惑星ーセイボスー
「改めて、僕達を助けてくれてありがとう。アミラさん」
ソファに腰掛けたリュウが目の前に座っている女性にお礼を言う。
「アミラでいいよ。それに地獄沼に人間が降ってくるなんて中々見られないしね。それに…その地獄沼を回避する人間なんて始めてでね。興味が湧いたのさ」
ニヤッとした表情で答えるのは、頭から角を生やした悪魔のような見た目をした女性であった。
リュウと悪魔の女性、何故この2人がこんな状況になっているのか。
それを説明するには、この会話が起きる1時間程前に遡る。
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マルスが謎の建物の下で嘆ていた頃。
荒廃した土地が印象的な惑星で3人の仲間達が危険な目に遭遇していた。
「くっ。やっぱり霧散するハメになってしまったね!ピース!クロエ無事かい?!」
宇宙船が大破した後、リュウの予想通りに13人の仲間達はバラバラになって墜落していったのである。
現在、リュウ、ピース、クロエの3人は上空4000m付近で落下している最中であった。
「ぼ、僕は大丈夫だよ!!でもクロエの返事がない!」
「なんだって?!おそらく気を失ってるんだ!ピース頼めるかい!」
降下している最中なので、大声で会話をしている。
「わかった!【酸素生成】!」
ピースがそう叫ぶと、クロエの周りを青色の靄のようなものが包む。
『ピース=ユートレイ、能力:元素生成化』
すると、瞬く間にクロエが意識を取り戻したのである。
「ゲホッ!コホッ!はぁ…はぁ…」
「気がついたかい?クロエ!今落下中だ!動けそうかい?」
ピースの能力のおかげでクロエの身体に酸素が行き届き、何とか意識を取り戻したようだ。
「ええ、何とか大丈夫ですわ。ピースさんありがとうございます」
呼吸も次第に落ち着き、状況を把握していくクロエ。
「よし、じゃあクロエも気がついたところで現状を確認しよう。おそらくあと1分もしない内に地面に落下してしまうだろう。そして悪いことに落下地点には何か黒い池みたいなのが見える。このままいくと池にはまってしまう。だから僕の能力で回避するよ」
「大丈夫なのかい?君の力は体力を大幅に使うんじゃあ?…」
「心配ないさ、クロエもいるし問題ないだろう。それより使った後の事は頼むよ。しばらく動けそうにないだろうしね」
「ええ!全力でサポートしますわ!任せてください!」
「じゃあいくよ!」
リュウがそう言うと、地面に右手を向けて力を込める。
3人が地面にぶつかるまでおよそ100m。
地面には黒くて高温の熱を帯びた液体のようなものが溢れ出した沼のようなもながある。
リュウは下の様子を確認すると、沼の横に数匹のハイエナがいるのを目にする。
「ふぅ…。かなり悪い状況なんだね。これはだいぶ力を持っていかれそうだ、けど仕方ない!」
そう言うととリュウは目を見開いて叫んだ。
【逆化、発動】
『リュウ=メルトニア、能力:逆化』
その瞬間、リュウを含めた3人の身体が宙に浮き留まった。
すると、黒い沼の横でリュウ達の様子をヨダレを垂らして眺めていたハイエナ達が代わりに宙に浮き出した。
次の瞬間。
シュン!
