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◆幕間-5◆


 それは微かな希望。


そんな筈はないだろうと思いながらも藁にも縋る思いでその最後の可能性に賭けた。


そんな、わずかな可能性だった筈のそれが、唯一の正解で。


そんなのいくら探したって見つかるわけないじゃない。


あの女神は、そんな少年が転生したという記録は無いと言っていたけれど…それでも、自分がもう死んでしまって新しい世界にいくしか無いのだとしたら。


そちらに居るのだと、そう信じるしかなかった。


私が気が付くとそこは私の膝下くらいの丈の薄紫色をした花が沢山風に揺れているとても幻想的な風景だった。


そんな素敵な風景をずっと見ていたかったが、まずは私の目的を果たす事を考えよう。

もし自分の探し物がこの世界になかったのならば、その時は諦めて女神の指令に従おう。


もし、万が一探し物が見つかったら。

その時は申し訳無いが女神の指令は後回しだ。

いろいろ落ち着いてから考えればいい。


私は早速彼女からもらった能力を使ってこの世界をサーチした。


そして、確かな手応えを感じる。

冗談のようだ。


私の探し物は幼い頃に行方不明になった少年。

神隠しにでもあったようになんの手がかりも無い。

警察もまったく情報が無く、とっくに諦めてしまった。


私一人で地道に聞き込みを続け、探し続けていたが変質者に犯されそうになって、生き延びる事より自尊心を取って自ら死を選ぶ。



 でも、その先でこんな展開が待っているとは…。


私は女神にもらったもう一つの能力を使う。

探し物のある場所へ一瞬で移動できる能力だ。


私は未だに半信半疑だった。

この世界にあの子が来ているという事実にいまいち実感が湧かないでいた。



次の瞬間、私はとても大きなお城の前に立っていた。

探し物がある場所まで移動する。

つまりは瞬間移動のようなものだ。


このお城に、私の探し物があるという事なのだろうか。


大きな入り口にはボロボロに砕けた扉が転がっている。

足を取られないようにゆっくりと壊れた扉を乗り越えて城の中に入ると、そこは天井がとても高い広々とした空間になっていた。


なんだか嫌な臭いがする。

血の臭い。


あたりをキョロキョロと見渡してみたが、私の探し物があるように見えなかったので思い切って呼びかける事にした。


「あの~ごめんくださ~い」


 その言葉の後しばらくすると、階段の上から一人の青年が姿を現した。


その背後にある窓から光が差し込み、逆光になってしまって顔がよく解らない。


「女一人でこんな所に来た不運と迂闊さを呪え」

その青年はそう言ってふっと姿が消えた。

正確には、私に見えないスピードでこちらに飛び掛ってきていたらしい。


「…もしかして…えいゆう君ですか?」


 相手が私を殺そうとしていたなんて知らない私は能天気にそんな事を言っていた。

それがもう少し遅ければ死んでいたかもしれない。

そしたらまたえいゆう君に寂しい思いをさせていたのかも。


 えいゆう君というのは私が探していた少年のあだ名だ。


その呼び方をするのは私だけだから、もし本人ならば自己紹介を省いて相手に誰がやってきたかを伝える事もできる。


そう、私の探し物は、異世界で魔王をやっていた。


しばらく会わない間に身長は私を追い越し、(私が小さいだけかもしれないが)随分とイケメンになっているように思う。


だけど、どこかその表情には影があって、この世界でどのように生きてきたのかをうっすらうかがわせる程だった。


彼は私がこの世界に来てしまったことが余程ショックだったらしい。

死因についても驚いていた。


それはそうだろう。

私だって自分があんな最後を迎えるとは思っていなかった。


私は自分が思っていた以上に思い切りがいいらしい。


そして今までの話を聞いていると、彼はいつかに戻ったように大声で泣き崩れてしまった。


その内容は思っていたよりも壮絶で、酷い目にも辛い目にもあってきたらしい。

そして何より驚いたのが、この子何にも罪がない子供とかを殺して食べちゃったりしてるサイコ野郎だったのだ。


