2:想定外の事態(前編)
「アロルドー・・・。俺腹減った。」
ソルが俺の後ろで泣き言をぼやく。
確かに俺たちは朝ごはんを口にしていないし、村を出てだいぶ歩いた。とおもう・・・。
村には時間を知らせる教会の鐘があったが、村から離れてしまえば時間を知る術は無くなってしまう。
秋だと言うのに夏の残暑さえ感じるほどに日は高く登り容赦なく俺達を照らしつける。
「確かに・・・俺も腹は減ったけど・・・今何時だろう。」
多分予想では昼時かそうでないかの合間辺りだと思う。11時かその位の感覚だ。
俺達は村を出る際にソルのおばさんから乾パンと川魚の干物を貰った。俺も昨日の晩に用意した猪の干し肉を持参しているが量はそれ程多くは持ち合わせていない。
取り敢えず"腹が減っては戦ができぬ"だ。丁度よく街道沿いに日陰で休めるような大きな木を見つけたのでその下で今日初めての食事を摂ることにした。
俺達が持参した食料は2日分だ。
リュートの街迄は、何も起きなければ2日で着く。本当にその分しか食事は持ってきていない。
それ以上持ってきても重いだけだし、不測の事態。例えば魔物や猛獣に襲われた際に重い荷物では対処が困難だと思ったからだ。
その所為で貯めていたお金もそれ程多くは持ってきて居ないのだが、其れは失敗だったと今更になって思う。
街道沿いには勿論宿屋や小さな宿場街はある訳で、低ランクの部屋でも料金はそれなりに取られる。
しかし、リュートの街でも泊まるところは必須だ。
持ち合わせが元々少ない今無駄な出費は出来ないので、当然夜は野宿になる。
しかし・・・
勿論夜になれば危険も増えるわけで、夜行性の魔獣なんかは活性化してしまう。
俺はその事を全く考えていなかったから馬鹿だと思う。
いくら魔獣と戦う冒険者に成りたいとは言えど夜くらいは安心して眠りたい。
何はともあれ出発してしまった以上もう戻るわけにも行かないし、今からそんな事を考えていても仕方が無い。
事は全てなるようになる・・・筈だ。
そんな一抹の不安を抱えながらも、俺たちは木陰で秋風に吹かれながら昼食を摂ったのだった。
それからはまた歩く。
ひたすら歩く。
道は地平線まで続き、其れは果ての無い物のようだった。
ろくに村から出ない俺たちにとって、それは不安でしか無い。
(本当にリュートまで行けるのか・・・)
そんな思いばかりが頭を巡る。
そんな時にソルが居てくれて本当に良かったと思う。俺一人では多分心が折れていた様な気がするから。
ソルは相変わらずで道端の珍しい草を見つける度に興味津々にそれを摘んで行く。
何の草で何に使えるか俺にはサッパリだが、ソルのその目を見るからに有用性が有るのだろう。
ソルは丁寧に摘んで、丁寧にしまう。
干からびないように魔法瓶に入れて・・・。
この勢いだとリュートに着く前にソルのカバンが草まみれになる気がする。
そうこうしてる間にも俺たちは隣街のルッシュタルトまで足を進めそして日も暮れて来た頃に、今夜の野営地を探すことにした。
とは言っても、俺らが住んでいたアールズ村の隣街に当たるここ、ルッシュタルトは、街の中心部は家々が密集しているものの、周辺はなだらかな丘陵地帯が多く、放牧が盛んで牧草地体が街の殆どを占めている。
当然見晴らしは良く、家畜は魔獣の良い餌食となるため牧草地は魔獣による被害が多いらしい。
隣である俺たちの村は、主に農業が盛んな村なので肉食獣にとってもルッシュタルトの牧草地は良い餌場になるのだろう。
ただ今回は呑気に客観視点で説明などしている場合では無い。
何故なら俺たちはルッシュタルトの宿で泊まる予定は無いからだ。
ルッシュタルトは魔物による危険も身近に有るので、街周辺を防壁がぐるっと囲んでいる。
なので、中に入ってしまえば魔物に襲われる心配は無いのだが、野宿する訳にも行かない。夜の街は盗人が多いのだ。
