功夫(クンフー)!
授業が終わるとウルちゃんとマイちゃんがやって来て、あたしに聞いた。
「アリサ、ガフンちゃんと仲良くなったのー?」
あたしは自慢する顔を作って、答えた。
「うん! 言葉を交わせばもう親友だよ」
「アリサ、台湾の言葉わかるん? さすが旅館の娘だなー」
「わからんけど、日本語と台湾語でも、笑顔があれば会話できるんだよ」
「台湾て、どこにあるん? 中国の中?」
「知らんけど、近いんじゃない?」
「ガフンちゃん、やっぱ中国拳法とか使えるんかな」
「それ、日本人ならみんな忍術が使えるみたいなよくある間違いじゃね?」
「あ! あれやろうよ! ガフンちゃんの前で披露しようよ」
「おー。あれ? やろっか」
あたしは立ち上がり、言った。
「ガフンちゃん、見ててね?」
ウルちゃんがあたしに向かって立つ。両手を腰のあたりに構えて、腰を落とす。テレビで見た気功の達人の真似をしているのだ。揃えた掌をあたしのほうへ突き出し、しゃがれた声で叫んだ。
「ハァーッ! 気功拳!」
あたしはそれを受けて後ろへ吹っ飛んだ。もちろん本当に飛ばされたわけではない。演技だ。迫真の演技であたしは後ろに吹っ飛ぶ。大丈夫ですよ、マイちゃんが後ろで受け止めてくれるから。
撮影して動画サイトにアップしたこともある、あたし達得意の持ち芸だ。再生回数も40万を誇る。
「ワァーオ!」
声を上げながら、ガフンちゃんが立ち上がった。
「タイバンラー! タイバンラー!」
なんかそんな言葉を言いながら、大きく口を開けて笑い、拍手をしてくれた。
昼休みにはクラスで一番お調子者の谷くんがやって来て、ガフンちゃんの机に手をついて顔を覗き込み、
「ガフン! ガフン!」
と、咳をするみたいな言い方で、彼女をからかいにかかる。
「ちょっ……! やめなよ」
あたしは思わず注意した。
「いじめだよ、それ。あたし許さんからね!」
するとあたしのほうへ振り向き、
「やあ! 変な名前のススイさん!」
と言って笑う。
そしてまたガフンちゃんのほうを向くと、おもむろに、彼女の髪を掴んだ。
びっくりしてガフンちゃんが飛び上がるような動作をする。
「台湾にもいた! 貞子!」
アホな大声でそんなことを言いながら、谷くんはニヤニヤ顔でクラスのみんなに見せつけるように、
「貞子は世界共通語!」
ウケを狙ったようなことを言ったが、誰も笑わなかった。
ガフンちゃんが立ち上がった。
怒っていた。
谷くんより背が高い。
はっきりした大声でまくし立てた。
「ㄗㄚㄢー!ㄔㄊㄨ!ㄜㄝㄡ!ㄍㄅㄈㄉㄈ、ㄖㄠㄙㄒㄋㄓー!」
意味はまったくわからなかったが、彼女が意外と気が強いらしいということはわかった。
谷くんはヘラヘラ笑いながら、逃げて行った。