そしてここにそのサイコ野郎に軽くときめいているサイコ女がいたのであったとさ。


なんていうのだろうか。

母性本能くすぐられまくりな感じで、こう…放っておけないのだ。



それから私達はいろいろな話をして、お互いの理解を深めて…。

そして傷を舐めあって暮らしていた。


と言っても私に大して傷なんか無いので私が支えてあげてるって感じかもしれない。


それでも私は満足だった。

二人で(山ほど魔物もいるが)のんびりスローライフを続けていけたら幸せだった。


そして彼にプロポーズされた時、私は脳みそが蒸発して溶けて流れて川になって海に混ざって消えてなくなるかと思った。


心底嬉しかった。

この行き遅れの…いやいや。そんな事はない。

でもこんな私でもとうとうこんな日が来るんだなーとか思うと幼い頃から優しくしておいた甲斐があったというか逆光源氏計画が成功したというか。


とにかく私は絶頂だった。

えいゆう君だけ居ればそれでいいと思った。

この人の為に出来る事は何でもしてあげたいと思った。


だから、脅されても彼の居場所は教えなかった。


あまりに突然の来訪者。

しかもあの女神からの…。


こんな事になるなら嘘の報告でもしておくべきだったのだ。


私は私の幸せに舞い上がってあの女神からの指令なんてすっかり忘れてしまっていた。



だからこんな事になってしまうのは自業自得なのだろう。


ごめんねえいゆう君。

私はもう死んでしまう。


ずっと一緒にはいられない。

一緒に居てあげられない。


そしたら彼はずっとこの先寂しい辛い悲しい思いをし続けながらあの女神が送り込む刺客と戦い続けなければいけないのだろう。


そんな不毛な日々を送らせるくらいなら…。



私が気力を振り絞って立ち上がり、やっとの思いで城まで辿り着いた時には、私を刺した男はもうこの世に居なかった。


さすがえいゆう君。

さすが魔王。


その魔王が、私が死んだと思って泣いている。


弱くて可愛くて強くて泣き虫な魔王のえいゆう君。


大好きだよ。


だからこれ以上辛い思いはさせないように


貴方を封印します。



女神から無理矢理押し付けられた封印能力。

それが今は有り難い。


この世界でずっと絶望に飲まれてきた貴方だから、どうか安らかに。


おやすみなさい。




…終わった。


「あぁ…私も一緒に封印されちゃいたかったよ」


 女神の封印魔法はとても強力なものだったらしく、どこからとも無く現れた大きな黒い棺の中で彼は眠りについた。


その周りにはうっすらと輝くヴェールのような物が張り巡らされ、もう触れる事すら叶わない。


…あぁ、死ぬときくらい隣で死にたかったなぁ。


お腹から流れる血の量がハンパ無い。

そろそろだろう。


それにしても、最後…えいゆう君が私の肉を少し千切って食べた時。


なんとも言えない感情が身体を包んだ。


愛する人が自分の肉を食している。

自分が食べられている。


大好きな人の一部になっていく。


それは…喜び。


そして、愛だ。


食べる事は愛。

食べられる事は愛。


私達はあの瞬間、かけがえの無い愛を手に入れた。

愛に包まれていた。



それは、きっと私がずっと欲しがっていた愛とは少し形が違っていたけれど、それよりも尊い物だったと思う。


だから、私は寂しくない。


愛する人が永遠の眠りについていても。

私がその一部となって貴方と共にいるのなら。


たとえ今ここにいる私が、貴方の側にいけなくても。

ここで一人で冷たくなろうと。


貴方には私がついてるから。

だからもう寂しくないでしょ?


二度目の人生はとても短かったけれど、元の世界での一生よりも貴方と過ごした半年間の方がよほど濃密で満足できる日々でした。


この世界で貴方を見つけられてよかった。

こんな関係になるのはちょっと想定外だったけれど(笑)


それでも後悔はしてない。

私は


しあわせでした。

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