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村人が勇者を目指してみてもいいですか?  作者: 隈
1章 冒険者への道
1/3

1:憧れ

 誰もが憧れる英雄や勇者。


 小さい頃に沢山聞いたそんな英雄譚をずっと忘れずに覚えている。

 そんな御伽噺(おとぎばなし)に書かれる勇者達は、いくつもの魔法を行使し、複数の精霊を使役する。そして類まれなる強さを持ち剣をも交えて戦う姿いつの時代も小さな子供たちの憧れの的だった。


 俺もその1人であり勇者になるという夢は今でも変わらない。



 ___俺はいつかずっともっと強くなって勇者みたいになるんだ・・・!



 そう心に決めたのは5歳の冬だった。



 ————————————————


「せいやぁっ!!!!!」


 大きな声とともにスパァン!!!と歯切れのいい音が森の中で木霊する。


「今日もがんばってんねぇアロルド」


 俺の名前はアロルド今年で15になる。夢は勇者。ひとまずは冒険者から名を馳せたいからこうして木人をぶん殴っている。


「もっと強くならなきゃ勇者なんて目指せないからな。ソルは今から薬草とりか?」


「そうだよ。そろそろ新しい薬でも開発しようと思って」


 こいつはソルだ。俺の幼なじみで研究バカだ。ただこいつの発明はすごい。

 魔力と体力の回復を行えるフルポーションなんか多分画期的じゃないだろうか?


 一応体力回復のポーションと魔力回復のポーションはあるがその効果をまとめたポーションなんてものは存在しない。 きっと売り出せば金になると思う。


「ねぇねぇアロルド。剣ばっかり練習してないでちょっとは魔法の特訓したら?ほらお話の勇者も魔法使えるじゃん?剣ばっかり上達してどうするのさ」


 うぐ・・・


 ソルが言うことは正論である。俺が大好きな話に出てくる勇者は魔法も剣も使える。


 ただ・・・


 ──俺は魔法が大の苦手なのだ。


 別に魔力が少ないとかそういう訳じゃない。魔力は人並み以上に多い方だし、歳の割にも結構な保有量だと思う。


 しかし、俺は制御所か威力の加減も出来ない。

 昔・・・と言っても5年前だけど、父さんと魔法の訓練中にうっかり村の一部を吹き飛ばしたことだってある。


 もちろん狙った的には当たらないしかすりもしない。



「俺は魔法が苦手なんだよ!その事知ってるくせに!」


「アロルドってそういう所不器用だよね。剣さばきも魔力量も凄いのに」


 そうは言われても苦手なものは苦手だ。人はだれしも苦手なものはあるだろう。

 それでも俺は勇者になりたい。そしてこの世界の悪を打ち倒すんだ!



「──でもさアロルド、魔王なんてこの世界には居ないじゃないか。魔獣とか魔物ならいるけど。」



 そう、この世界には魔獣や魔物は居ても魔人や魔王なる魔人族は存在しない。

 でも都を脅かすほどの強大な力を持った魔獣は何体も存在する。

 だから俺は冒険者になりたい。御伽噺(おとぎばなし)の様な勇者になれなくても、いつか今よりずっと強くなって・・・、そして!どんな強敵からも皆を守るヒーローになりたい!

 俺が出来ないなんて言わせない。努力しても報われないなんて言わせない。



 俺は勇者の様な皆を守れる力が欲しいのだ。



「ソル、俺さリュートの街に行って冒険者になるよ。それできっと皆が憧れる勇者の様な英雄になってやるんだ!」



 俺は本気だ、親が止めても・・・誰が止めようとも絶対に冒険者になって名を馳せてやるんだ。

 そのために俺の村から一番近くの冒険者ギルドに俺は絶対入る。


 そんな夢を思い描きながら俺はもう一度木人を切り付けた。



 俺が冒険者になるには、まずは冒険者登録が必要不可欠だ。だが、今すぐ冒険者として始めるには装備品も何も足りない・・・。それにポーション・・・


 ──とりあえずポーションはソルに頼んでみるか・・・


 後日ソルに懇願したところ、「出世払いでいいよ!」とすごく爽やかな笑顔で返されてしまった。別にいいけど。


 そして俺は両親へ相談する。俺の家は農家で、昔から父さんは俺を家の跡継ぎにしたがっていた。だけど俺はそんなの真っ平御免だし、俺の弟のブラントが非力ながらも父さんの仕事を好き好んで手伝っていたのだから、俺は弟の方が適任なのではないかと思う。


 ・・・多分怒られるだろうなぁ。


 そんな思いを胸にその日の夜両親・・・と弟も混ぜ俺は話を切り出した。


「なぁ、俺冒険者になろうと思うんだ」


 俺の()()()()を母さんはなんとも優しい表情で聴いている。


 知ってたのかな・・・?


