宇宙船と衝突
「ふぁあ。よく寝たぜ。っともう2時か。昼寝にしちゃあ寝すぎたかもな」
そう呟くのはマルス。
13人の少年たちの1人である。
マルスはそのすらっとした体に似合わない尖った黒髪をムシャムシャと掻き毟ると、自分の部屋から出て行き、13個に別れた寝室の1番奥の部屋を覗きにいく。
「ったく。あいつはまだ寝てるのか。今回は10日目だぞ?記録更新だな、こりゃ」
宇宙船の1番奥の部屋で寝たきりの長髪の美男子を一瞥すると、先頭にある操縦室へと足を進める。
(そういや、シェルドのじいさんが死んでからもう5年になるか…早いもんだよな。そろそろ奴らの手がかりが手に入ってもいいのによぉ)
およそ10年程前に、彼らの故郷である異能の星は異性の者からの侵略を受けた。
その時の憎しみは大きく、未だに異星の者らに対する憎悪を胸に秘めているようだ。
「にしても、ここにいる奴らは変わったやつらばっかりだよな。眠るやつに筋トレするやつ…」
横目にムキムキの長身マッチョが筋トレしているのを見ながら呟く。求めてもいないのにウインクと汗飛沫を見せつけてくる。
「暑苦しい。それに加え…」
コツコツコツ。
マルスが操縦室へと歩みを進める途中で、休憩室の奥から声がする。
「おい、アーノルド!これがケボの実だぞ!ララナ星にいたイカ野郎から一つパクってきたぜ!」
「ニャハ!さすがフィン!手が早いニャ。さっそく見してほしいニャ!」
ヤンキーのような見た目の若い男とニャが口癖のボクっ娘のような女が会話をしている。
ちょうどマルスが休憩室を通り過ぎようとすると、
「お!いい標的をみつけだぜ!」
フィンと呼ばれた男が何かを企んだ顔つきでケボの実という黄色くて四角い木の実のようなものを投げる。
ヒュ!!
バシュ!!
見事にマルスの顔面にケボの実が当たる。
「うおっ!なんだこれ!」
マルスの顔にケボの実が当たると、その実はまるで人の顔のようなものをその実に写し、言葉を発した。
「ボーケ!ボーケ!ボーケ!」
「……」
こめかみに苛立ちを含んでプルプルと増えるマルス。
「おい!てめーら!またしょーもねぇもん拾いやがって!ただボケボケ言ってるだけの実じゃねぇか!」
イラついたマルスはケボの実を地面に投げつけると、フィン達の方へ怒号を投げつける。
「ギャハハ!さすがマルス!いい反応だ!」
「ニャハハハ!お腹痛いニャ!ニャハハハ!」
フィンとアーノルドの2人はその場で笑い転げていた。
(ふぅ…こんなふざけた奴らもいるわけで)
フィン達を無視して歩みを進めると操縦室へ辿り着く。
ウィーン。自動扉が開く。
「お、起きたみたいだね。よく眠れたかい?」
「おはようございますですわ」
パーカーを着たゆるふわ系男子のような男と、優しい雰囲気のお姉さんな2人が操縦席から言葉をかけてきた。
「ああ、十分にな。ソウラ。んでおはようなクロエ。」
「随分昼寝しちまったようだ。どうだ?異常はねえか?」
操縦席から覗く画面を見ながら問いかける。
「うん。今のところ問題ないね。ただちょっときになることがあるんだ。」
「気になること?なんだ?」
「ここ1時間程なんだけどね、まったくの流星や星の観測が見られないんだよね。何ていうかあまりに静か過ぎるんだ。」
「静か過ぎる…か。」
何かを考え込むマルス。
「マルスさん。何か思いあたる事でも?」
クロエに聞かれて記憶を遡るような仕草を見せる。
「いや、この前船にあった本で読んだんだがな。何でも無流星地帯ってのがあるらしい。一切の惑星や流星がない空間らしいんだが、何やらそのあたりに行くと全ての宇宙船が喪失したらしいって記述があったんだ。まあ詳しい事はわからねぇが」
「無流星地帯か。記述には曖昧なとこがあるけど、今の状況と無関係ではなさそうだね。それに、何故か人も星もないのに声が聞こえるんだ。それもとてつもなくたくさんの人間の声が…」
「え?ソウラさんそれって?まさか」
「うん。僕の力がそう言ってる。たぶん何かあるんだと思う」
操縦室の3人は何か不安な気持ちを抱えながら操縦室に映る画面を眺めていた。
ーーーーーーーーー
休憩室にて。
「ねぇ、セイラ〜。こんな男がいたら超ヤバくない?一発で惚れちゃうでしょう〜?」
「ちょ!モネ!この本さっきから過激過ぎない?!裸の男ばっかりじゃない!」
セクシーな雰囲気を出している女性と純朴そうな見た目で恥ずかしがっている女の子が休憩室の片隅のL字ソファでとある本を読んでいた。
「それに!男ならこの船にもたくさんいるでしょ?モネの趣味はちょっと人とズレてると思うんだけど…」
「や〜ね、セイラ。この船の連中なんて頭のおかしい奴ばっかりじゃない。全然男としてみれないわよ」
「おかしいのは認めるけど。たしかに、わたし達は家族も同然だもんね…」
