日常
異世界要素+ロボットの組み合わせがおもしろそうだと思ったので書き始めました。本格的な展開は次回以降となります。SFかと思ったのですが、一応転移はしてるので異世界ものにしておきました。
第二次世界大戦中、日本とアメリカ合衆国の間で行われた太平洋戦争は原爆投下による癒えることの無い傷を日本の国土に残し、終了を迎えた。終戦後の日本はアメリカ合衆国の植民地として、世界のあらゆる人種の移住を認めざるを得なくなり、結果として第二のサラダボールになった日本においてはかつての文化は薄れていき、白人黒人黄色人種に関わらず、皆が英語を話すようになっていた。
そして時は流れ、西暦2082年。
-日本、首都第二ハイスクール
日本の首都である東京の各地に設置されたハイスクールは終戦後、アメリカとの関係に保守的である政府の意向によって設立された、表向きにはグローバルな教育機関である。
しかしその実態は勝戦国側の出身である生徒たちによる学内統治が行われていた。
何も生徒たちも何年も前の戦争のことを引き合いに出しているわけではないが、終戦から今日まで積み重ねてきた各国の関係性や日本、ひいては日本人の姿勢が、国土において外国人の支配を許してしまっている。
-午前10時31分、同場所、第四棟
ハイスクールには様々な部活があり、それぞれの部に部屋が支給されている。それらが一極集中しているのが第四棟である。その施設の三階、階段から一番遠い科学部室の中で黒髪の少年が機械をいじっていた。
「リュウ、あなたまた授業をサボっているの?」
部屋に溜まっていた鬱屈な空気はドアが勢いよく開かれると同時に一目散に逃げていった。少年は振り返ることはなく続ける。
「こんな時間に四棟をほっつき歩いてるんだ、君もだろセリィ。」
「勘違いしないで、先生から頼まれたのよ。あなたこのままだと出席が足りなくなるわよ?」
金色の髪を手で梳きながら彼女は言う。
「いいさ、そんなもん。ハイスクールだって親父の口利きで入ったようなもんさ。」
「不貞腐れたように言って、後で泣くのは貴方なのよ!?」
ズカズカと部屋に入ってくるなり、有無を言わさず襟をつかまれる。
「ちょ、ちょっと待てよ! 作業着なんだ、着替えるから先行ってろよ。」
「そういってっ…どうせ来ないでしょ!」
「分かったって! あっち向いてろすぐ準備するから。」
着替えて時計を確認すると36分、あと4分で講義が始まる。
「誰かさんのおかげで遅刻しそうだわ。」
「誰も頼んでないだろうよ」
小走りで移動していく中、廊下の窓から差してくる光がアルミサッシに所ところ遮られて、目を刺激してくる。そんなことも気にせずに彼は先ほどまで作成していたロボットの回路について考えを巡らせていた。
彼の名前はリュウ・ムナカタ。16歳になるハイスクール一回生である。
-午後12時46分、1-3教室内
リュウはノートに向かってセリィを待っていた。本来であれば昼休みが始まる40分から一分と経たずして昼食を食べに来るのだが、頼まれごとでもあるのだろうか、訪れる気配はない。
「ようリュウさん、彼女さんは来てないのかい?」
リュウのちょうど右斜め後ろの方向からちょっかいをかけてくる茶髪の白人。
「彼女じゃないし、忙しいんだ。話しかけないでくれ。」
「あーあーいいよなぁ、授業も受けずほっつき歩いてる奴なんかがいい思いしてさぁ。」
「暇なんだな、君は」
「なんだと!?」
「暇じゃなかったらこんなサボり魔になんか話しかけないだろ? だからだよ。」
「お前っ...! 親父が社長だか知らないが、調子になるなよ!」
怒りに任せて席を立つリュウ。両者の間には不穏に空気が流れ始めていた。
「親父は関係ないだろ!」
「へっ! 片親でボンボンとは救いようがないなあお前?」
その言葉を聞いた瞬間、リュウは握りしめてこらえていた拳を振るう。殴ってもまだ、怒りが収まらずに息を荒げている。
「もう一度言ってみろよ! この野郎!!」
「母親がいないから、引きこもりみたいなことやってんだろつってんだよ!」
「もう一度殴られたいかよ!」
体勢を崩している茶髪に対してリュウは再び殴り掛かる。しかし、腰を狙った相手のタックルをよけきれず、倒れこんでしまう。