 父さんはと言うと、怖いほどの笑みを顔面に貼り付けたままフリーズしていた。弟は何故か興奮している様子だ。


「アロルド、お前家は継がないのか?」


 少しの沈黙の後俺の父さんはそう口に出した。

 もし、俺が勇者という夢を抱かなければ確かに家を継いでいたかもしれない。

 父さんと弟と一緒に土を耕して、野菜を育てていたかもしれない。

 でも俺は勇者になりたい夢を諦められなかった。


「父さん、俺は家を継ぐ気はないよ。俺はどうしても冒険者になりたい。勇者様の様に強くなって皆を守りたい。」


「ダメだ・・・男手が一人いなくなったらその穴は誰が埋めるんだ?うちは収穫した作物を税金として国へ差し出し、残った僅かな食べ物で1年なんとか暮らしてるんだ。」


 ──お前でもわかるよな・・・?


 そう最後に聞こえてきた。


 確かに家はそんなに裕福ではないし、生活水準は低い。

 それに、ほかの家とは比べて兄弟が弟しかいない。ソルの家なんかは、ソルの他に兄さんが2人、弟が1人、妹が2人居る。


 だから、手伝い手が元々少ない中で俺という大きな労働力が無くなることは自分だってわかる。

 それが痛いほどにわかる俺だからこそ反論もできず口を噤む。そんな俺を見て父さんはさらに口を開いた。


「アロルド、冒険者なんか危険な仕事は辞めてくれ。今みんなこうやって幸せに暮らしているんだ。わざわざ危険な場所へ飛び込むような真似は辞めてくれ。」


 これは父さんの愛情なのだろう。冒険者はいつどこで死ぬかわからない。父さんも母さんも俺を愛してくれている。

 でもそんな中母さんがゆっくり口を開いた。


「私はアロルドが冒険者になりたいならそれでいいと思うの。」


「ソフィア・・・お前・・・」


「ノルダール、貴方は少し黙っていて。」


 母さんにそう言われた父さんが、何か言いたそうにしながら押し黙る


「あのねアロルド、私は貴方が望んだ道を歩んで欲しいと思っているの。正直、冒険者になって勇者を目指すって言われた時は驚いたけれど・・・でも、貴方が昔から勇者の英雄譚が大好きで、本の表紙が擦り切れるまで読み直してたこと位知ってるのよ?」


 母さんは小さく"ふふっ"と笑った。俺は少し恥ずかしくて目を伏せる。


「冒険者が危険な職業なのは私もわかるわ。でも、貴方が本当に覚悟を決めて行くなら私は応援したいの。ノルダールもこうは言ってるけど、私もノルダールも可愛い貴方が心配なのよ」


