1 ただならぬ事がおきているらしい。
「レイ、おいで」
柔らかくやさしい声だった。聞きおぼえのある声だけれど、あまりにもトーンが違って私は人違いなんじゃないかと内心思った。
でも、私は、正確にいうと私の思いとはうらはらに〝レイ〟は、にゃーん、と応じて、嬉しそうな想いとともにご主人の待つ階段の踊り場へ駆け上がる。
うわっ、うわうわうわ早いっ!
突然動き出した視界に私の目はついていかない。
そんな私の意志とは関係なく、ゴロゴロと喉を鳴らしながら細身の黒いジーンズの足元にたどり着いて身体をすり寄せた。
自分の虎じまの毛がご主人の足にくっついたのをみて、私、いや、〝レイ〟は目をほそめる。
「おかえり、遅かったね。ねこ会議してたの?」
ねこ会議? ねこ会議ってなに?
私の疑問なんて届くことはなく、〝レイ〟はそうだ、という意志とともに、にゃーんと応えてすりすりとまた身体を寄せる。すると、私の視界に影ができ、大きな腕と手のひらが二つ迫ってきた。
なに?! この巨大な手! こわこわこわ助けてぇっ
首をすくめて逃げ出そうとするのに、全く身体が動かない。むしろ私は安心しきったように力を抜いたようだった。
巨大な手はゆっくりと近づき、私の両脇に手を入れて軽々と持ち上げた。目の前に、超ドアップな……風呂上がりの濡れた髪で学校では見たこともない甘い顔が笑いながらのぞき込んでいた。
うそ、やめて……そりゃきみはイケメンだけど……まって、まって、嬉しそうに顔近づけないで、やめてやめて私のっ!
私のファーストキスがっーー!!
「やめて、河口景っっっ!!!!」
叫んで飛び起きたら自分の部屋だった。
なによこれ、なんの冗談?! 夢?
無意識に右手を額に当たると、鈍痛が頭に響いた。熱がある時にピタっと貼る冷却剤もついている。でも私はそれどころじゃなかった。
え、全然わかんない。なに、今の……
震える手で自分の唇を触った。
柔らかい感触を覚えている。ふにっとした感じと、あと、目を閉じた、奴の……
「いやぁーーーーーーーー!!!!」
東西南北向こう三軒まで叫び声が聞こえたわよっと後から母に叱られたのは、後の祭り。
お読み下さりありがとうございます!
本作はアンリさま主催の「クーデレツンジレドンキュン」企画に参加している作品です。
本日18時にもう一話投稿し、完結まで毎日投稿します。
全14話の予定です。
楽しんでいただけますように!