そこからはもうひたすらに殴りあった。馬乗りになり数発殴ったら位置が入れ替わり…そんなことを繰り返しているうちに教員の仲裁が入り、互いに急遽生徒指導という形になった。
-午後3時46分
「ケガ、傷まない?」
セリィはリュウの頬にできた傷を心配そうに見つめる。
「よせよ、男の喧嘩だ。」
「お母さまのこと、言われたの?」
「…片親だからって言われたんだ。」
隠しきれない苛立ちにリュウは思わず爪を噛んでいた。
「やめなさいよ、その癖。」
双方の喧嘩は顔にあざが残るほどのものであり、常軌を逸しているとされ、保護者を呼び出されることとなり、次にトラブルを起こしたら停学処分になると忠告されるだけで一応の決着がついた。
-午後5時12分 ソウイチロウ・ムナカタの車内
リュウは父親が運転する車の助手席で頬杖をつきながら外の景色を眺めていた。町並みは赤く染まり、どこか懐かしい感じとすでになり終えたチャイムの音が頭をよぎる。
彼の父親であるソウイチロウ・ムナカタは軍需メーカーの社長を務めている。リュウが幼くして機械工学やプログラミングなどに興味を持ったのは父親の影響であることは言わずもがなである。
「珍しいな、喧嘩なんて。」
「そう? 知らないだろ父さんは、僕がハイスクールで普段何してるかなんて。」
二人がこうして話すのは実に数年ぶりであった。武器の需要はかりそめの平和教育が広まるのに反して、年々増加している。多くの死者を出してもなお、人間は戦争を辞められずにいた。
「リュウは嫌いか? 父さんの仕事が。」
「しょうがないものだと思ってるよ。世の中殴られないと分からないやつもいる。」
会話は途切れ途切れで、会話を終えるたびに車内には重苦しい沈黙が流れていた。しかし、意を決したようにソウイチロウは話す。
「リュウ、母さんのことまだ気にしているのか?」
その言葉にリュウは眉を動かさずにはいられなかった。
「母さんを殺したのは自分だと、まだ思っているのか?」
リュウの母親であるサクラ・ムナカタは彼が物心つき始めたころにこの世を去った。死因は激しい精神衰弱によるものであった。
「覚えていないだろうがな、母さんは記憶喪失状態だったんだ。お前が気に病むことはないだろう。」
「聞いたよ。その話は何度も。」
リュウは顔をしかめながら続ける。
「でもね、母さんは言ったんだよ。お前なんか産んだ覚えはないって。 母さんは俺のせいで心を病んでしまったんだ。」
「それは違うぞ、リュウ」
「違うもんかよ!」
ソウイチロウは車を停車させ、リュウもこの時初めて父親と目を合わせた。
「父さんは、苦しくないのかよ! 新しい女なんか作って、愛してたんじゃなかったのかよ!!」
「黙れっ!!」
激高したソウイチロウはリュウを平手打ちする。しかし、すぐに我に返ったようで後悔したような表情をしていた。
「すまない…つい…」
リュウはうつむき答える
「いいよ、もう。 自分だけ幸せになっていればいいだろうよ!!」
言葉を吐き捨て車から逃げ出す。ソウイチロウはもすぐに追いかけようとしたが、車を出たころにはリュウの姿はなかった。
-午後10時56分 旧商店街跡地
終戦から高度経済成長期を遂げ、都心から革新が起こる中で、商店街は総合商業施設の台頭により、店のみを残し、寄り付くのはホームレスだけであった。
その中でリュウは寝床を探してさまよっていた。
「ここらへんでいいか」
大通りから離れ、本来であれば小さな居酒屋が並んでいたであろう通路の端に寝っ転がる。リュウはいわゆる御曹司であるが野宿には慣れていた。母親が死んでからこうして家出をしたことが何度もあるからだ。
今回も少ししたら戻ってくると父親は騒ぎもしないだろうと決め込み、リュウは目を閉じる。
(何やってんだろうな僕は、どんなに喚いたって母さんが戻ってくるはずないのに。)
考え事をしていたつもりが少しずつ意識が薄れていく。10分と経たない内にリュウは眠りについた。また明日も同じように日常が続くだろうと。
この世界線における最後の日だとは思いもせずに。
よろしければ評価の方よろしくお願いします。