表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガフンちゃんとあたし 〜 言葉の通じない友達のことをもっと知りたい 〜  作者: しいな ここみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/66

前日

「谷っ! ざけんな!」

 ウルちゃんが立ち上がり、激怒している。


「なんですか?」

 谷くんはいつものニヤニヤ笑いを浮かべてウルちゃんを見た。

「妬いているんですかぁ~? ウルトラのちちさん」


 クッ! と危うく出かけた笑いをあたしは噛み殺した。

 谷くんがみんなにつける変なあだ名はしょーもないと思っていたのに、初めてツボってしまったのだ。ウルトラのチチさんて……。チチさんて……。ごめん、ウルちゃん。


「キーコちゃん! そいつ、フェニーちゃんの外履きの中に画鋲入れやがったんだよ!?」

 ウルちゃんは大声で、谷くんを指さしながら、言った。

「なんでそんなやつとイチャイチャしてんの!? キーコちゃんみたいな子が? そいつ、サイテーなやつなんだよ?」


「証拠はあるの?」

 キーコちゃんは冷静な顔をして、言った。

「翔くんがそれをしたって証拠があって言ってるの? 潤虎うるとらさん?」


「証拠は……ないけど、そいつしかいないっしょ! クラスに他にそんなやついないから……、消去法だよ!」


「ひでぇな……」

 谷くんが傷ついたような顔をする。

「ウルトラのちちが俺をいじめるよ~……! なんとか言ってやってくれよぉ、キーコぉ~」


「あたし、翔くんを信じるよ」

 キーコちゃんがウルちゃんを見る目が怖い。


「ありがとう! キーコぉ~!」

 そう言って谷くんが、キーコちゃんのピンクのほっぺにキスをしようと飛びついた。


 キーコちゃんはさっとそれを避け、

潤虎うるとらさん、もうお泊まり会、明日だよ? みんなの楽しい空気を壊すのやめて」


 ウルちゃんはそう言われて、黙るしかなかった。


 あたしはというと、なんだか不自然なものを感じてしまっていた。

 さっき、谷くんのキスを避ける時のキーコちゃんに、不自然なものを感じてしまっていたのだ。

 彼氏にキスされそうになったら普通、避けるにしても、嬉しそうな顔するもんじゃないのかなぁ……。

 さっきのキーコちゃん、まるでゴキブリが飛んで来たのを避けるみたいだった。




 給食が終わり、みんな食器を片づけに立ち上がる。

 フェニーちゃんも食器を持って立ち上がると、足をひきずって歩き出した。


「そんなに深い傷なの?」

 キーコちゃんがそれを見て、あたしに話しかけて来た。

「かわいそう……。そんなことする人がクラスにいるなんて……」


「これが初めてじゃないよ。前にはひどいこと書かれた紙が下駄箱の中に入ってた。誰かが陰湿にフェニーちゃんのこと、いじめてる」


「まだ……続くかもしれないね?」


「うん。とりあえずあたしが注意して見てあげてるけど、今日は何もなかった。椅子の上に画鋲とか、机の中にナイフの刃入りの怪しげな手紙とか、あるかと思ったけど」


「でも、谷くんじゃないからね?」

 キーコちゃんは表情を少し怖くして、言った。


「うん。たぶん、谷くんじゃない」


 あたしがそう言うと、キーコちゃんは不思議そうな顔をした。


「なんで? 潤虎うるとらさんはあんなに疑ってたのに、仲良しの須々木さんは違うって思うの?」


「カンとしか言いようがないけど……」

 あたしは思った通りのことを言った。

「犯人は女子じゃないかって気がするんだ」


「女子?」


「うん。なんとなくだけど……」


「じゃ、漆原さんなんじゃない?」

 いつの間にか隣にいて、話を聞いていたらしい西園寺緑子ちゃんが、言った。


「なっ、なんで私……!?」

 そこにずっといたマイちゃんが驚いて声を上げる。

「私がなんでフェニーちゃんをいじめるの!?」


「だって明日のお泊まり会、フェニたんとの交流会がメインになるでしょ?」

 緑子ちゃんは名探偵のように言う。

「漆原さんの誕生会は『ついで』……。君はそれが気に入らないんだ。……と、いうことで……」

 マイちゃんに指を突きつけた。

「犯人はおまえだーーっ!!」


 あはははは!と、あたしとウルちゃんとキーコちゃんが笑う。緑子ちゃんも笑い出し、つられてフェニーちゃんも笑った。マイちゃんだけ泣きべそをかきそうになっていた。


「とりあえずさ、明日のお泊まり会、楽しもうよ」

 キーコちゃんが森野スマイルを浮かべて、言った。

「犯人探しとかは置いといてさ」


「うん、そうだね! 楽しいことだけ考えよう」


 あたしはそう言ってうなずいたけど、心の中では不安でしょうがなかった。


 これもただのカンだけど、何か嫌な予感がしてしまって、それが消えなかった。


 フェニーちゃんに嫌がらせをしている犯人は、明日参加するメンバーの中に、いる。


 そんな気がしてならなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ウルトラの父さん……笑いました。 主人公が笑いをこらえるくらい面白がるのすごく分かります。 >「かわいそう……。そんなことする人がクラスにいるなんて……」 ううん……(^-^; 漆原さん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