そんな女子トークを繰り広げる一方で、その対角に座っている2人の少年がボードゲームで遊んでいた。
「さすがだね。ピースのアイデアと能力はやはり素晴らしいよ。異能チェスとは考えたね」
「そ、そんなことないよ。パルマ星の住人からもらったこの元素を応用して作っただけだから。それにリュウの方がすごいよ。たった1分でルールの把握とその改善点を見つけだすなんて…」
「ハハ、謙遜だろう?ピースの異能はみんなの中でも飛び抜けているからね。それにこれはいい暇つぶしになるよ」
赤髪をしたリュウの迎えに座るのはメガネをかけた奥手そうな男の子である。
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ダイニングスペースにて。
「ふぅー!あっついねぇ!ったく嫌になるよ料理ってのは。ま、好きだからいいんだけどね」
そう呟くのは、サバサバした口調が特徴のポニーテールの女の子である。
「よし、これで終わりっ!またあいつがおやつ代わりに食いにくるだろうしね」
その声と同時ににダイニングスペースにひとりの男が入ってくる。
「あ。いい匂い。やっぱりジャスト。タイミング完璧。」
単語ばかりで不可思議に喋るのは、ガリガリの細身で不健康そうな見た目をした男である。
「お?来たね。テンバール。あんたは毎回タイミングよく来るね。ほら、ポルポルクッキーを作っておいたから置いとくよ。じゃあ私はシャワー浴びてくるからね。」
「サミュありがと。食べる。」
「あいよ。どういたしまして」
そう言うとサミュと呼ばれた女の子はシャワー室へと向かった。
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筋トレルームにて。
「フン!フン!4万9998!4万9999!5万!…ふぅ〜」
長い棒にぶら下がり、懸垂をしている大男はサミュが近くを通るのに気づき、声をかける。
「サミュ殿。またシャワーですかな?いつも我らの食事を作って下さり感謝致します。」
「ああ、そうだよ。クッキーを作っといたよ。まあ、テンバールが全部食っちまうかもしれないけどね」
筋トレを止め、男は丁寧な物腰で労いの言葉を送る。
「グレイ。あんたはまた筋トレかい?全くよく飽きないねぇ」
「お褒めに預かり光栄です。何せ筋トレを欠かすと私の筋肉達が泣いてしまうので。」
「ったく。何言ってんだか」
筋肉バカに呆れた様子でサミュはシャワー室へと向かっていった。
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操縦室にて。
「ん?あれは何だ?」
マルスが首を傾げながら前方の画面を凝視する。
「何か見えますの?私には全然何も…」
クロエには何も見えていないようだ。
「どうしたの?マルス。何かみつけた?」
「ああ、何か巨大な星?のようなものが見える。たぶん星だろうけど」
「たぶん?」
「あぁ、遠くて認識できないがおそらく星だろう」
「ひとまず次の惑星が見つかってよかったね。これでエンジンの補給ができそうだ」
「ああ、大きさもかなりあるし、見た感じ資源も問題なさそうだな」
「ええ。よかったですわ。備品もそろそろ底を尽きそうでしたので。あ、わたしリュウさんに伝えてきますわね」
「ああ、頼んだ。」
操縦室からクロエが出て行く。
ちなみに操縦室からリュウ達がいる休憩室までは出て右へ行くとすぐだ。
ウィーン。
「リュウさん、いまマルスさんからの報告で次の惑星が見つかったそうですわ。」
「そうか。それは良かった。クロエも操縦お疲れ様だね。少し休んでおきなよ」
「お!次の星みっかたのか!リュウ!」
同じ休憩室の端からアーノルドとフィンも顔を覗かして聞いてくる。
「みたいだね」
ファンの問いかけに手を挙げながら答える
「やっほう!やっとだぜ!しばらく船にいたから体がなまっちまうとこだったぜ!」
リュウのの言葉にテンションを高くする。
それからわずか3分後のことである。
ーーーーーーーーー
カタカタ
「ん?何か震えてる?」
クッキーを頬張るテンバールは机が揺れていることに気づく。
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「3万6548!3万6せ…む?ダンベルの調子が…」
同時にグレイも異変に気付く。
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時を同じくして、寝室の1番後方の部屋で。
「zzzz…??」
長髪の男が寝返りを打つ。
ーーーーーーーーー
操縦室にて。
「お、やっと全体が見えてきたみたいだな。ってやけに大きくねぇか?」
「だね。それになんかさっきから変じゃない?」
ソウラが何かに気付く!
