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封神草紙  作者: 野中
第一部/第一章
4/87

第三撃 掘っ立て小屋じゃん!

「清貴」






呼びかけに振り向けば、いつからそこにいたのか、沈着な眼差しがきらりとひかった。


蘇芳だ。


北斗が、彼の背後で神妙に畏まってる。

「今戻った」

「ああ…、お帰り、蘇芳」


北境辺土にいるのは間違いみたいな色男。


知的に端正な面立ちと、手にぶら下げた丸々太ったカラバドリがそぐわない。

自然、僕はカラバドリを見つめた。

「腹が減った。昼飯を作ってくれ。これは、食材」

長髪をひとつに束ねた蘇芳は、カラバドリを花束みたいにそっと手渡してくる。

掴んだ足が、手から手へ移る一瞬、鳥の翼が弱く動いた。


「って、絞めきれてませんよ」

「任せる」

蘇芳はさっさと僕の家に入ってった。

緊張を解いた北斗が、周囲を見渡し、最後に僕を見上げる。

「入んねーの?」


「僕の家を自宅みたいに言わないでください」

「家って…思ってたのかっ? 掘っ立て小屋じゃん!」

すかさず、北斗を蹴り上げる僕。北斗は吹っ飛び、宙にきれいな弧を描く。

落ちるまで見届けず、僕は笑顔で月子を促した。

「昔、お団子とか饅頭とか菓子類は作ってあげられましたが、月子に料理を作ったことはありませんでしたね。今日は、ご馳走しますよ。…月子?」

月子は転がった北斗に駆け寄る。


「大丈夫?」

どうやら、心配しているようだ。僕は感心。

「気にすることありませんよ。いつものことですから。月子はやさしいですね」

そんなものまで気遣うとは、どこまで心がきれいな子なんだ。

僕の感動を蹴飛ばす勢いで、北斗は跳ね起きた。


「習慣にしてんじゃねえよ、野蛮人が!」

「そう…毎日百発百中なのは、北斗が注意力散漫なせいでしょうか、それとも弱いんですかね」

「よ…っ、弱ぇだってっ? よりによって、このオレ様が…!」

茹ったタコみたいにまっかな顔でぶるぶる怒りに震える北斗に、月子が拗ねた声で言う。






「いいなあ…羨ましい」






「はああぁぁっ!?」

全力で不愉快と叫ぶ北斗。

すぐさま、相手が誰か思い出した顔で、咳払い。


「ど、どこがですかっ? この六年間、ずっとこうやって虐待され続けてきたんッスよ、そこの人でなしに!!」




「だからだよ」




はい?

北斗じゃないが、月子を見直す僕。

月子はあくまで真剣。気迫に遊びは欠片だってない。







「六年、ずっと清貴と一緒だったじゃないか、北斗は。羨ましい」






思わず僕は視線を泳がせる。

一呼吸の間、北斗は唖然。

やがて、十八歳らしからぬ童顔が、ゆっくり怒りに染まってく。


僕を責める顔が、月子のためのものに変わってた。


なんか言え、言ってみろ。無言で僕に迫る北斗。


答えを間違ったら、火山の噴火みたいに怒りが爆発するに違いない。

僕は考えた。

「…えーと、十日後の出発まで短い間ですけど、六年分、遊びましょうね」

「足りるか!」

北斗が叫ぶ。誤魔化しの自覚はあるから、僕も言い訳はしない。


「大体、そこがおかしいだろ、清貴! 六年ぶりの再会だぜ?旅のことは忘れて、月子様を最優先すべきじゃねえのっ? そういうとこが人でなしってんだよ!」




正論過ぎて、反論の余地なし。


北斗は男前だ。僕と違って。投げやりに、肯定。




「僕だって、自分がこんな男になるとは思いませんでしたよ」




北斗の目がつりあがる。今にも火を噴きそうだ。と、思うなり。


「北斗」


家に入ってたはずの蘇芳の声に、北斗は直立不動。

僕の手の中で、カラバドリが痙攣。

緊迫感に満ちた中、蘇芳は手にしたモノをずい、と突き出す。

「燻製肉を見つけた。外で炙っておけ」






「人の家の貯蔵庫勝手に漁らないでくださいよ」





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