お嬢様
「わぁあっ!? フェニーちゃん! どうしたの!?」
廊下ですれ違った西園寺緑子ちゃんが、ウルちゃんの肩を借りてヒョコヒョコ歩いて来るフェニーちゃんを見て、声を上げた。
あたしが事情を説明すると、緑子ちゃんは頭から湯気が出る勢いで怒り出す。
「誰よ、そんなひどいことするやつ!」
「谷だよ」
「谷くんに違いないよ」
ウルちゃんとマイちゃんが声を揃えた。
「ねえ、緑子ちゃん」
あたしは気がついて、言った。
「フェニーちゃん、徒歩通学だから、帰るの辛いと思うんだよね」
緑子ちゃんはそれだけであたしの言いたいことを理解してくれ、落雷を受けたように痺れると、めっちゃ嬉しそうに顔を笑わせ、スマホを取り出した。
「わっ、わかったわ! ちょうどよかったわ、あたし、まだ帰る前で」
スマホを操作しながら、
「お車で送って差し上げますわっ! う、うふふ……。わたくし、フェニたんと一緒に帰れますのね!」
急にお嬢様言葉になった。
西園寺緑子さまは毎日、迎えの車に乗って帰宅されているのだ。フェニーちゃんが足を引きずりながら帰るのは大変だろうからとお願いしてみたら、大喜びでお引き受けになってくれた。よかった、無理なお願いしてみて。帰る方向、全然違うのに。
「あっ。爺や? 悪いけれど少し遅くなりますわ」
緑子さまは電話の向こうの爺やに言った。
「お友達がお怪我をしましたの。足にですのよ。歩くのがご不自由ですの。逆方向になりますけど、送って差し上げて欲しいのですが……いい?」
『なんだ、その喋り方』と、電話の向こうのおじさんの笑い声が聞こえた。
緑子ちゃんの家は酒屋さんだ。毎日お父さんが配達で下校時間に近くを通っているので、小型トラックで迎えに来てもらっているのだった。
「もうっ! お父さんも合わせてよっ!」
緑子ちゃんはぷんぷん怒った。
保健室で治療を受けて、フェニーちゃんは3人乗りの小型トラックに乗り、緑子ちゃんと体をくっつけて、楽しそうにあたし達に手を振り、帰って行った。
非現実的美少女を乗せて、お父さんは嬉しそうだった。緑子ちゃんはもっと嬉しそうだった。




