20 鬼人族です
「さよならリエル。短い間だったけど楽しかったわよ」
「ふむ。さらばだナティア。貧相な体での色仕掛けは無駄だったようだな」
「はぁぁ?!!何処が貧相なのよ!」
どうしてこいつらはいつも言い合っているのだろう。
リエルとナティアは相変わらずだった。
俺達は今隣国へ移動するための馬車を待っていたところなのだが。その際でもやはり言い合っていた。
「喧嘩するほど仲がいいって言いますよね」
ニーナが二人を見ながらそんなことを言っている。
まぁ仲は悪くなさそうだが
「はぁ、俺の周りはいつからこんなにうるさくなったのやら」
「皆さんロードの実力を評価しているのですからそう怒らずに」
姉さんにそう言われた。
普段はほっといて欲しいんだが何故ワラワラと俺の周りに集まってくるのだろう。
「ねぇ言ってあげてよロード!ロードの彼女は私だって!」
ナティアが俺の右腕にしがみつきながらそんなことを言ってくる。
いつお前は俺の彼女になったんだ?
そう思いながら無視していたらリエルが笑い始めた。
「ははは。自分のことをロードの彼女だと思い込んでいるのかお前は」
「むきー!!!!ロード何か言ってよ!」
俺はなおもスルーすることにする。
いい加減黙って欲しいな。
そう思っていたらガラガラガラ。
馬車がやってきた。
「リエルさんでいいか?」
御者がリエルに声をかける。
「あぁ。こちらはロード私の親友だ」
俺を紹介するリエル。
俺はいつからお前の親友になったんだ?
「私はロードの彼女!」
「私はロードの姉です」
全員自己紹介を始めた。
「は、はぁ……」
御者のおっさんが苦笑いを浮かべている。
気持ちは分かる。
何も言わないニーナを見ていたら
「し、下僕です!」
どうやら俺にはいつからか下僕がいたらしい。
俺の周りの空間がどんどんおかしくなっている。
しかし自称相棒がいないだけマシか。
そう思ってリエル達が馬車に乗り込み始めたので俺も乗り込むことにした。
「今まで世話になったな」
荷台から魔法学園の方に目をやった。
「全くよねー」
ガシッと俺の腕にしがみついてくるナティア。
「目の前でイチャつくな暑苦しい」
リエルにそう言われているが。また言い合いそうになったので俺はリエルに本題を切り出すことにした。
「それで、リエル。詳細を聞きたいんだが」
簡単に話を聞いた限りこれから彼女がやろうとしている事は俺の強くなりたいという目標も果たせる。
だから同行することを承諾した。
「鬼人の森だ。鬼人の森に用がある」
そう言ってから続ける。
「この前ナティアにトレジャーを貰っていたな?あの本の続きがあの一角で確認されたそうだ」
「続きが?」
あの本の続きと言うと恐らく更に強力な魔法が書かれているに違いない。
それは是非とも欲しいところだ。
「しかし現在鬼人族との友好関係は最悪」
続けるリエル。
「私はギルドから関係の修復を依頼されていてな、とは言え手紙を持っていくだけだが」
大体理解出来た。
なるほどな。
◇
そうして隣国に到着。
ここからが1番鬼人族の森に近いらしい。
「鬼人族ってどういう人達なんですか?」
ニーナが聞いてきた。
「私たちと同じような体型だが頭に2本の角がある種族、だな」
「なるほどです」
リエルの説明に頷くニーナ。
「出発は明日だ。ロード、疲れは残さないように眠ってくれ。それからギルドに宿を取ってもらっている。今日は自由行動とするが適当な時間で帰ってくるんだぞ」
そう言ってリエルは1人ギルドに戻っていった。
どうやら遊ぶつもりなどはないらしい。
真面目だな。
しかし
「俺も別にやることないしな」
「なら私もやることないもーん」
ナティアもそう言っている。
俺たちがこう言ってしまえばニーナも姉さんも似たような感じだった。
ギルドに行くか。
キィィィィ。
木製の扉を開けたら、男と目が合った。
何故お前がここにいる。
「お?相棒じゃねぇか!」
男は手に持っていたジョッキをダン!と机に置いて俺の方に近付いてきた。
そして飛びつこうとしてきたのを避ける。
「まさか!こんなところで相棒と出会えるなんてな!やっぱり戦場を共にした相棒との間には絆があるらしいな!」
そうか。
俺には世界一要らない絆だ。
「相変わらずクールだなぁ!相棒!」
もしかして俺はここにいたら一生こいつに付きまとわれるのか?
ほっといてくれよ。
「用事を思い出した」
え?ってナティア達が言っているが俺は察してくれと言い残してもう一度ギルドの外に出た。
しかし
「おうおう!用事か!どれ、俺もいってやろうじゃねぇか相棒!」
何故そうなる。
「はぁ」
「どうした?!相棒!ため息は幸せが逃げるぜ?!」
確かにな。絶賛不運が舞い降りている。
何が嬉しくてメイガスと道を歩かねばならんのだ。ほっといてくれ。
そうして歩いていた時だった。
目の前から赤いバンダナを巻いた少女が歩いてくるのが見えた。
何だ?あのバンダナ。
別にバンダナが悪いというつもりは無いが、珍しい。そう思って見ていたら
ドン!
メイガスにぶつかっていた。
「おっと、悪いな」
謝っているメイガスだが少女の方は黙って歩き去ろうとしていた。
だが俺はその前に少女の腕を掴んでいる。
「なんですか?離して。こんなことしていいと思ってるの?通報するよ?その薄汚い手で私を掴まないで。やめて変態」
少女は振り返ってそう口にした。
「そうだぜ相棒。離してやれよ」
「マヌケ」
「ま、マヌケ?!」
そう叫ぶメイガスを無視して俺は少女に声をかけた。
「バレないと思ったか?盗った物出してもらおうか。それとも、通報してみるか?お世話になるのはお前だろうけどさ」
「ま、まさか!か、鑑定眼?!」
少女は逃げ出そうとしたが俺に掴まれていてビクともしない。
「メイガス、金を確認しろ」
そう指示を出すと
「ね、ねぇ!金を入れた袋がねぇ!それよりすげぇな!相棒!よく気付いたな!。ほんとに鑑定眼でも持ってんのか?!」
鑑定眼。鑑定士が持つスキルだ。
でもそんなもの持ってないけど何を言ってるんだろう?
俺はスリの少女に取ったものを出させた。
1,2,3。袋がどんどん出てくる。
「常習犯ってわけか、手慣れてたな?」
「ご、ごめん。ギルドにでも突き出す?」
「別に。俺に被害があった訳じゃないしそんな面倒な事はしない」
俺はメイガスにどれだ?と聞いて本人の袋だけを返した。
「おうおう、嬢ちゃん。人のもんに手ぇ出した落とし前はつけさせてもらうぜ」
ボキボキと拳を鳴らしながら近付くメイガス。
その間に割って入る。
「やめろ」
「な、何でだよ?相棒」
俺は少女に目をやった。
「あんた鬼人だろ?」
「それにも気付くの?!すごいねお兄ちゃん、かなりレア度の高い鑑定眼を持ってるの?」
別に鑑定眼なんて持っていないんだがな。
さっきから何なんだ?
バンダナで隠すものなんて角くらいしか思いつかないし。




