5 試合の結果
俺は倒れたタケルに近寄ると剣を向けた。
既に戦意喪失しているタケルはそのまま後ろ向きに下がっていく。
「な、何をするつもりだ」
「何って?トドメだけど?そんなことも分からないのか?」
鼻で笑いながら答える。
「や、やめてくれ」
俺はそんな声も聞かずに剣を振ろうとしたが
「な、何が起きたんだ?お前の体力はギリギリだったはずだ」
「別に不思議な話じゃない」
俺はそう言ってステータスを表示させた。
状態欄だ。
───────
状態
・リジェネ
・リジェネ
・リジェネ
・リジェネ
・リジェネ
・リジェネ
・リジェネ
・リジェネ
・リジェネ
・リジェネ
───────
となっている。
俺はリジェネを重ねがけしているだけだ。
これがタケル対策。
スライム以上のダメージを出してくることは分かっていた。ならばどうするか。
俺が導き出した答えはこれだ。
「受けるダメージ以上に回復をしていただけだ」
「くっ……馬鹿な……そんなことが……ありえない!魔法を何個も同時に使うなんてそんなこと……」
「できるんだよ。俺は回復術士だ」
お前が馬鹿にしてきた回復術士になら可能なことだ。
回復魔法だけを本業にして本気で練習してきた俺だからできたんだよ。
「立てよ、雑魚。ヒール。お前は俺のおもちゃだろ?簡単に壊れるな。もう少し楽しませてくれ」
俺はタケルを回復してやった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
タケルが立ち上がって剣を振った。
俺に80のダメージ。
体力は470→390となった。
しかし1秒後
390→470
と元通りになる。
「ば、馬鹿な……」
後ずさるタケルに俺は告げる。
「現実を見たらどうだ?タケル。お前が今の攻撃に使ったのは2秒。だが俺は1秒で100回復する。俺の回復ペースにお前のダメージはついてこれないんだよ」
ザン!
タケルの体力を50まで減らした。
「ぐあっ!」
次の一撃で恐らく瀕死状態に持ち込める。
「対して俺はお前の半分程度のダメージしか出せないがこうして体力を気にせず攻撃をし続けることができる。1ダメージでも与えることが出来るのならば殴り続ければお前を倒せるんだよ。この状況で勝ち目があると思うのか?」
そう言いながら俺はもう1発振り下ろした
タケルに50ダメージ。
タケルは瀕死状態となった。
ここからなら問題なく生身の体にダメージが通る。
「ぐぅっ……お、俺の負けだ……」
「そうか」
俺は剣をタケルに振り下ろした。
ザン!
俺が切り落としたそれは直ぐにポトリと音を鳴らして地面に落ちた。
それは
「お、お、お、俺の左腕が……」
ひぃひぃ言いながら切り落とされたそれを残った手で大事そうに抱き抱えるタケル。
「感謝しろよ?退学届けを書く方の大事な手は残してやったから、さ」
「……た、頼む、治してくれ。マーズは返す、今までのことも謝る」
タケルが俺に縋り付くように頼んでくる。
「今更あんな裏切り女要らないさ。それより回復してくれ、って本気で言ってるのか?考えてもみろよ。回復してやるなら初めから落とさない」
そう言った後に俺は用意していた退学届を取り出した。
それをヒラヒラとタケルの目の前に落とした。
「昨日の分は捨てたかもしれないから追加でプレゼントだ。さぁ、拾いなって拾う手がないのか。それに、ゴミを抱えるので忙しいのか。ははは、ごめんな。拾う手を俺が切り落としたのを忘れていた」
何も言えないのか黙り込むタケルを見てから俺は審判に目をやった。
流石にこれ以上は不味いだろう。
なんせしょせんはただの御前試合だ。ここまでは事故で済むだろが、殺してしまえば問題なのは分かる。
「し、勝負あり!これ以上の決闘を即刻やめよ!」
審判が慌てた様子でジャッジを下した。
「勝者ロード!」
そのジャッジが出た瞬間。
「そ、そんなタケル様が……」
「な、何よあいつ!空気読みなさいよ!」
「タケルさん?!嘘だろ?!」
観客席からそんな声が聞こえてくる。
どうやら俺は番狂わせをしてしまったらしいな。
ここでトドメを刺せなかったことは悔しい話だが
「命を拾ったな。これが御前試合で良かったな?だが、次は───────腕の1本程度で済むと思うなよ?ゴミクズが」
俺は去り際にそう残してからこの闘技場を後にすることにした。
◇
俺は学園の庭園のベンチに腰掛けて呟いていた。
「やったかもしれない……」
正直本当に勝てるとは思っていなかった。
負ける気は当然なかった。
しかし俺はこの世界で最弱扱いを受けているジョブの回復術士、対して向こうは最高峰の評価をされている剣士。
まさか圧勝できるとは思っていなかった。
「負けた場合の事は色々考えていたが、勝った場合の事は考えていなかったな」
この場合どうなるんだろう?
そう思っていたら
「先程の試合見させてもらったよ」
声をかけられた。
顔を上げるとそこに立っていたのは昨日酒場で出会った少女だった。やはり俺の予想通り見ていたらしい。
「あんたは」
「リエル。名前を教えておこう」
そう名乗る少女リエル。
「まさかこんなに早く再会出来るとは」
確かに俺もあんなもの真に受けていた訳じゃなかったけど本当に出会えるとは。
「まさか君だったなんてね、あのタケルの相手をするのが」
「俺を倒して強い事を証明したかったらしい」
「はは、そういうことか」
軽く笑ったリエルは俺に目を向けた。
「勧誘は来ただろう?」
「勧誘?」
聞き返す。
思い当たるものがなかったからだが1つあった。
「宗教勧誘?悪いが神は信じ……」
「え?違う違う!」
腕をブンブン振っているリエルがその後に直ぐに口を開いた。
そして胸に右手を当てて真っ直ぐに俺を見てからこう言った。
「パーティ勧誘だ。知っているだろう?冒険者になるには別に学園で学ばなくていいってこと。君はもうここにいる意味もないだろう。素晴らしい生徒なのだから」
「まぁそれは」
一流の冒険者になるためには学園で学んでからというのは一つの道に過ぎない。
そんなこと必要ないという人もそれなりの数いるのが現状だ。
「あのタケルに勝ったんだ。来てるんだろう?勧誘」
「いや、来てない」
そう答えると目を真ん丸にしたリエル。
「えぇぇぇぇぇぇ?!!!!来てない?!!!!!!」
「そんなに驚く事なのか?」
「驚くに決まってるだろ?!こうして御前試合が行われる度に強そうな人に全員で押しかけて勧誘するものなんだぞ?!普通は!!!!」
「なら俺が弱そうに見えたんじゃないのか。俺回復術士だし、あれ、自分で言ってて悲しくなってきた」
そうか。
自分が弱いのは理解してはいたけど、こう真正面というか周囲の反応でそれを理解させられると悲しさ倍増だ。
「ち、違う違う!そんなことはないよ!」
「じゃあ何で勧誘に来ないんだ?」
「それはやはり勧誘しにくいのじゃないか?ロードは回復術士だし勧誘したところでどうやって扱えばいいのか分からないパーティが多いのだと思う」
そうリエルが言って更に続けた。
「私たちのパーティに来ないか?ロード。これでも私はSランク冒険者。悪くない話だと思う」
その続けられた言葉は予想外のものだった。
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