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2 諦めません

「ただいま」


 俺は家に帰ってきていた。

 この声は頑張っていつも通りに振舞ったつもりで出した声だ。


「おかえりなさーい」


 今日も俺を出迎えてくれる声が聞こえる。

 この声の主は姉さんだ。名前はルールエで種族はエルフ。勿論血は繋がっていない。


 俺は生まれて直ぐに実の両親に捨てられて姉さんの親父さんに拾われた。

 親父さんは亡くなってしまったけど。


「ロード?どうしましたか?」


 いつも通りの受け答えをしたつもりだった。しかし明らかに俺を心配しているようなトーンの声。


「何でもないよ」


 そうは言ってみたけど


「私の耳を誤魔化せると思いますか?ロード」


 どうやら分かってしまうらしい。

 彼女は目が見えないから状況判断は耳で聞いた音で行う。その精度はこの通り高い。


「タケルと決闘することになった」


 俺は今日あったことを姉さんに話した。


「そうですか」

「悪い。俺は冒険者になる夢を諦めなくてはならないかもしれない」


 一瞬黙る姉さん。

 その後にまた口を開いた。


「謝らないでください。何度も言いますが私は気にしていませんから」


 彼女は目が見えない。それでも正確に俺を抱きしめてくれる。

 こんな風に目が見えなくても生活に困りはしていないみたいだが。


「私の【目】のことをまだ引きずっていますか?こんな風にもう困っていませんよ。ほら、ちゃんと抱きしめることだってできてますよね?」

「本当にすまない」


 彼女は目が見えない。

 何も見えない。


 その綺麗な金色の瞳を見ることは出来るがその目は何も映してはいない。

 

 未熟だった俺が彼女から視力を奪ってしまった。

 昔のことだ。


『やーいやーい。だっせぇ!回復術士!』

『うるせぇ!俺は強いんだ!』


 俺はタケルの安い挑発に乗ってしまい単身でダンジョンに向かった。


 しかしそこで俺はミスをして、そんな馬鹿な俺を庇うために、ついてきていた彼女は身代わりとなって、そしてモンスターの攻撃を受けて視力を失った。


 それから俺は彼女の世話をこうして引き受けている。


「姉さんにもう一度光を見せたかったのに、こんなことになってしまって本当にすまない」

「気にしないでください。ロードのかっこいい姿が見れないのは残念ですが仕方ありませんよ」


 本人にそう言われてしまっては俺に返す言葉はなかった。


 本当に情けない話だ。

 その後俺は料理をして彼女に夕飯を食べさせた。



 俺が冒険者になりたかったのはただ姉さんの目を戻したかったからだ。高難易度のダンジョンならどんな病にも効く薬草もあると聞く。俺はそれを探したい。

 気にするなとは言ってるけど責任を感じている。だからこそこうやってここまできた。


 でもその夢は閉ざされようとしている。


 でも何をすればいいのか分からない。

 俺は酒場に来ていた。

 それは最早逃れようのない現実からの逃避なのかもしれない。


 でも心の底じゃまだ諦めていなかった。


「俺にあるのは戦闘を続ける能力だ。それを今までに磨いてきた。時間をかけて、だ」


 俺にはこの武器しかない。

 なら配られた手札で勝負するしかないのだけど。


「厳しいか?」


 いくら回復だけすることが出来てもそのうち俺が先にジリ貧になるだろう。

 そうなったら負ける。


「初めから負けが決まっていても負けるつもりで挑む気にはならないな」


 俺はまだ冷静さを取り戻していて。

 自分のしぶとさがこういう部分にも現れているのかもしれないな。

 そう思うと苦笑いも浮かぶ。


「何を1人でブツブツ呟いているのだ?」


 その時俺が独り言を呟いていたからだろうか。

 声をかけられた。

 そちらに目を向けると女性が1人立っていた。

 身なりを見るに冒険者だろうか?


「あ、あぁ。何でもない」

「なんでもない訳ないだろう?」


 そう言うと俺の横に腰を下ろしてきた女性。


「話し相手が欲しいなら私がなろうか」


 同い年くらいの少女が隣に座った。

 誰かに話したくて仕方がなかった俺は口を開く。


「勝ち目のない勝負があったとしてあんたならどうする?」

「うん?勝ち目のない勝負、か。元々挑まないな」

「逃げられなかったら?」


 考え込む少女。


「それでも1番逃げられる人数が多い選択をする」


 ダンジョンでの鉄則だな。全員で死ぬよりも、少数を犠牲にして多数を生かす。

 この答えを返したということは少女はやはり冒険者なのだろう。それも、一流の。

 もしかしたらこの人も明日の決闘を見に来るのかもしれない。


 望んでいた答えではなかったし俺は言い方を変えることにした。


「いるのが自分一人で確実に逃げられなかったら?」

「自分がその敵より勝っている部分で勝負する。相手より速いのならば相手より速く動く、とか」


 その言葉を聞いて考え込む。

 ならば俺がタケルに勝っている部分、となるとやはり回復魔法による継戦能力になるわけか。


 恐らく速度も力も何もかもが勝てない。

 となると回復量で勝負するしかない。


「ちなみにその勝っている部分が回復力の場合は?」


 俺はそう聞いてみたら少女は苦笑いをした。


「な、何とかなるんじゃない?」


 返ってきたのはそんな言葉。

 結局戦闘においては回復する量より攻撃で削られる量の方が大きい。

 だから回復はあまり重要視されていない。


 そのため少女のこんな反応は当然のものだ。

 だが俺はこれで勝負するしかないのだ。


「ありがとう」


 礼を言って俺は立ち上がった。


「まぁ、逃げられるなら逃げるに越したことはないだろうな」


 俺にそう言ってくる少女に答える。


「逃げられないんだよ」

「そう。なら頑張るんだな。それからいいかい?名前を教えてくれないか?」

「ロード」

「ロード、か。君とはまたいずれ会う気がするよ。ここで会ったのも何かの縁だろう」


 俺はその言葉を受けてその場を後にすることにした。

 兎に角明日に備えよう。

 そう思い酒場を後にしようとした時だった。


「あだっ!」

「っ!」


 俺は人とぶつかったらしい。


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