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少年ケイルと導きの書  作者: 朝昼夜
2/2

二話

「ただいまー」


「あらケイル! おかえり!」


家に入ると、母が出迎えてくれた。ふくよかな体は変わっていないが、心なしか少ししわが増えたような……?

「何まじまじ見てんのよ?」


「え!? な、なんでもないよ?」


 母は怒らせると怖い。慌てて話を逸らす。


「帰って早々変な子ね。その巻物は何?」


「こ、これもなんでもないよ」


 というか、何なのかわからないといった感じだ。


「そう? そうだ、学校生活はどうだった?」


「まぁ、そこそこ楽しかったかな。色々勉強できたよ」


「ならよかった。おなか減ってたりしない? 料理ならすぐ作れるけど」


「んー、まずは風呂に入ろうかな」


「お風呂はお父さんが入ってるわよ」


「あ、そうなんだ。じゃあご飯食べようかな」


「はいはーい」


 居間に行き、テーブルに着く。四年前とほとんど変わりない、田舎らしい質素な内装。この落ち着く空気感。なんだか涙が出そうだ。


 母は何か炒め物を作っているようだ。香ばしい香りが漂ってくる。

母が使っているコンロを見てふと、自分が魔術製品の技術者を志したこともあったなと思いだした。

ドワーフと共同で発展してきた魔術産業は、ここ数十年で飛躍的な進化を遂げたらしく。今ではこんな田舎にまで製品が普及している。

母の使っているコンロも部屋を照らす照明も、空気中のマナと呼ばれる物質を使用して動いているのだという。学校でも習ったが、本当に夢のような話だ。


「はいどうぞ。あんたの好きだった野菜炒め」


 目の前に置かれた皿には、懐かしい野菜炒めがあった。俺の好きな肉多めの野菜炒め。


「懐かしいなこれ」


「そうでしょ。久しぶりに食べたいんじゃないかって思って」


 母はすごいなと実感する。食べたかったですよ、本当に。


「うん、美味い」


「そっか、ならよかった」


 母は優しい目をしていた。


     〇


 食事をしながら都市での話など積もる話で盛り上がっていると


「お、ケイル。帰ったのか」


「父さん! ただいま」


 父は母とは対照的に男らしい筋肉質な体をしている。風呂上りで上裸のその体は「漢!!」という感じで、本当に憧れる。四年のうちに以前よりも筋量が増している気がする。


「おい、なにまじまじ見てるんだ?」


「へ?」


「お父さん、この子変なのよ私のこともじっと見てきて」


「い、いや違うよ! ……ん? 父さん、その傷どうしたの?」


 慌てて否定していると、父の脇腹のあたりに大きな傷跡があるのが見えた。


「ああこれか。これは一年前くらいの魔物との戦闘でついたんだ」


「魔物……」


 魔物。モンスターとも呼ばれるそれは、無差別に様々な生物に攻撃し、生態系を破壊しかねない凶暴性を持つ生物の総称だ。動物たちの体にマナ関連の何かしらの異変が起きて出現するといわれているが、定かではない。……と教科書に書いていた。


「最近魔物が出る頻度が増してきててな。町の男勢で駆除してるんだ。おかげでこの年でこんなにいい体になっちまった」


 といって父は笑った。元からいい体であったけど、筋量が増したってのは気のせいじゃなかったみたいだ。


「都市でも魔物の大量発生が話題になってたよ」


「やっぱりそうなのか。何なんだろうな一体」


 都市には人がたくさん住んでいるし、人も食い物にする魔物たちが餌のたまり場と都市を認識し始めたとかじゃないかと思っていたが、田舎のこの町でもその傾向があるとは。


「そうだ、ケイル。お前今後はどうするんだ?」


「え?」


「将来だよ将来」


 と言われてハッとした。巻物の件で忘れていた。


「あー、うん。今のところは父さんの仕事を継ぐ予定」


「……そうか」


「うん」


「……そりゃあうれしいな。家業が引き継げるってのが一番うれしい」


 父は一瞬悲しそうな顔になったが、すぐに明るい調子に戻った。複雑な心境は想像に容易い。


「とりあえず俺は寝る。お前も長旅で疲れてるだろうし、風呂入ったら早く寝ろよ」


「うん」


 そういうと父は、両親の寝室へと入っていった。


「二人はまだ一緒に寝てるの?」


「ええ。今更別に寝るっていうのもなんだか気持ち悪いじゃない?」


「確かにね」


「……ねぇケイル、本当にここを継ぐの?」


「え?」


「別にいいのよ。いいけど……」


 母は微妙な表情をしている。


「言ったでしょ、予定って。もしかしたら今日中に目標ができるかもしれないし」


「え?」


 俺が巻物に目をやりながらそういうと、母は不思議そうにしていた。


     〇


「さて」


 やることを終え、自分の部屋に入った俺は巻物と小一時間にらめっこしていた。


「開くべきか? これ……」


 別に開けなくてもいいのだ。怪しいし、めっちゃ怪しいし、怪しすぎるし。

 だが、俺の頭にはあの言葉がよぎっていた。


「チャンスは掴んで手放すな……か」


 けど、こんなただの巻物がチャンス? 何のチャンスだ? そもそも、あの時御者はちょっとおかしかった。訳のわからない固有名詞で畳みかけて、挙句の果てに「期待してる」。何に期待してるのかも教えてくれなかったし。


「……まぁ、開くだけタダか」


 恐る恐る巻物を開くと、そこには何も書かれていなかった。


「な、なんなんだよ……え!?」


 と思うと、いきなり文字がにじみ出てきた。


「な、なんだこれ……」


 完成した巻物には、こう書かれていた


――――――


闇の襲来まで あと1556日


段階【1】


1.身体能力強化

2.モンスター討伐 対象:指定なし


報酬:身体能力の向上、限界突破 魔術【マップ】の使用法習得、条件緩和


――――――


「……な、なんじゃこりゃ……」


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