 父さんはそっぽを向きながら顔を合わせてはくれず、ふんっ、と鼻を鳴らしている。


「じゃぁ母さん・・・俺が冒険者になってもいいの?」


「私は良いと思う。ただ命を粗末にはしないでちょうだい。私は貴方を愛してる」


 その言葉にはとてつもない位の深い愛情が詰まっているのだなと俺は思った。

 父さんはと言うと険しい顔をして"「勝手にしろ!」"と家を出てってしまった。

 そんな父さんを見て母さんは「貴方が居なくなるのが寂しいのよ。」とか言ってる。


「アロルド、母さんは貴方が冒険者になるのはいいと思うけど、ブラントもまだ小さいからせめて秋の収穫が終わるまで待って欲しいの・・・。それでもいい?」


 弟のブラントはまだ6歳だ。確かに本格的な力仕事は難しい。

 でも1番大変な収穫が終われば後は冬を静かに過ごして春を迎えればいい。

 俺の住んでる地方は少し南にあって、雪は降るけどそんなに雪深くはならない。


 俺は母さんの提案に深く頷いた。


「わかったよ母さん。俺秋までは家の仕事手伝うから。あとブラントにも仕事教えなきゃね。ブラントは畑仕事に興味があるみたいだからきっと直ぐ覚えてくれるよ。」


 母さんは小さく頷くと夕飯の支度が途中だから、と台所へ戻っていく。相変わらず父さんは帰ってこなかったが冒険者になってもいいと言われたのは大きな1歩なのでは無いだろうかと思う。


 それから父さんは俺とあまり口をきいてくれなくなった。

 怒ってるのかなとも思ったけど、どうしても家に残って欲しいらしい。

 2週間過ぎても、1ヶ月が過ぎても口を聞いてくれないのは、多分今までで新記録だろう。

 ・・・いや、ぶっちぎりの新記録だな。


 普段は仲がいいのに、いまは常にギクシャクしているのでうちに遊びに来たソルも驚いた表情をしていた。


「アロルド、なんかあった・・・?」


「いやちょっとね」


「お前んとこの我が子大好きおじさんがあんな口も聞かないなんてとこ初めて見たぞ俺。」


 ・・・どうやら俺の父さんはめちゃくちゃ親バカらしい。なんとなく予想はしてたけど。


「いや、前に冒険者になるって言ってからずっとこんなだよ。」


「あぁそれで・・・。アロルドお前あと2ヶ月でリュート行くんだろ・・・?それまで仲直りしておけよ。」


「あぁ、わかってる。」


 ソルはホントにわかってんのかコイツ。と言う顔だが、俺だって別に話しかけたくなくて何もしないわけじゃない。俺が話しかけようとする度に父さんが距離を取るのだ。


 ソルに言われた通り俺は努力したが全く仲直りが出来ないまま2ヶ月が過ぎてしまった。


(もう家族といるのも明日で最後か・・・早かったなぁ)


 そんな事を思いながら朝の光に目を覚ます。


「アロルド、準備は出来てるの?」


 母さんの声が聞こえるとガチャリと自室の扉が開けられる。


 今日までの2ヶ月は大変だった。

 相変わらず魔法は苦手なままだし、ずっと使っていた剣が折れて、今の武器は小剣しかない。小剣とは言っても見た目はナイフと余り変わらない。

 そんな装備を見て母さんは心配するし、相変わらず父さんは口を聞いてくれないままだ。


「準備は出来てるけど・・・あ、ソルの所からポーション貰ってこなきゃ」


「ポーションなんてそんな高価なもの・・・お金は?」


 ポーションは体力ポーションで銀貨1枚と大銅貨2枚、魔力ポーションで銀貨1枚と大銅貨5枚が必要だ。

 うちの月収入が銀貨2枚なのでうちの月収ほぼ使って1本買える金額である。


「お金はソルが出世払いでいいっていうから後払い。」


「ちゃんと払うのよ?」


「誰も代金踏み倒したりなんかしないよ。」


 俺は少し笑うと母さんにソルの家へ行くと伝えて家を出た。


 ソルの家は俺の家から歩いて10分ぐらいの距離にある。俺の村は人も少ないのでお隣さんが凄まじく遠いのだ。

 ちなみにソルの家は一応俺のお隣さんである。


 見渡す限りの田畑を通り、牧草地体の丘を抜けてようやくソルが住む家が見えた。

 俺は玄関に駆け寄ってドアをノックする。するとソルの親が出てきた。


「おはよう。ライラおばさん!ソルは?」


「あれ?うちの子ならさっき森に出かけてったけど・・・なんかの約束かい?」


「特に約束はしてないけど、森へ行ったなら追いかけてみるよ!ありがとうおばさん!」


 俺は、おばさんに礼を言って森へと走り出す。


(ソルのやつどこいったんだ・・・?)


