7 退学して冒険者になります
翌日、俺は魔法学園にきていた。
目指すは学園長室だ。
言葉は丁寧なものじゃなくていいだろう。
どうせもうこいつとも会わなくなる。
「邪魔したいんだが」
返事が返ってきたのを確認してから入室した。
「何のつもりだね?ロード君」
「まさか名前を覚えてもらえているとは。光栄だな」
俺の言葉に反応を示す学園長。
「当たり前だろう?君は我が学園の生徒。覚えていないわけがないだろう」
ほう。
なるほどな。その言葉をそのまま受け取るならこの人は学園の生徒全員の名前を覚えているらしい。
俺は机の横を素通りして窓から庭園に目をやり1人の生徒を指さした。
「ノイティ。今日も頑張っているな」
「そうだとも、ノイティ君は今日も努力しているようだな。ロード君もまた彼のように努力するといい。ほら、君も教室に向かって学びなさい」
「ふっ……ははっはははは」
俺はその言葉につい笑いを漏らしてしまった。
まさかここまで思い通りになるなんて。
「何がおかしいのだね?」
その言葉に俺は頭を横に振りながら口を開いた。
「彼はノイティという名前ではない。ニックネームでもない」
「なっ……」
絶句する学園長。
「俺の名前を覚えた理由はこの学園の生徒だから、という理由ではないらしいな?」
「っ?!!!」
慌てた表情を浮かべる学園長。
「俺がタケルに勝ったから覚えたんだろう?この前は俺のことを雑用と呼んでいたしな」
そう分析しながら俺は部屋内を軽く歩き回ってゴミ箱に目をつけた。
中には丸められた紙くずがいくつか入っている。
俺はしゃがみこんでその紙くずを取りだして広げた。
それは目当てのもので。
「ビンゴ」
「何をしているのだ」
俺に近付いてきた学園長にその紙を見せつけた。
退学届だ。
「タケルもここに来たのだろう?」
「な、何故それを!」
「1番俺を退学させたがってたのがあいつだから。あいつの事だ。俺に負けた腹いせでここに俺の名前を書き込んで持ってきたのではないか、とそう思ったから」
しかしそれを学園長は認めなかった、ということだろう。
この学園長の反応を見ていると現状がよく分かる。
俺は俺の名前が書かれたその紙を学園長に渡す。
「やめるよ。この学園。俺は要らないみたいだしな」
「な、何を馬鹿なことを言っているのだね?!ロード君!」
「俺だけ学園のプログラムに参加させて貰えなかったりしたからなぁ。それどころかやらされるのは治療か雑用ばかりになっていった。授業なんてほぼ受けられなかった。分かってたよ。俺が必要とされていないことなんてさ」
大規模な遠征イベントなど俺は参加させてもらえなかった。そもそも知らされてすらいなかった
その辺で俺の扱いなど理解していた。
「でもさ。学園の外には俺を必要としてくれる人が何人もいた。今更こんな学園に残る必要なんて俺にはないんだよ」
俺は魔法を教える立場や研究する存在になりたいんじゃない。冒険者になりたい。
そのためにはこの学園にはいなくてもいいんだ。
「あのタケルに勝てた。それだけで冒険者として最低限のスタートラインには立てるはずだ」
「だ、だが。君はまだまだ伸びるはずだ。この学園でもう少し学んだらどうだ!そうだ!これを君にあげよう!」
そう言って俺に何かを渡してきた。
紙だ。
「特別待遇すると約束する!授業料免除!その他諸々免除もする!いや、それだけじゃない!我々は君を全力でサポートする!金が必要なのならいくらでも用意する!いくらでも何でも君のために用意しよう!約束する!」
「だから、残れ、と?」
「そうだ!」
必死だな。
そんなに俺にやめてほしくないらしい。
「人に物を頼む時の態度は教わらなかったか?」
「うぐっ……」
学園長は少し考えているらしい。
だが、それも一瞬。
「こ、この通りです。残ってください!」
学園長が土下座した。
生徒である俺に対して。
こんなこと後にも先にもそうあることではないだろう。
「それだけか?まだやる事があるんじゃないのか?残ってほしいんだろう?」
「く、靴が汚れております。舐めてお掃除しま……」
俺の靴に手を伸ばそうとした学園長の手を軽く足で払い除ける。
「おいおい、汚い手で俺に触れるなよ。余計に靴が汚れる。続きを説明させようと思ったがお前の悪い頭ではそこまで考えが及ばなかったようだな」
だから、俺は自分で聞いた。
「それで、この紙に記入すれば特別待遇が受けられるのか?」
「は、はい!そうでございます!そこに名前を書いていただくだけで……」
その言葉は最後まで聞かなかった。
ビリビリ。
ビリビリ。
「な、何を?」
学園長が目を見開いて聞いてきた。
「何って要らないから破いてるんだよ」
細かく破いた後クシャッと軽く握りしめそれから手を開いて、パラパラと紙吹雪を散らせた。
「あーあ。バラバラになっちゃった」
床に落ちる紙吹雪。
それを見届けてから今度はまだ土下座している学園長の前で退学届をそのままヒラヒラと舞わせて床に落とした。
「まぁ、受け入れても受け入れなくてもどちらでもいいよ。どの道俺はもうここにはこない。気分悪いんだよこの学園にいると」
そう言って俺は背を向ける。
学園長は力が入らないのか床に寝てしまった。
「じゃあな。もう会うこともないだろう」
そう言って俺は学園長室を後にする。
俺はこれから自由だ。