14 難所を突破したみたいですが
───────聖なる森~エリア2
この聖なる森というダンジョンはエリア1~3で構成されている。
ここはその2番目だ。
もう既に折り返し地点までやってきている事になる。
「ナティア、思い出したか?」
そこでクダラが真顔で口を開いた。
要件はやはりあの事だ。
「だから何も返すものなんてないって言ってるでしょ」
「盗みすぎて何を盗んだかも忘れちまったのか?盗み癖がついてるんだな。これだから薄汚い盗賊は」
ナティアに目をやるクダラ。
「何?好き勝手言わないで」
2人の間では火花が散っていた。
「まぁまぁ、落ち着け2人とも」
やはりメイガスが仲裁に入る。
「思い出しておけよ?」
またしてもクダラがそう口にする。
「何を返して欲しいのか口にしなさいよ」
しかしナティアがそう返した。
「ここで言ってもいいのか?お前の名に傷がつくだろうが。ただですらお前は盗賊だ。更に名を地に落とす事になるだろうが」
「……」
その言葉には何も答えられないナティア。
「分かったら思い出しておけよ」
ここでその話は終わった。
それを見送ってから話題を変えるようにメイガスが口を開いた。
「ここから先はポイズンフロッグのエリアだ。かなりの難所に足を踏み入れることになる」
そんなような事を説明し始めるメイガスを横目に俺はクダラに話しかけた。
「あんた、本当に剣士か?」
思っていた事を聞いてみる事にした。
こいつは剣士と聞いていたけれど違うと思う。
「何故そう思う?」
「ここまでの戦い方を見て思っていた。あんた剣を苦手にしているような感じがした」
剣士の戦い方は嫌なほど見てきている。
例えば姉さん、例えばタケル。
色々な剣士を見てきたがこいつの動きはその誰とも似つかない。
「ふっ、なるほどな。アホのナティアと一緒にいるからと侮っていたがよく観察しているなお前は」
「褒めていると受け取っていいか」
「あぁ、よく観察しているよ。もっとも観察だけしていても勝てないがな。それは流石の赤ちゃん冒険者でも理解できるよな?」
口元を歪めるクダラ。
見るからに悪そうな顔だ。
「俺は確かに本業の剣士ではない」
「話していいのか?」
「別に隠している訳では無いからな。それにお前のように目ざとい奴にはバレているだろう」
「なるほどな」
俺はこの時こいつの顔を観察していた。
人を小馬鹿にしているようなそんな感じの顔だった。
「大変だな。俺からナティアに大事なものを返すように伝えておこう」
「あ、あぁ、よろしく頼む」
こいつが僅かに眉を動かし目を細めた。何の演技もしていない素なんだろう。
その些細な変化を見逃さない。
「まさか、お前がそう言うとは思っていなかった。ナティアの肩を持つものだと思っていたからな」
「なに、嘘は良くない」
このセリフはナティアに向かって言った訳では無い
「そりゃそうだ。もっともあの盗賊にはそう思うだけの人の気持ちとやらがないようだが」
いつもの人を小馬鹿にするような顔をする辺りナティアに言ってると思い込んでいるんだろう。
それからもう1つ仕込みをしておこうと思ってニーナに話しかけた。
俺の考えが正しいなら今回クダラの動きがあるかもしれない。
「ニーナこの作戦で俺がもし皆より帰るのが遅れたら。1つのことをして欲しい」
「はい、何でしょう?」
「この作戦に参加した奴全員を一日でいい。ギルドに拘束してくれ」
「え?」
「協力者が必要だ。お前を選んだのは俺がお前を間違いなく信頼している、その証だと思っていい」
「信頼、はい!」
俺はそれからナティアの隣に立った。
「なんの話ししてたの」
「大した話ではない」
そう言った直後メイガスの説明も終わったようで彼らはフロッグが待つエリアに向かっていった。
さて、俺達も進むか。
「ゲェェェェェェェェ!!!!!!」
俺たちが中に入った瞬間ポイズンフロッグが叫び声を上げた。
「ぐおっ!相変わらずすげぇな!」
メイガスが指示を出していく。
でもその前にフロッグが後ろにある紫色の水溜まりに口を突っ込み溜め込んだ。
そしてそれを
ブシャァァァァァァ!!!!!
周りにかけ始めた。
「気をつけろ!死の毒だ!絶対に当たるな!!」
どうやらこれがそうらしい。
しかし、何人かがその毒に触れてしまう。
「きゃっ!」
「うわっ!」
そいつらの体力が減っていく。
体力
1850→1550
1790→1490
と言った感じに
「気をつけろ!死の毒は毎秒体力を300ずつ削る!ロードォ!」
メイガスのセリフに俺も反応する。
「ヒール」
俺がいる限りはまだ誰も死なせんよ
デバフの影響を受けているヤツらを回復した。
そして、やがて、ドォォォォォォォン!!!!!
ポイズンフロッグは倒れた。
数の暴力の前では何もできなかったらしい。
「や、やったぞぉぉぉぉぉ!!!!!」
あちこちから歓声が上がる。
「や、やりましたよ!ロード様!」
俺の両手を取って跳ね上がるニーナ。
それから
「凄いわね!ロード!さっすが!」
ナティアまで近寄ってきた。
2人の相手をしていたらメイガスが近寄ってきた。
「さっすが相棒だぜ!今までここで平均2人は死んでた!でも今回はなんと死人0だ!!」
俺は賞賛を聞き流しながらクダラに目をやった。
「驚いた。本当にやってのけるとはな」
先程よりはマシだが人を小馬鹿にするような目で相変わらずそう言ってくる。
「これは俺の認識に誤ちがあったのだろう。今回の作戦の要はたしかにお前だった」
そう口にするクダラ。
「だろうよ?!言ったろ?!相棒はすげぇんだって!」
そんなことを言ってるメイガスを無視してクダラが口を開く。
「ところでナティア。そろそろ作戦も終わりそうだが忘れ物は思い出せたか?」
「だから思い出せないって」
先程まで何も無いと言っていたのにその強気はなくなってしまったらしいナティア。
「そうだぞ!ナティア!思い出せ!」
「借りたものは返せよー!盗賊!」
周りもナティアが悪いかのような言い方を始める。
「だ、だから本当に心当たりがないんだって!」
ナティアが弁明しているけど
「ほんとーかよー?」
「盗賊が言ってるからなぁ」
周りは信じてくれていないらしい。
「だから何も借りてないんだって!盗んでもない!」
ナティアは涙声でそう言っている。
そして俺に目を向けてきた。
「ロードは信じてくれるよね?」
それには答えず横目でクダラにチラッと目をやった。
真顔だった。こいつは嘘をつくとき何故か真顔になる癖があるらしい。
俺に剣士と名乗った時もそうだったしこれまでナティアに絡んでいた時もそうだった。
つまり、ナティアが返すものなんて何もない。
「ど、どうして私から目を逸らすの」
弱々しい声でそう言ってくるナティア。
返事をしようと思ったら
「その男は見る目があるらしいな。俺の味方をしてくれているらしい」
クダラが勝手にそう告げる。
「そ、そんな」
ナティアがエリア3に向かって走っていってしまった。
「ナティア!」
俺も急いであとを追いかける。
その時ちらっと見たクダラの顔はこれ以上ないくらいに歪んでいた。