 ソルを探しながら森を歩いていると、どこからか声が聞こえてきた。なんと言ってるかはわからないがそれは俺の脳内に直接語りかけてくるようだった。


「ま・・・・あな・・・くる・・・まって・・・」


 途切れ途切れのこの声は誰のものだろうか・・・


 そんな事を考えていると後ろからソルの声が聞こえる。


「アロルドー!」


「ソル、探したんだぞ。」


 先程まで聞こえていた声は消え俺はソルの呼び掛けに答える。


「ごめんごめん!薬草取りに言ってた!」


「あれ?ポーションだいぶ作ったって聞いたけど、まだ作るのか?」


「違う違う!俺もついて行くんだよ!」


(ん・・・?こいつは何言ってんの?付いてくるとか言ってたよね?)


「付いてくるって・・・俺に?」


「そう、お前に」


 やっぱり聞き間違いではなかった。

 聞いた話によると、俺だけじゃ心配だからついていくそうだ。とは言ってもソルは回復や特殊効果付与の支援魔法しか得意ではないらしいが・・・回復役が居てくれるのは素直に嬉しい。


「おばさんは良いって言ったのか?」


「あぁ、うちはほら兄弟おおいし」


 さすが大家族・・・俺ももう少し兄弟が欲しかった。


 何はともあれ仲間が増えたのは俺としても心強いので、まぁ良いだろう。


 俺は残りの僅かな時間を明日の出立準備と家族との時間に宛てた。相変わらず父さんは目も合わせてくれないが、その雰囲気はどこか寂しそうだった。


 そして家族と過ごせる最後の夜も、俺は父さんと言葉を交わすことなく、その日を終えた。


 旅立ちの朝は恵まれた様な晴天だ。

 雲ひとつない空、まだ日の登らない東の空は黒からうっすらと青みを帯び始め、まだ星が瞬く夜空を目覚めたばかりの小鳥達が飛んでいく。


 風は穏やかに木々を揺らし、まさに今日という日を祝ってくれているようだ。


 やがて朝日が見え始めると、少しだけ遠くにある村の協会が朝の訪れを知らせる鐘を鳴らす。


 俺は旅立つために不備が無いか念入りにカバンをチェックする。

 忘れ物は・・・多分無い、とおもう。


 とは言ってもリュートの街は歩いて2日位で着くし、何か起きれば戻ってきてもいいんだけど。

(とは言えどそう何回も戻ってきたのでは俺が決心した意味が無いから戻るつもりは無いんだけどね)


 家族に見送られると心残りが出来るので、俺は誰も起こさぬように短剣を腰に刺し静かに扉を開けて、ソルの家と向かう。


 昨日、早朝に迎えに行くのを告げたので、ソルもデカいカバンを携えて既に玄関前で待っていた。おばさんは起きていた様で、一緒に俺を出迎えてくれる。


「ソル、無茶はしないでね。アロルド、うちの子を宜しくね・・・」

 

 おばさんは心配そうにそう言いながら俺たちを送り出す。

 俺の家を通り過ぎリュートへ向かう街道へと出る。

 するとその先に朝日に照らされた人影が見えた。


 こちらからは逆光で良くは見えないが、少しづつ近付く度に、それが俺のよく知る人物であることに気づく。



「・・・父さん」



 俺達が進む道に立っていたのは俺の父さんだった。

 父さんは手に何か長いものを握りしめて立っている。

 俺はゆっくりと歩み寄る。


 その手に持っていたのは細かな装飾があしらわれた高価そうな大剣だった。


 これまでずっと言葉を交わして来なかった父さんが徐ろに口を開いた。


「アロルド。俺はお前ともっとたくさんの時間を過ごしたかった。でもソフィアの言う通りお前が覚悟を決めてるなら俺はとめない。お前の父親として応援する。これは餞別だ。お前の剣は壊れただろう?だから俺のなけなしの貯金で買ったんだ。無理だけはするなよ?何かあったらすぐ帰ってこい。お前の家はここだから。」


 そんな父親の言葉に少しだけ涙腺が緩む。せっかく無駄な感情を抱かないように、静かに家を出てきたのに反則だと思う。


「父さん・・・ありがとう。俺頑張るよ。」


「男は泣くもんじゃないだろう。ほらさっさといけ。」


 俺は零れかけた涙を拭って少し隣のソルに声をかける。


「行こう。リュートの街へ」


 ━━こうして俺たちの壮大な冒険が幕を開けたのだった。

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