逆に外は魔獣への危険が高まる分夜盗等は早々出ない。これはルッシュタルトの門番情報なので間違いは無いだろう。
理由は簡単で魔獣が出没するからだ。
聞いた話によると、野盗の殆どは職に溢れた村人や農民らしく、ルッシュタルト周辺の様に魔獣の出没地となっているような場所へはわざわざ来ないらしい。
魔獣へ対抗できるような武術や剣術等を身につけていないのだろう。
俺はそれでも防壁の中の街で野宿したかったが、門番に「宿に泊まれんなら出ていけ」と一括されたので、魔獣に怯えながら夜を明けるしか選択肢は無いらしい。
「ちくしょう・・・あの門番め!」
「落ち着けソル。仕方がないよ、俺ら持ち合わせ少なくて泊まれないの本当だから。」
「それにしたって非情じゃないか?もう少しお慈悲をくれてもいいと思う。あの門番、俺達を魔獣の餌にするつもりだ、絶対。」
「俺が魔獣なんか追っ払ってやるよ。睡眠時間減るのは気に食わないけど。」
正直本物の魔獣がどんなものか知らない俺は魔獣を見てみたい気持ちはある。
アールズの村はそれだけ平和だったのだ。
──それに俺の腕がどんなものか1度で良いから確かめたかったし。
実践というのは緊張するが同時に楽しみでもある。
格物致知とも言うが、腕をあげるには何事も経験と物事に対する向上心を忘れず、様々な物を見極めて知識を磨く事が重要なのだ。
俺達は街道沿いの少し広さがある空き地に野宿する事となった。
夜番の見張りは4時間交代で行う。
ここはルッシュタルトがすぐ側なので、微かながら協会の鐘も聴こえるので便利である。
そして何かあった時はすぐさま起こすと言う手筈になっている。
とりあえず、俺たちは夕食を取り、お互いに十分な睡眠を得られるよう、ソルが早めに就寝した。
それからは静かだ。草原を駆ける爽やかで涼しい秋風が草を揺らし"ザワザワ"と葉の擦れ合う音が響く。さらに秋虫たちが静かに奏でる音色はとても綺麗で、普段は気にしなくとも、改めて耳を澄まして聴き入るとそれはとても心地いいものだ。
空を見上げると満点の星空が輝いている。褐色と青の2つの月が並ぶように大地を薄く照らしている様は、言葉に言い表せないほど幻想的だと俺は思う。
俺はロマンチストなんだなと、この時ふと思ったほどだ。
そんな世界にどっぷり浸ってるとどこからか遠吠えが聴こえる。
その遠吠えが俺を現実へと引き戻した。
多分この声は魔狼だと思う。
しかもここからそう遠くは無い場所に居るようだ。
魔狼とは普通の狼が魔力によって突然変異したもので、狼よりも一回り大きく、前に読んだ魔獣の本に書かれた記実では、その強さもかなりのものだ。
フェンリルは主に炎の吐息を使用して来るため、そこそこに面倒臭い相手だと思う。
狼としての嗅覚も持ち合わせているアイツらは、多分直ぐ俺たちに気がつくだろう。
魔狼は家畜よりも魔力を持った人間が大好物なのだ。
「おい、ソル。フェンリルだ、起きろ。」
俺はすぐ様ソルを起こしにかかったが・・・なんて寝起きの悪いクソ野郎なのだろう。
なかなか起きないどころか煩そうに揺する腕を払いのけられた。
──コイツは死にたいんだろうか・・・。
そんな攻防を繰り広げてる間に小高い丘から黒いシルエットが3匹現れる。
────魔狼の登場だ。
「おいソル!!!死にたくなけりゃさっさと起きやがれっ!!!!」
──ベシッ
「ソルってば」
──ドカッ・・・
殴られ蹴られる俺はもう諦めた。どうせ最初の予定では一人旅のハズだったのだ。
俺は背中に掛けた父親から貰った大剣を抜き取り構える。
フェンリル達もまた美味そうなご馳走を見つけたと言う感じで涎をダラダラと垂らしている。それは月の光に反射し何とも艶かしい光景だった。
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勇者の夢はあるものの、いざ立ち向かうとなるとやはり恐ろしいものがある。
