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8 あれ、何でもやるって言ったじゃないですか

 俺が学園を後にしようと庭園を歩いていると


「ま、待って!ロード!」


 マーズが声をかけてきた。


「今更俺に何の用だ」

「……」


 言葉を探しているような感じのマーズ。


「俺には何一つ用事がないんだが」

「た、タケルの腕治してあげて」

「それが人に物を頼む態度なのか」

「な、何でもしてあげるから!」

「へー、何でも、ねぇ」


 俺はそう言って考える。


「そう、何でも!夜ロードの家に行かせて」

「何をしてくれるんだ?」

「いいこと。それで」


 マーズが俺に近付いてくる。


「私と、やり直して欲しい。心からのお願い」


 涙を流し始めるマーズ。


「本心か?」

「うん。ロードとやり直したい。ロードのいない人生なんていらない。もう一度好きって言ってほしい。ごめん、罪悪感はあった。でも、タケルに言い寄られて」

「へー。それで圧に負けた、と」

「うん。私を信じて」


 それは面白い話だな。

 へー、何でもやる、か少し遊んでやろう。


「場所を移す」

「い、いいの?」


 その質問には答えず俺はマーズを連れて1つの宿を取った。


「久しぶり、ロードとこうやってこんなところにくるの」


 何だか言っているマーズに俺は言った。


「シャワー室に入れ」

「見ないでね」


 脱ごうとしていたマーズにあるものを投げ渡す。

 カランカランと音を鳴らしてから回転しながら床を滑るそれ。


「え?な、何?これ?」

「見て分からないのか?」

「だ、だってこれ、ナイフじゃない」

「ナイフだ」


 俺はそう答える。


「何でもする、って言ったよな?俺のいない人生なんていらない、とも」

「う、うん。で、でもこれ何?」

「それを見て何も分からないのか?それで首を切れと言ってる。やり直したいんだろ?」

「そ、そんなことしたら死んじゃうじゃない!」

「死なないさ。俺を信じろ。それとも芋虫(タケル)を選ぶか?」


 俺はそう言ってやる。


「めちゃくちゃ言わないで!む、むむむむ、無理だよ」

「何でもするってのは嘘だったんだな。じゃあな」


 俺はそう言ってナイフを回収すると先に宿を後にしようとしたけど。


「ま、待って!」


 マーズが俺の手首を掴む。


「お前の裏切り菌が付く」


 俺は汚いものを払い落とすような仕草をする。


「ぐすっ」


 泣きながら後ずさる。


「ナイフを取れよ」


 ペタっと膝を着いて座るマーズ。

 それからナイフを手に取った。


芋虫(タケル)のために命は捨てられないか?」


 コクっと頷くマーズ。


「私が死んじゃったらロードとやり直せない」

「だが、お前は俺を1度裏切ったな?」

「う、うん」

「ならばそれ相応の誠意を見せろと言ってる。それに死なないと俺は言っている」


 もう一度ナイフを投げ渡す。


「1分待つ」


 ブルブルと手を震わせながら鞘からナイフを抜くマーズ。

 刃を首に近付けた。

 しかし、カランカラン。ナイフはその手から落ちる。

 

「で、出来るわけないよ」


 ナイフを拾った。

 正直できるなんて思っていないし。


「俺はお前のためなら命を捨てる覚悟はあったが、どうやらお前にはないようだ」


 そう言いながら俺は首にナイフを宛てがう。


「えっ?」


 そのままナイフを


 ズブリ!


 突き刺してそのまま切った。

 血がドバドバと噴き出てくる。


「な、何してるの?!」


 マーズの叫びが聞こえた、その直後


「ヒール」


 俺は呟いて魔法を発動させると回復を始める。

 ヒールを並行して幾つも唱える。


 ヒールの回復量はどれだけ練習しても変わらない。なら、どうやって回復量をあげるか、ヒールを同時に並行していくつも使えばいい。

 それで回復力が上がる。


 みるみる血は止まっていく。

 そして傷口も塞がる。


 後に残ったのは何ともない俺の体。

 俺にとって今のはかすり傷だ。致命傷ではない。


「き、聞いてないわよこんなの、この回復量。Sランクの冒険者でもここまで回復するなんて聞いたことない……」


 そんなことを言っているマーズ。

 俺は飛び散った血を流していく。

 こんなもの見られたら大変だ。

 流し終わった後シャワー室を出ながら俺は振り返る。


「お前にはもう未来のないタケルの隣が一番お似合いだ。そのまま無様に一緒に野垂れ死ねばいい」



 俺が家に帰った時だった。


「何をしてるんだあんたら」

「む、やっと帰ってきたロード」

「ロード、お帰り!ご飯にする?!お風呂にする?!それとも、むがっ!」


 うるさいナティアの口を塞いで口を開いた。


「何で俺の家の前にいるんだ」

「ここなら確実にロードに会えるから」


 リエルの言葉にふんふんと顔を縦に振っているナティア。

 わざわざ俺に会いに来たらしいな。


「悪いけどパーティには入らない」


 そう答えながら俺は家に入った。

 姉さんはまだ帰ってきていないらしい。

 そろそろ帰るはずなんだが、そう思っていたら


「あれ?お客さん?」


 姉さんが帰ってきた。


「しかも女の人ですよね?」


 姉さんの問いかけに頷く2人だがリエルが直ぐに反応を示した。


「盲目の天才剣士、か」

「いやいや、天才なんかじゃないですよ」


 軽く笑う姉さん。

 

「盲目?」


 ナティアがそう呟いた。


「姉さんは目が見えないんだよ」


 俺はそう答えた。


「もう慣れましたけどね」


 笑う姉さんだけど顔を下に向けた。


「ただ、ロードのカッコイイ顔が見えないのは残念です。絶対カッコイイのに」


 と、そんなことを言い始める。


「あぁ、ロードはカッコイイ」


 その言葉にそう返すリエルに


「やっぱりカッコイイですのね!ロードは!こんなにいい子がカッコよく無いわけないですもの!」


 何故かそうやって盛り上がり始める2人。

 その時ナティアが首を傾げる。


「目が見えないって話だけど普通に道歩けるんだね」

「姉さんは愛されてるんだよ」

「愛されてる?」


 首を傾げるナティア。

 その彼女に分かりやすいように俺は姉さんの肩を指さした。


「そこ、精霊がいるだろう?姉さんは精霊に愛されてて助言してもらえるんだよ。だから目が見えなくても人並みに生活できる」


 目をこらす彼女。


「ほんとだ。でも目が見えないって大変そう」


 呟くナティア。


「別に大変ではありませんよ」


 見せた方が早いか、と思って俺は姉さんに向かって大根を軽く投げた。

 ザン!

 姉さんの剣で真っ二つになる大根。


「ひぃぃぃぃ!!!!」


 ナティアが俺の後ろに隠れる。


「ほほほほほ、本当に見えてないんだよね?!!!」


 まぁ、疑いたくなる気持ちも分かる。

 こんな事を平然と出来る人だから信じてないやつも居るけど姉さんは見えてない。


「見えるなら一日中ロードの顔を見ています」

「重度のブラコンだな」


 少し呆れ気味のリエルだった。


「あ、そう言えば」


 そこでナティアが俺に目を向けた。


「聖なる森の【聖草】ならお姉さんの病気治るかも」

「聖なる森?」

「うん。高ランクのダンジョンなんだけどさ。どんな病気も治す聖草ってアイテムが落ちてる場所なんだ。それを取りに行くって依頼があったよ」


 それを聞いて俺は頷いた。

 姉さんを治せるかもしれない。


「とりあえず見に行きたい。案内してくれるか?ナティア」



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