「ん?そういやすこし…
ドガァン!!
マルスが言い切る前に宇宙船がひどく揺れ始めた。
ガタガタガタガタ!
「うぉ!何だ!」
「きゃ!なに?何かぶつかったの?!」
船いるほとんどがその衝撃に気づき、驚く。
「くっ!何だこの揺れは!まさか引きつけられてるのか!」
「みたいだね。ちょっとやばい状況かも…」
突然の事態にも冷静に状況を把握しようとするマルスとソウラ。
「おい!どうした?!何があったんだ!」
フィンが船中に聞こえるように呼びかける。
「何か異変があったようだね。」
リュウが冷静に呟く。
ガタ!
「きゃ!」
ばっ!
「危ないわ、セイラ!」
あまりの揺れにソファからこけそうになったセイラをモネが庇う。
セイラの代わりに投げ出されたモネは休憩室の端から入り口まで空中に放り投げだされそうになる。
「あぶねぇ!」
そのモネを抱えるようにフィンが飛び出した。
ガコ!バギィン!
休憩室の扉に激突したフィンはモネを庇ったせいで背中に衝撃を受けた。
「いちち。怪我はねぇか?」
「あら?優しいのね。」
「っけ。どうやら無事みてえだな。」
「みんな大丈夫??」
ピースはひとまずフィン達が無事な様子に安堵しているようだ。
グゥワオオオオン!!
刹那、再度大きな揺れに見舞われてフィンが盛大に転がる。
「うぉわ!」「きゃ!」
ゴロゴロ、ドッシャーーン!
モネとフィンはダイニングスペースまで投げ出され、食器棚にぶつかる。
「いってぇ!」
「すごい揺れね、ここまで飛ばされるなんて…ってテンバール何してるの?」
いきなりダイニングスペースまで飛ばされた2人をよそに、テンバールは椅子に座りポリポリとクッキーを頬張っていた。
「あ、フィンとモネもクッキーいる?あと1枚だけど」
「ったくお前はこんな状況でも相変わらずだな」
フィンが呆れた様子で起き上がる。
するとソウラの声が響きわたった。
『みんな聞こえるかい?緊急事態だよ。さっき新しい星をみつけたんだけど、何か特別な力で船がその星に吸い寄せられてるみたいなんだ。たぶんだけど…このままだと船は衝突すると思う。だから判断を仰ぎたい。そして星の特徴は…信じられないと思うけど、星が4つあるんだ!訳わかんないと思うけど4つの星が1つの大きな星に内包される形で存在してるだ!』
ソウラが自身の能力を使い、船中に聞こえるように呼びかける。
「4つだと!?」
フィンが大声で反応する。
「どうやら大変な事態だね。ソウラ!僕の声を全員に繋いで!」
リュウは何か思いつめた表情をするとそう叫んだ。
『わかった!…いいよ話して!』
『みんなリュウだ。聞いてくれ。おそらくソウラの言う通りにこの船は星に激突するだろう。その後はどうなるかわからないけど、たぶんややこしい事には違いない。そこでなるべくみんな固まっておいてほしいんだ。幸い異能のおかげで星に着陸するのはみんなの力なら心配ないだろう。けど、はぐれた場合が大変だ。だからいま近くにいるメンバーとは離れずにいてくれ!そして1人のメンバーのとこには誰かが向かうようにしてほしい!!』
リュウがそうアナウンスすると一目散ににセイラが休憩室から駆けていく。
「あ!セイラ!待つんだ!くっ!アーノルド、セイラの後をつけてくれ!頼んだよ!」
「わかったニャ!」
仲間思いのセイラはなりふり構わずに、ほかの仲間の様子を確認しにいった。リュウの制止もよそに全速力で部屋を飛び出したのだ。
「これはまじでやばいな。ソウラ、操縦は俺に任せろ!お前はフォールの様子を見てきてくれ!」
「うん!わかった!」
ソウラも操縦室を離れ、船内の1番奥に向かってダッシュする。
すると、右手側に筋トレルームへと駆けていくセイラとアーノルドの姿を目にする。
「よし、グレイは2人が付いているみたいだね。あとはサミュとフォールだ。フォールに至ってはまだ寝てるみたいだし!急がないと!」
バンバン!