俺にとって奴らは敵で、奴らにとって俺らは単なる餌でしか無い。
俺は武者震いとも言える震える手で大剣の柄をしっかりと握り、彼奴らを見据える。
(寝てるソルを守りながらは厳しいな・・・)
何せ相手は3匹も居るのだ。1人1匹でもどうなるか分からないのに3匹も一遍に相手できるかなど俺には分からない。
でも俺は今まで頑張ってきた。誰よりも強くなるために努力してきたのだ。
────俺ならできる。
そう強く俺は思った。
下位の支援魔法ならば俺も使えるので防御力を少しでも良いから上げておく。
「風の護り手、魔力吸収」
風の護り手というのは風魔法の一種で風を高気密に圧縮し空気に層を作り出すことで物理攻撃の威力を若干だが削ぐ事が出来る。
ちなみに上位魔法なるとこれが、完全防御(一定時間物理攻撃無効化)や絶対無敵(一定ダメージ分物理、魔法攻撃共に無効化)へと置き換わるが、どちらも魔力消費がエグい上に完全無敵なんかは、一定ダメージで効果消滅、使った瞬間に今まで使用してた支援バフが全部無くなるとか言う仕様だ。
その為、有用性で考えれば、新たな効果を付与しても既存効果が消えることは無く追加付与となる為に、圧倒的に完全防御の方が魔力効率に優れている。
まぁ・・・魔法がからっきしな俺にはそんな上位魔法使えないんだけどね。
ソルならばわからないが俺には下位の魔法が精一杯である。
因みに上位の攻撃魔法なら使えることは使えるが、知っての通り危険極まりないので封印中だ。
そして魔力吸収は万能魔法でもある。まず、自身や仲間に付与すれば、一定量の魔法攻撃を吸収してくれる。なので一定ダメージ分魔法による攻撃がほぼ無効化されるのだ。ただ異常状態に至っては、その限りでは無いが・・・。
そして敵に付与すれば、一定時間だが付与した敵の魔力を魔法使用者が奪うことが出来る。それは相手の魔力量の比率で得られる魔力が変わるので、魔力が多い強敵相手に使用すると絶大な恩恵を得られるのである。
ただ使い所に悩むため習得者はそれ程居ないらしい。
俺はこの2つの強化支援魔法を自分に付与した。
「グルルル・・・・」
うっへ、どうやらフェンリル君はお腹がペコペコらしい。
ギラギラと目を輝かせ獰猛な肉食獣らしく特攻してきた。
俺はまず、先陣切って襲いかかってきた一体のフェンリルを大剣で薙ぎ払う。
それは、
「きゃぅん!」
と悲鳴の様な鳴き声をあげて思いの外ぶっ飛んでった。
(うっそ、俺今そんな本気であしらったつもり無いよ?)
と、何故か動揺に駆られる俺。
そして後ろにいた2匹は剥き出しの歯の隙間から炎をチラつかせている。
(やべ、炎の吐息だ)
これは多分確実にくる。ソルに当たる。と思ったその時後ろから声が聞こえた。
「──・・・んん・・・・って、うぇ!?なにこれ?フェンリル??えっ、アロルド何これどういう状況!?もしかしてヤバい感じ???」
あわあわと慌てるようにソルが飛び起きたのだ。
さっきまであれだけぶっ叩いて起きなかったのに、ここに来て生命の危険を感知したのだろうか。
ともかく起きたなら手伝って欲しい。
「おい、ソル!そこから離れろ!炎の吐息が来るぞ!!」
「ちょっ!!まっ、まって!!!」
ソルが荷物を抱え慌ててその場から離れた瞬間"ぶわぁっ"とフェンリルの口から炎が吐かれる。
それはさっきまでソルが寝ていた草地を一瞬で焼き尽くした。
それを見てソルは「なにこの化け物!!!」とか騒いでる。
「ソル!支援魔法と回復を頼む!俺はコイツらを片付ける!」
「いや!何がなんだかわかんないけど、取り敢えず支援と回復ね・・・!」
そうして俺たちのフェンリルとの戦いが始まった。
全部収まらないので前編後編でわけます。
後編はフェンリルとの戦いとリュート迄の道のりを執筆予定です。
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