3 俺だけが使える魔法で勝てるかもしれません
俺は人とぶつかったらしい。
俺とぶつかった少女らしき子が派手に転んだ。
「あだっ!いててぇ」
「大丈夫か?」
ぶつかったのなら俺も悪いだろうということでそう訊ねてみる。
「え?まぁ」
少女はそんな答えを返しながら立ち上がる。
「そっちこそ大丈夫?」
「あ、あぁ」
「そっか。じゃあ、私急いでるから!やばいやばい!寝過ごしたぁぁぁぁ!!!!」
少女はそう言って走り去っていた。
急いでいたのだろうか?
そんなことを思いながら俺はふと視線を下にやったら。
「落し物、か?」
少女が落としたのだろうか?薄汚い本が落ちていた。
俺はそれを拾い上げてから少女を少し探してみたが。
「だめだ。いない」
探し回ってみたが全然見つからなかった。
そもそもあの子の足はかなり速かったように見えるし俺が探して追いつけるものでもないのかもしれない。
「何の本なんだろうな?」
人のものだ。見てはいけないのだろうけど表紙を見るだけなら問題ないだろう。
そう思ってまじまじと見てみたけど表紙には何も書かれていない。
気になって俺は少しだけ中身を見てみることにした。
少しだけなら問題ないだろう。
「えー。なになに」
最初にメモが挟まってありこう書いてあった。
初めに、色々とあって古代魔法と呼ばれる古い魔法がいくつかが失われたことが書かれてあった。
そして
「回復魔法が廃れた理由?」
気になる項目を見つけた俺はじっくりと読んでみることにした。
「回復魔法は極めれば強力な魔法である。しかし簡単な魔法以外は後世に残されなくなった、だって?現状のヒールだけでも十分であるし、これのせいでポーションの売上が減った、それでポーション製造者に金が行かなくなった。回復魔法が更に進化すると更にアイテムの売上が悪くなる懸念が……か」
といった内容が書かれてある。
つまるところアイテムの製造者のことを考えた結果回復魔法が廃れた。というところか?
「第2の理由?」
読んでいると更に理由があるらしい。
「回復魔法はアイテムで代用が効く場合が多い。そのためこの魔法に費やす時間を他の魔法の練習に使った方がいい結果を出せる、か」
まぁ確かにそうだ。
回復魔法なんていくら使ってもダメージを与えられない。
それならダメージを出せる魔法を練習して回復は完全にアイテムを頼った方がいい、とそういう風潮になったらしい。
だから回復魔法は廃れた。
メモはここで終わりだ。次は本だな。
俺はまたページを進めた。すると
「回復魔法一覧?」
と書かれており
───────
・リジェネ
───────
とあった。
「リジェネ?」
聞いたことの無い魔法名だった。
なんせこの世界にある回復魔法なんてヒールと呼ばれるものだけだからだ。
───────
・一定時間の間一定の体力量を回復し続ける魔法。(習得条件:回復魔法を1,000回以上使用する)
───────
と説明があった。
その時、ウィンドウが立ち上がった。
【リジェネの習得条件の達成を確認しました】
「え?」
俺が呆気に取られていると
【リジェネを覚えました】
と表示された。
もしかしてさっきの魔法を覚えたってことなのか?
読むだけで覚えられるのか?
そう思った俺は更に読み進めようとしたけど
「続きがない?切り取られてる?」
破かれているようだった。
だから、リジェネ以上の何かを探すことは出来なかった。
「まぁ最初からリジェネすら覚えられなかったと思えばな」
そう思った俺はとりあえずこの魔法を試すために平原に向かうことにした。
◇
平原にて俺はわざと棒立ちして攻撃を食らっていた。
俺のステータスはこうだ。
───────
名前:ロード
レベル:20
体力:470
攻撃力:45
防御力:45
魔力:68
───────
そして今スライムに殴られた。
体力:470→450
俺はこれを見て魔法を使う。
ちなみにリジェネの消費魔力は1だった。
「リジェネ」
【リジェネが発動しました。回復量は毎秒10です】
そして2秒後。
体力:450→470
その後また殴られたけどその度にまた回復する。
「す、すげぇ!これがリジェネ……」
初めて使用した魔法の効果に驚いた。
これがあればダメージを受ける度に回復魔法を使わなくてもいいじゃないか!
今までのヒールだと回復しようと思えばその度に隙を晒すことになってしまっていたし攻撃の手が止まっていた。
でもリジェネならば最初に使っておけばその後は放置しておけば勝手に体力が回復する。
攻撃の手を緩めることなく回復できる。
俺だけ勝手に体力が回復するようなものじゃないか。
「勝ち筋が見えた。これだ、リジェネを使えばいいんだ」
隙を見せることなく回復が出来るこの魔法ならば、俺はタケルに勝つことが出来るかもしれない。
しかし問題は
「あいつはスライム以上のダメージを与えてくるだろう。そこをどうするか、だな。結局回復ペースが足りなければ押し負ける」
少しこの技を試してみよう。
ちょっと試した後俺は街に帰ってきていた。
その時タケルと偶然出会った。
「よう、最後の晩餐は沢山食べとけよ」
そう言ってすれ違おうとしたタケルに俺は返事をすることなくこう口にした。
「待てよタケル。お前に渡さなくちゃいけないものがある」
「あぁ?渡すもの?」
俺は質問に答えずアイテムポーチに手を入れたらタケルは口を開いた。
「俺のパーティに所属していた迷惑料と慰謝料か?それなら確かに受け取ってやらんとな」
ニヤニヤするタケルに俺は突きつけた。
「ほら、これだよ。お前には感謝してるよタケル」
悔しい話だが確かに俺は今こいつに感謝している。
「なっ……」
タケルの絶句。
それもそうだろう。
俺にこんなものを突きつけられるとは思っていなかっただろうから。
「お前の言った通り俺は今感謝しているよ。そしてお前もまた俺に感謝するだろうな。これを捨てずに取ってくれていたことを、さ」
俺が突きつけているのは今日こいつに渡された退学届。
「後は名前を書くだけだぜ?」
手を離すとヒラヒラと舞って地面に落ちる退学届。
「さぁ、拾えよタケル。お前のだぜそれは」
俺がそう言うとタケルは口元を歪めてこう言った。
「言うじゃねぇか。ぶっ殺してやるよ!!!!明日がお前の命日だ!!!!!!」