18 ファイアをまともに使えませんでした
俺は翌日姉さんに聖草を使っていた。
だが
「これでも駄目なのか」
「ロード、本当にアイテムを取ってきてくれたんですね。お姉ちゃん感激です」
そう言っている姉さんだが
「本当にいいんですよ?ロード、私は気にしていませんから」
「ん、あぁ」
姉さんが本心からそう言ってるのは理解出来る。
でも、そう思っていたら
「ロード、あなたがナティアを救わなければ私は怒るつもりでした。私は治るかも分からない身ですがナティアは確実に治せます。私の目なんてもう見えなくてもいいんですよ。それを覚えておいてください」
言葉から姉さんの【覚悟】が伝わってくる。
これが姉さんの覚悟か。
でもその後およよと嘘泣きを始めた
「かっこいい弟のロードの顔を見れないのは残念ではありますけどね。うえーん」
「そうか」
そう答えて俺は改めて姉さんの覚悟を理解した。
姉さんは本当に見えなくていい。そう思ってるんだ。
なら俺がそんな姉さんのために動く必要はない。
でも罪悪感は残る。
「罪悪感があるのならば気にしなくていいですよ」
そんな俺の気持ちを読むような姉さん。
「目が見えないおかげで私には心の目が出来ましたから。全てを見通す心の目。あの事件にはむしろ感謝したいくらいです。私をより高みへと導いてくれたのですから」
確かに姉さんは強くなった。
目が見えていた頃よりも。
その言い分は正しいのかもしれない。
「だからあなたが罪悪感を感じる必要はないんです」
「分かった。俺は姉さんを優先して動くのはやめる」
「そうです。それでいいんです」
姉さんは笑顔になった。
「私のせいでロードが自由に生きられないなんてそれ以上に悲しいことはありませんから」
「あぁ。もう、過去を引きずるのはやめる」
「えぇ、それでいいんです」
ところで、と姉さんは話題を変える。
「これからどうやって生きていきますか?」
「俺は馬鹿にしてきた奴ら全員を見返したい。誰にも馬鹿にされないくらい強くなりたい」
これは俺の封印してきた思いだった。
俺は今まで姉さんのために生きてきた。
でも俺はこれからは自分に素直に生きていく。
「強い冒険者になって、俺を捨てた顔も名前も知らない両親も、俺に雑用や面倒事ばかり押し付けてきた学園の連中も、タケル達も全員見返したい。俺の底力を見抜けなかったこと後悔させたい」
その時ドアがノックされた。扉を開いたら
そこにはリエルの姿があった。
「何をしに来たんだ?」
「勿論パーティ勧誘だ」
だろうなと思いました。
「と、言いたいところだが、なぁ、ロード」
「ん?」
「実は今回はパーティ勧誘に来たわけではないのだ。えーとそのお前を雇いたい」
「雇う?」
「あぁ。報酬は出す。パーティに所属というより、ある依頼を手伝って欲しいだけだ。お前にとっても悪くないものだと思うが」
「話は聞こうか」
「そう来なくては」
◇
リエルとの約束で明日隣国へ移動することになった。
彼女の話によると今回の依頼で俺はまた新たなトレジャーをゲットできて、新しい魔法も覚えられると言う。
俺は即頷いた。
その夜に草原に来ていた。
横にはニーナがいる。
「ロード様。では、教えていただけますか?」
「いいぞ」
俺はニーナに並行魔法を教えようとしていた。
教えてくれと頼まれたからだった。
「えい!ファイア!」
ニーナが魔法ファイアを使う。
右の手のひらに現れた小さな火の玉。
それから、
「ファイア!」
次は左手の上に出そうとしているのだろうか。
プルプルと左手を震わせている。
しかし中々火が出てこない。
そして
スゥ。
最初に出していた火も消えてしまった。
「はぁ!だめです!」
ゴロン。
草の上に寝転がってしまった。
「難しすぎますよぉ!」
「そうか?なら、ヒールでやってみたら?」
俺がそう言うと起き上がってきたニーナ。
「ヒール!」
頑張って使おうとしてるけど不発だ。
上手く発動出来ないらしい。
「何かコツとかあるんでしょうか?」
「知らないよそんなの」
そう言って俺はヒールを2回使った。
「な、何でそんなに上手く出来るんですか?!」
「いつの間にか出来るようになってた」
何度も言うけど別に練習したわけじゃないから説明しにくいし、正直出来ない気持ちも分からない。
「い、いつの間にか出来るようになってたって、凄いですね。皆さんこればかり練習して結局出来ないって言うのにですよ」
「そうなのか?」
「はい。並行魔法は冒険者の習得出来る中で最高峰のテクニックと言われてるほどですよ。それをもう達成出来てるなんてロード様がスゴすぎるんです!ところでファイアでもやってみてくれませんか?」
そう言われた。
ファイアも使えないことはない。
俺がヒール以外を使わないのは得意じゃないからだ。
「笑いたきゃ笑えばいいさ」
そう言ってから
「ファイア」
俺は3回発動させたつもりだった。
ヒュン!
ヒュン!
2つの玉が飛んでいく。
ファイアで120ダメージ!
ファイアで120ダメージ!
合計240ダメージ!
ゴブリンを倒した!
「2回か。それに威力も低い」
一般的に魔法のダメージや回復量は固定されているとは言われてるけど、それは何のミスもなく使えた場合の最大値が皆同じになるという話で、厳密に言えばコンスタントに最大値を出せないなら話は変わる。
例えばヒールなんて誰が使っても100までしか出ない。
だがその最中に何らかのミスなどがあれば回復量が80になったり60になったりもする。
そして、ファイアは150ダメージ出せるはずなんだが。
「だめだ」
ある程度魔法を使えばどんな魔法でも、どんな状況でもだいたいは最大値を出せるようになる。
しかし俺は今出せていなかった。
そんな俺を見てポカーンと口を開けているニーナ。
「笑いたきゃ笑えばいいさ。呆れてるんだろ?初級魔法のファイアすら満足に使えないんだから。それに俺は3回使ったつもりだった。でも2発しか出てない」
やはり俺はファイアを封印しておくべきなのかもしれない。
いくら慣れないことをしたと言っても初級魔法で最大値を出せないのはちょっとな。
「ち、違いますよ?!どうして当たり前のように並行魔法が使えるんですか?!だから驚いてただけですよ?!」
どうやら俺の勘違いだったらしい。
「え?そうなのか」
「そうですよ?!」
その後もニーナはファイア!ファイア!と言い続ける。
でも結局プスゥと音を鳴らして消えていく火の玉達だった。
俺が何気なく使えるようになっていたテクニックはそれだけ難しいのだろうか?