23 色々貰いました
俺は長に連れられて集落の奥へやってきていた。
「こんな所に何の用なんだよ?」
「個人的な話をすると私は人間をあまり信用していない。しかし貴方は信用出来る」
それは嬉しい話だ。
そう思って見ていたら
「これを」
長が何かを渡してきた。
「これは?」
「我々が長い年月をかけて作ったものです」
何故か敬語になっている長。
「これは鬼人族の力をグローブに宿しています。攻撃力を底上げする防具です」
「そうなんだ」
「はい。我々鬼人族は魔法があまり使えない代わりに物理攻撃に特化していまして人間の何倍もの力があります」
そう言って俺に渡してきたので付けて見ることにした。
「貴方なら有効活用してくれることでしょう」
「ありがとう」
貰っておくことにしよう。
俺は攻撃面に関してはやはり弱かったから。
「こちらもどうぞ」
そう言ってまだ何か渡そうとしてくる。
「こっちは?」
「こちらは我々鬼人族に伝わる名刀の鬼斬です」
まんまだなぁ。
「我々の中で扱える者はいませんでしたので貴方に使ってもらおうと思います」
「なら貰っておこう」
いい加減これまで使ってきていた鉄の剣も壊れそうだったしこの機会に変えておくか。
「その剣は一振で全てを切り裂くと言われています。扱いにご注意を」
「分かった」
答えてそろそろいいか?と目で訴えるが
「あのロード殿」
ついに俺を殿付けで呼ぶようになってきたぞこいつ。
「私は貴方個人と同盟を結びたいと思っております。まだ人間全体は信用出来ず」
「まぁいいよ」
俺はいつまでここに引き止められるんだろう?
そう思いながらも話を聞く。
「では、よろしくお願いしますぞこれから」
そう言ってくる長に頷いた。
「何かありましたらお呼び下されば兵士を派遣しますので」
「うん、ありがとう」
何だか色々貰ってしまったがこいつが勝手に渡してきているからまぁいいか。
「長々とすみませんな」
謝ってくる長に首を横に振っておく。
「気にしないでくれ。俺も色々貰っちゃったしさ」
「それと渡したものについてですが、不要になったら手放してもらっても構いませんので。もう既に渡したもの。その後の扱いについては干渉しません」
「分かった」
まぁこれからも世話になりそうだけどなこの装備には。
そう思いながら俺は集落に戻った。
そして俺はリエルと一緒に長に見送られながらこの集落を後にした。
「また来てねー!!ロードーー!!!」
その背中側からはルーズの声が聞こえていた。
のだが、
「待ってー!!ロードーー!!!」
その数秒後何故かルーズが走ってきた。
「どうしたんだよ?」
「私も連れて行って欲しい」
と俺の目を見て言ってきた。
「はぁ?」
「ダメかな?」
「ここにいた方が安全だろ」
そう言ってみたが
「いえ、ここにいるより貴方の横にいた方が安全でしょうよ」
長がそう口を開いた。
「そういうこと!」
ルーズが俺の腕にしがみついてきた。
俺は内心勘弁してくれと呟いていた。
俺のソロ冒険者ライフがまた遠ざかろうとしていた。
「ロード殿に失礼のないようにするのだぞ」
長にそう言われて頷くルーズ。
「それから、ロード殿」
俺の耳元で囁く長。
「鬼人族の娘と肌を重ねれば鬼神の如き力を得ることが出来ますぞ」
はい、そうですか。
「はぁぁぁぁぁぁぁ?!!!!!」
俺は叫んでいた。
「では、素晴らしき冒険者ライフを。ここで貴方様のご活躍を聞いておりますので」
そう言って見送られる俺達。
「ねぇ、何の話してたの?」
ルーズが俺に聞いてきた。
「お前の角を砕いて煎じて飲めば鬼のような力が手に入るってよ」
引いたろ?今からでも遅くない。
俺の周りに虫のように集まらないでくれ。
ナティア、リエル、ニーナともう3人も集まってるんだもうこれ以上騒がないでくれ。
そう思って見ていたら顔を赤くするルーズ。
「え?ロ、ロードならいいよ?」
残念なお知らせだ。俺のささやかな願いは叶わなかったようだ。
◇
馬車の荷台で揺られている俺たち。
どれほど進んだだろうか?それは分からないけど
「お疲れ様です。いやぁ、それにしてもリエルさんはいつもお美しいですな。そんなあなたのそばにEランクでもいられるロードさんが羨ましい。普通はSランクじゃないといられないんですがね」
御者の男が水を俺たちに差し入れてくれた。
「あぁ、ありがとう」
リエルがお礼を言って受け取っている。
それを俺たちに渡してくる、黙って受け取るルーズ。
俺も黙って受け取るだけ受け取った。
2人は今飲もうとしていた。
「待て、飲むな」
俺はそれをやめさせた。
「な、何?」
「何なのだロード?」
ルーズが不安そうに俺を見てきた。
「え?手は洗ったとかそういう話?」
そもそも洗えない状況で洗えなんて無理なことは言わない。
御者は俺達に振り返る。
「どうかなさいましたか?私の言葉がEランクのあなたには気になりましたか?」
別にそんなことでいちいち何か言ったりはしない。
シラを切ろうとしているのかそれとも本当に知らないのか。
どっちだろうな。
「俺はいらない」
そう言って立ち上がると水を男に返す。
「お前が飲めよ」
何も言わない。
「飲めないか?だよな」
二人に目をやる。
「こんなもので騙せると思うなんて舐められたものだ。水を捨てろ」
俺は渡された水を御者の顔にかけた。
「な、何をする!ロード!」
「そうよ!ロード!何してるの?!」
2人がそう言ってくるが抱き抱えて俺は荷台から降りた。
顔を濡らした男が呆然としている。
それから暫くして笑い始めた。
「ははははは。鋭いな。何故分かった?」
「ど、どういうことだ?!」
俺の脇で暴れるリエルを下ろしながら簡単に答えた。
「混ぜ物だ」
「混ぜ物?」
「水に何か溶かしてある。恐らくスイミン草だな」
スイミン草。
モンスターなどを眠らせる時に使う薬草だが独特の匂いがある。
「本当に少量しか溶かしてないんだがな。はぁぁ、お前がいなけりゃこのあとお楽しみだったんだがなぁ。Eランクは座学だけは得意なのか?」
御者はそう言いながら近付いてくる。
2人を下ろしたが怯えて俺の後ろに隠れるルーズ。
「俺を誰だと思ってる?回復術士だ。大抵の薬草は特定できる」
「ははは、流石だな。最近凄腕の回復術士の話は聞くがあんただったか。とんでもなく腕が立つって話だが。本当に油断なんねぇなぁ!でもここに居合わせたこと後悔しやがれ!回復術士!しょせんは雑魚なんだろ?!死ねぇぇぇぇ!!!!」
男が襲いかかってきた!
いや、違う1人じゃない。
そのすぐ後に御者の座っていた椅子の下から隠れていた2人が追加で出てきた。
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