリルのついたブラウスに、サスペンダーのついた黒のズボン。そんなシンプルな格好なのに、ファッション雑誌の1ページを切り抜いたみたいだった。

 今日は黒い長髪をポニーテールにして、前髪は真ん中から分けて綺麗にセットしている。

 笑顔が秋の空気をまるで照らすように、周囲を明るく爽やかにしている。

 お父さんとお母さんを後ろに置いて、手を振りながら駆けて来た。


「フェニーちゃーん!」

 あたしは両手を大きく広げて、彼女を迎えた。


 その隣で緑子ちゃんもめっちゃ笑顔で両手を広げて待ち構える。


「Alissaー!」

 そう大声で言いながら、フェニーちゃんがあたしに抱きついて来る。


 あたしもハグを返し、スタイルの整ったその体をぎゅーっと抱きしめた。


「Alissa! キタヨ!」


「いらっしゃい! フェニーちゃん!」


 異世界のお姫様みたいなキラキラした顔が、あたしの目の前で笑っている。


「もぉーっ!」

 隣から緑子ちゃんが膨れっ面で割り込んで来た。

「あたしもするのーっ! フェニーちゃんとハグっ!」


「オオーゥ! ミロリちゃん! アカーイね!」


 真っ赤っかな緑子ちゃんはフェニーちゃんとハグを交わすと、笑顔まで真っ赤っかになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ここまで一気に読みました。 私的に“犯人の目星”をつけて ドキドキしながら でもそんなこと、いとも簡単にすっ飛ばすほどの最後の一文 『真っ赤っかな緑子ちゃんはフェニーちゃんとハグを交わす…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