ガチャ
「グレイ!無事!?」
「お!これはセイラ殿!私は無事ですぞ!何やら緊急事態らさいですな!」
シャワーに行く途中だったのか、グレイは真っ裸でシャワー室にいた。
「よかった!ってちょ!あんた!パンツくらい履きなさいよ!」
「ふぅ、安心だニャ。グレイも無事ニャ。」
「これはアーノルド殿も!セイラ殿、パンツは先程の揺れで行方不明になったのだ!仕方ない!」
「はぁ?!ふざけないでよ!パンツなくても下くらい隠しなさいよ!」
「グレイはこんな時でもマイペースだニャ」
筋トレ中のグレイも無事が確認される頃、ソウラは寝室の廊下を抜け、1番後ろの部屋にたどり着いた。
バン!
勢い良く扉を開ける。
「フォール無事かい!?」
そこには眠るフォールと横で腰掛けるサミュの姿があった。
「ソウラかい!安心しな!フォールは無事さ。ま、この変人がそう簡単にくたばることはないだろうけどね」
「だね。ふぅ。それにしても良かった。サミュも一緒で。」
「ああ、揺れがあってから心配になってね。ソウラの声が聞こえると同時にもうここに向かってたのさ!」
「さすがみんなのお母さんだね、ハハ。」
安心したように笑うソウラ。
『リュウ!みんな無事だったよ!』
ソウラは能力でリュウに報告する。
『よし!ひとまず助かったようだね。みんなマルスによるとあと1分もしない内に惑星に衝突するみたいだ。船が大破するとどこに飛ばされるかわからない。可能なら全員が集まれるのがベストだけど、そんなことは今考えてもしょうがないね。いいかいみんな!こんなエネルギーの強い星は初めてだ!能力を使って最大限に注意してくれ!健闘を祈る!』
リュウの言葉を聞いて、固まったそれぞれのメンバーは息を飲む。
最奥にある寝室にて。
「ん?おはよう♪ソウラにサミュじゃないかぁ。久しぶりだね。それにしても今日はいつになく船が騒がしくないかい?」
このタイミングで起きるのかといったツッコミをしたい気持ちを抑え、ソウラは冷静に状況を伝える。
「おはようフォール。実は新しい星が見つかったんだけど、その星に船が吸い寄せられているんだ。おそらくあと30秒もしないうちに大破する!」
「ふ〜ん。なるほどねぇ。それは面白そうだねぇ。でも、とりあえずまだ眠いから着いたら起こしてねぇ」
「ちょっと!フォール!」
「諦めな、フォールはこういう奴だよ。それにしても面白いだなんて、相変わらず肝が座ってるよ」
「くそ!衝突は止められねぇか!やばいぞ!この揺れは!」
ウィーン、ウィーン!
ガタガタガタ!
船中のあらゆる警報や装置が作動している。
「どうすることもできねぇのか!…ん!?なんだあれは!」
マルスの言葉にリュウが反応する。
「マルス!どうしたんだ!」
「さっき星が4つ内包されてるって言ったよな?」
「あぁ、そうらしいね。違ったのかい?」
「あぁ、4つじやねえ、5つある…!しかも真ん中のやつはおそらく1番…
マルスが言い終わる前に、船が星に激突した。
ピギャン!
ドッカーーーーン!
「マルス!何んだって?!」
マルスの言葉は最後まで聞こえなかった。
大音量の爆発音と、大規模な噴煙、とてつもない衝撃で船は大破していく。
「くっ。おそらく俺しか無理だろうな。仕方ねぇ!」
マルスは何かを決断したように吹き飛ばされながら考えていた。