すると、リュウ達は先程までハイエナ達がいた場所に移動していた。
そして、代わりにハイエナ達がリュウ達のいた沼の上空へと入れ替わっていたのだ。
「くっ!」
「うわっ!」
バタバタとピース達が着地するとリュウが地面に倒れこむ。
一方、ハイエナ達はリュウ達の代わりに空中に投げ出されのも気づかずに黒い沼に飲み込まれていった。
汗を流し、息を荒くしているリュウ。
「ピースさん!リュウさんの身体をこちらに!」
クロエが的確な指示を出すと、ピースは慌ててリュウの身体を支えてクロエの方に差し出す。
「呼吸不全に高熱、それに脱水症状まで!かなり力を消耗したのですね…」
「早く良くなってください!いきます!」
【治癒発動】
『クロエ=ブルフェルト、能力:身体調節化』
リュウの身体が緑色に包まれると、みるみるうちに呼吸が落ち着いて、状態が良くなっていった。
リュウが落ち着きを取り戻した頃、3人の元に1つの足音が近づいてきた。
ザッザッザッ。
執事のような黒服を着た老紳士が近づいてきて頭を下げた。
「お初にお目にかかります。私、ロード=グレイシアと申します。私の主が是非あなた方様に会いたいと申しております」
「主だって?何者なんだ!」
ピースは少し不安げな声色で尋ねた。
「ご安心下さい。決して敵対するつもりはございません。それにお見受けする限り、休養を必要とされる状態かと思いますが?」
クロエとピースは、リュウが目が覚めていないので判断を仰ぎたくても仰げず困惑した表情をしていた。
しかし、
「ではお言葉に甘えさして頂きますわ。」
惑星で始めて出会う人間に多少の警戒心はあれどここは従うしかないとみたクロエ達はそのロードと名乗った男に付いていくことにした。
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「へぇ〜。ニュートリアムって言うんだ、この星は」
あれから目を覚ましたリュウは、ロードに着いていった経緯を聞き、一通りの治療を受けると屋敷の主と対面していた。
「ええ。集体惑星〈ニュートリアム〉は4つの惑星と1つの管理惑星で構成されているわ。上部に存在し比較的平和な世界と呼ばれている惑星〈ネールオーブ〉。中部位置に対極に存在する1つで、大自然に囲まれるもその過酷な自然の力が未だ猛威を奮う弱肉強食な惑星〈ウェルニア〉。中部のもう1つの惑星で、科学力とロボットが支配し、極悪な天候環境にあるとされる惑星〈イジオグラム〉。そして4つの中で1番の大きさを誇り、下部に存在するこの惑星〈セイボス〉」
「なるほどね。そして広大な領土と人口を持ちながら、搾取され続けた結果、地は荒廃してしまったのがここなんだね」
リュウの返答に悪魔の女性は続ける。
「そうよ。管理惑星である〈中央惑星統括部〉。通称センターと呼ばれているわ。センターは各惑星からそれぞれ資源、エネルギー、食料、そして人間を搾取している。表向きはニュートリアムを最適かつ効率的に管理する為に配置と供給をしているらしいけど、実際のところ貴族の存在とセンターの軍事力の強制で各惑星も仕方なしに従っているのが現状よ」
「思ったよりすごい状態だね。そんな星が存在するなんて思ってもみなかったよ。だとしたら当然、そのセンターを快く思わない連中もいるんじゃないの?」
「さすがだね。その通りだよ。有名なのは反乱軍ってのがその一角だね。噂によると各惑星に存在していて、その数は計り知れないらしい。まあ、セイボスにいるあたしらからしたら何も関係ない話だけどね」
突然、老紳士のロードが近づいてきて耳打ちをした。
「お嬢様。ご歓談中失礼致します。先程、急ぎの知らせが届きました。こちらでこざいます」
「急ぎ?まさかクソガキじゃないだろうね?」
「おそらく時期的にも間違いないかと…」
「ったく。毎度毎度めんどくさいね」
「失礼、そのクソガキってのは誰なの?」
気になったリュウが興味本意で尋ねる。
「ああ、大したことないよ。クソガキってのはあたしの弟のことさ。なに、もう威張る意味もないのに魔王なんかやってるバカな奴だよ」
「へぇ。魔王ね。それで何の用だったの?」
少しニヤついた笑みをみせる。
「ああ。今度の惑星議会の案内だよ」
「惑星議会?」
「あ、言い忘れてたね。定期的にセンターで開かれる議会のことさ。それぞれの状況とこれからについて話し合う会合さ。まあ、いくら管理していても直接聞かないとわからないこともあるからね。それのセイボスの代表が弟なんだけどね。いつも面倒くさがって私に押し付けるんだよ」
アミラの話を聞くとリュウは何かを閃いたような顔をすると、アミラに提案を持ちかけた。
「その惑星議会にアミラと一緒についていくのってありかい?」