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ガフンちゃんとあたし 〜 言葉の通じない友達のことをもっと知りたい 〜  作者: しいな ここみ


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31/66

土曜日

 一番最初に言ったと思うけど、あたしにコミュ力があると思うなら、それは間違いだ。

 あたしと特別仲のいい友達はウルちゃんとマイちゃんだけだった。最近になって、嬉しいことに、緑子ちゃんとも仲良くなれたけど。


 あたしは自分のお節介さを自覚してる。

 なんでも深く首を突っ込みすぎるところがあって、それで小学校の頃に、隣の席だった男の子に嫌われたことがある。


「お母さんかよ!」


 その言葉が胸に刺さり、それからはなるべく他人と距離を取るようになった。



 ウルちゃんとは小学校の頃からずっと一緒で、彼女の豪快で世話を焼かせない性格は、あたしと相性がよかった。ほっといても心配のいらないシベリアンハスキー犬みたいなもので、気をつけて距離をとらなくても気軽につき合える。


 マイちゃんは中学に上がってから友達になった。ウルちゃんとは正反対で、大人しくて泣き虫で、世話を焼きまくってあげたくなる。そして彼女も母のような性格で、あたしの世話をしてくれたがる。お互いのお節介欲を満たし合える彼女も、あたしにとって相性のいい相手である。


 そんな感じで、あたしは決して大人しい子ではないながら、友達は少なかった。


 このお泊まり会で、親しい子、いっぱい増えるといいな。






「土曜日だ……」


 朝、あたしは目を覚ますなり、呟いた。


「土曜日がやって来た!」




 うちの学校では修学旅行は5月に行われる。つまりもう終わっていて、みんなで九州へ行った。もちろんその時、フェニーちゃんはまだいなかった。


 今日はフェニーちゃんを交えての、あたし達にとっては2回目の修学旅行みたいなものだ。

 


「お父ちゃん、お父ちゃん!」

 あたしは階段をだだーっ!と駈け下りると、ロビーでぼけーっと新聞を読んでいる父に言った。

「カラオケセット! スポットライト! 用意してくれた?」


「フフフ……、有紗。俺を誰だと思っている」

 お父ちゃんはそう言って親指をグッ!と立て、ウィンクをして来た。

「マイクスタンドはちゃんと舞ちゃんの背の高さに合わせ済みさ!」


 きもっ! と思ってスルーして、お母ちゃんを探した。

 お母ちゃんは厨房で、お客さんの朝食を作るのを手伝っていた。


「お母ちゃん! 手伝う!」


 あたしが言うと、お母ちゃんは邪魔者を見るような笑顔で、

「ここはいいよ。どうせあんた達に出すもんは、これとは違うから」


「あ。普通のお客さんに出す料理とは違うんだ? 何出してくれるの?」


「冷凍食品のポテトとか、カレーとか、揚げ物とかだよ。そんなもんのほうが嬉しいだろ? 板さんの作る凝った料理より」


「うん!」

 さすがお母ちゃんだ。わかってる。

「じゃ、あたし、何したらいい?」


「とりあえず何もしなくていいよ。その時になったら呼ぶから、お友達を案内しておいで」


「ありがとう、お母ちゃん!」


 あたしは旅館の自動ドアを飛び出して、集合場所のバス停へと向かおうとした。


 おっと、その前に……。


 思い出して、引き返し、旅館の2階のカクさんの部屋へと向かう。



「カクさん! カクさん!」

 襖を叩いたけど、中から返事がない。

「カクさん? おはようカクさん調子はどう?」


 やっぱり返事がない。


 嫌な予感がした。


 襖に手をかけ、開こうとする。中からつっかえ棒でカギがしてあった。


「お父ちゃーんっ!」

 急いで階段を駈け下りると、お父ちゃんはまだぼけーっと新聞を読んでいた。

「カクさんが……、カクさんが様子がおかしいの! 中でおかしくなって倒れてるかも!」


「何だと!? それは大変だ!」

 お父ちゃんは血相を変えて立ち上がり、カウンターの中から秘密道具を取り出した。

「開けるぞ! 緊急事態だ!」


 大きな鉄の、棒状になった先にカギみたいののついた『バール』という秘密道具を手に持ったお父ちゃんと、あたしは階段を駈け上がった。


 カクさんの部屋の前に立つなり、中に言葉もかけず、いきなりお父ちゃんはその秘密道具を豪快に振った。

「おりゃああああ!!!」


 ずばごおおおん!


 カクさんの部屋の入口の襖に大穴が空く。


 穴の向こうに布団から身を起こしたカクさんが目を丸くして現れた。


「ありゃっ!?」

 お父ちゃんが叫ぶ。


「おりょっ!?」

 あたしも叫んだ。


「な……、何なんデスか……」

 カクさんが呆然としながら、言った。




 カクさんは昨夜、仕事で遅くなったので眠りが深かったのだそうだ。部屋のテーブルの上にはパソコン関係の機械が散乱していた。えっちなものは見あたらなかった。


 あたしはカクさんの部屋の後始末をお父ちゃんに任せ、バス停へ向かった。

 登り坂を駆け上がり、工場の塀に沿って走り、角を曲がると、バスで来る予定の7人がもう来ているのが見えた。


「おーいっ!」


 あたしが手を振ると、向こうも振り返してくれる。


 みんな私服だ。チェックのシャツを着た本多くんが控えめな手つきで笑いながら手を振ってくれた。張本さんと高倉くんは揃って手を振りながら、しっかり手を繋いでラブラブを見せつける。


 キーコちゃんは白い上着にピンクのプリーツスカートで頭にはかわいい帽子をかぶり、アイドルみたいだ。その手に繋がれた谷くんは茶色のトレーナーで、飼い主に連れられた猿みたいだった。

 キーコちゃんはいつものスマイルで手を振ってくれたけど、谷くんはあたしを無視して横を向いていた。


 もう2人はそれぞれ男子と女子で、2組のカップルを横目になんだかもじもじしている。


 ウルちゃんとマイちゃんは自転車で来ると言っていた。緑子ちゃんはお父さんの小型トラックで送って来てもらうらしい。


「待たせてごめんねー。案内するよー」


「今日はよろしくねー」

 キーコちゃんが言った。


 本多くんも口だけ動かして何か喋ってくれたようだったけど、聞き取れなかった。


 あたしはツアーのお客さんを案内するように、にこにこ歩き出した。



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