惑星ーウェルニアー
荘厳たる樹木が生い茂り、広大な幅を持つ川が獰猛な勢いで流れ、今にも噴火しそうな巨大な火山が活動している。
そんな大自然の見本のような世界を有しているのは、ここウェルニアである。
そのウェルニアに3人の男女が降り立とうとしていた。
「にしてもどんだけ自然に溢れてるのよ。建物の1つも見当たらないわね」
「どれ。見てみようかニャ?まさか人間が1人もいないってことはないニャ?」
アーノルドがそう答えると同時にアーノルドの目が人間の目から猛禽類のような目に変化していく。
【生物変化、鷹の目】
『アーノルド=パニュー、能力:生物変化』
「うーん。参ったニャ。虎みたいな人間に目をつけられたニャ。ニャハハ…」
「目があったの?!この距離で認識されたってわけ?!どんな野生児がいるのよこの星は!」
セイラがキレ気味で驚く。
「これはこれは。大変愉快な星でありますな。私も楽しみです!」
「あんたはいいから早く服を着な!」
裸のままのグレイが愉快そうに笑っていた。
グレイ、セイラ、アーノルドの3人は一緒に宇宙船から落下し、このウェルニアに飛ばされていたのであった。
しかし、リュウ達と違うのは、3人は落下していなかったことである。
グレイを中心にセイラ、アーノルドが空中にふわふわと浮いている、いやまるで炬燵を囲んで座っているかのようである。
「ところでグレイ、そろそろ限界じゃないのかなニャ?」
「ほっほっほ。アーノルド殿。甘く見ないでくだされ。あと2時間は維持できますぞ?」
空気を操り3人が沈むことなく浮遊した状態でいられるのはグレイの力のおかげである。
『グレイ=アルバス、能力:空気自由化』
「それにしてもやっぱりみんなバラバラになったわね。どうしたらいいのかしら」
少し憂鬱そうな表情をするセイラ。
「4組と1人に分かれたニャ」
「4組と1人ですと?誰が1人なのですか?」
グレイが片眉をあげて尋ねる。
「たぶんマルスニャ。衝突後に能力を使って全員の位置を見てみたニャ。マルスだけ1人違う方向に飛んでったニャ」
「なるほど。そうなんですね。でもマルス殿であれば心配ないでしょう!」
「そうね、あいつなら上手くやるでしょ?それよりもあたし達よ。まずはこの星の事を把握しなくちゃいけないわ!」
「それもそうですね!」
これからの方針が決まったところでアーノルドが何かに気づく。
「たしかにニャ。ん!ちょっと待つニャ」
「どうしたの?」
!!?
「土砂崩れニャ!!ここからおよそ50kmくらい離れた場所で山が崩れてるニャ。それに…その先に集落みたいなのがあるニャ!」
「ほんと?!なら助けにいかなくちゃ!」
仲間思いのセイラはこんな状況もやはり人助けをする性格であった。
「そうですな!見過ごせない状況ですぞ!」
グレイも賛同している。
「なら急いで行くニャ、もうすぐ集落に到達するニャ」
するとグレイが空中で立ち上がり、両腕で空中を掴んだ。
「よし、任せてくだされ。50kmほどでしたか?行きますよ?」
グレイが踏ん張ると、3人のいた空間が捻れだす。
次の瞬間。
ウニォン!
ものすごい勢いで3人の身体が飛ばされていく。
土砂崩れの地点に向かって飛ばされていく中で、突如セイラが叫んだ。
「グレイ!あたしだけ土砂崩れの先端に飛ばして!」
「御意!」
グレイはセイラだけを器用に横に逸らすと、土砂崩れの先端に向けてセイラだけを飛ばした。
セイラは身1つで土砂崩れを見つめながら険しい表情をみせる。
「初めてみる大災害ね。でも止めてみせる!」
セイラは両手を土砂崩れの先端にかざした。
【堤防生成】!
『セイラ=キーリンス、能力:土砂自由化』
セイラが叫ぶと、地面がみるみる内に地上に向かって競り上がっていく。
すると、さきほどまでの土砂崩れの勢いが止まる。
セイラが作り出した堤防のような土壁のおかげで、先程までの土砂崩れはピタリと止まった。
しかし、勢いは止まれど空中に飛び散る木々が多数まだ残っていた。
その木々をグレイは見つめながら片手を向ける。
「エアトランポリン!」
グレイがそう叫ぶと、木々はまるでトランポリンに跳ねたかののうに集落を避けるように遠くへ跳んでいった。
されど、グレイが取りこぼした一本の大木が集落から土砂崩れを見に来ていた子供達の近くに飛んでいっていた。
集落に住む子供達が怯えた様子でその大木が飛ぶのを眺めている。
「さがるニャ」
アーノルドが咄嗟に子供たちの前に飛び出すと左腕大きく振りかぶった。
「ゴリラパンチ!」
すると左腕が黒く膨れ上がり、まるでゴリラのような腕に変形した。
そして左アッパーを大木に当てる。
すると大木は粉々に砕かれ、衝突を免れた。
アーノルドは後ろを振り向き、子供達に笑顔を向ける。
「怪我はないニャ?」
アーノルド、セイラ、グレイのおかげで土砂崩れが集落に当たるのを免れたのであった。
ひとまず、集落の人々も落ち着いたところで林の向こうから足音が聴こえてきた。
「おお!村長!無事であったか!」
集落の長らしき人物に向かって走ってきたのは虎の顔をした兄弟であった。
そのトラ兄弟は土砂崩れの跡を見ると目を見開いた。
「兄者!これは一体どういう状況なのですか?」
「落ち着け弟よ。おそらくあの御三方が何とかしてくれたのであろう」
トラ兄弟はセイラ達の方を向くとスタスタと歩いて近づいてきた。
「そうなのですか?」
トラ兄弟の弟の方が声を掛けてくる。
「あ、さっきの虎ニャ…」
アーノルドが気まずそうな顔をする。
「え?さっき言ってた奴?」
セイラの反応に答えるようにトラの兄らしきほうが喋り出す。
「む?そういえば空に浮かんでいたのはお主らか。何やらただならぬ視線を感じたので気になったが、推測通りじゃったな。あの土砂崩れを止めるとは大した実力じゃ」
トラの兄に続いて弟も言葉を続ける。
「ええそうです!このウェルニアで大災害を止めれるのは、我らタイガー兄弟かヒョウ姉妹くらいですから!」
「弟よ。ヒョウ姉妹は余計じゃ」
「これは失礼いたした!」
トラの弟がしまっとばかりに頭を下げる。
「まあとにかく、お主らは集落の恩人じゃ。さっそくお礼をしようぞ。集落にきておくれ」
突如起きた土砂崩れに見舞われたこの集落は、ウェルニアに存在する集落の1つ、名をハプルニアと言う。
実は、セイラ達がこの災害を食い止めたことで1つの命が救われていた。
この救われたある少年の命が、幸か不幸か今後の物語に大きな影響を与えいくのである。