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◆4章-終◆擬態



 その後も能力集めを繰り返し、力、知識、そしてそれらを使いこなす修練を積み、それからはひたすら戦いを繰り返した。


どんなに知識と力を持っていても経験が無ければ応用が利かない。

半年以上毎日毎日戦いに明け暮れ、気付けば俺には敵と呼べるほど歯ごたえのある相手が見つからなくなっていた。


…そろそろかもしれない。


あの糞勇者様に地獄を見せる時がきたのだ。


俺はとある国で国王の妻に擬態して国を支配していた化け狐を喰って手に入れた力でその時が来たと確信した。


その狐を殺したせいでその国が崩壊してしまったがそれはそれ、必要な事だったのだからしかたが無い。


それにしても思いのほかこの大陸にはいろいろな国がある。

そしてその国の中枢には意外と強力な魔物が絡んでいる事が多い。


今回の狐のように直接的な場合もあれば、魔物使いなどが悪巧みをしている場合も多々あった。


そしてその先々で勇者の噂を耳にする。

奴らはきちんと国を救う為に活動し、それなりの成果をあげているようだった。


本来俺だってそういうのを夢見ていた筈だ。


転生者として与えられた絶大な力を駆使し国を救う。

そんな勇者に。


しかし俺にはそんな資格もなければ今更そんな全うな道を進む気にもなれない。


たとえどんなに力があろうと俺は奴にはなれない。


奴がどんな理由で何を考えて国を救う勇者などやっているのか知らないが、妬みと怨みが詰まったこの身体では人は救えない。


自分すら救えないのだから当然だ。



だから同じ道を歩もうとは思わない。

別の道を行く。


そして俺の道には壁がある。

それが奴なら、俺は殺さなければならない。


そう、そして喰う。

どんな能力を持っているのか知らないがあれだけの名声を轟かせるだけの力を持っている筈だ。


だが、正攻法で攻めたならきっと俺は負けるだろう。

スピードで翻弄すればなんとかなるかもしれないが相手が対応できないと決め付けるのは危険だ。


それにあいつはあの火竜の皮膚を切り裂く武器を持っている。

俺も回復魔法は使えるようになったし、わたあめの唾液に含まれていた治癒能力だって引き継いでいるが、その程度ではどうにもならない致命傷を受けるだろう。



ならまずは油断させるところから始めなければいけない。





勇者一行を探すのは簡単だった。

あいつらは有名になりすぎたのだ。

どこへ行こうと少し聞き込みをすればどこへ向かったのかが解る。



俺は勇者を追ってマイヤという街へ訪れた。


勇者ご一行は完全にハーレム状態で、奴以外のメンバー三人は全員女だった。

よく覚えてはいないが火竜のところで見た連中だろう。


俺の瞬間記憶能力は過去に遡って思い出す事ができないので当時見かけた顔を覚えていないのも仕方がないのだが、勇者。あいつだけは見間違える筈も無い。


それだけ俺の網膜に焼き付いているのだ。



俺は狐の能力を手に入れた時から考えていた計画を実行に移す事にする。


いろいろと抵抗もあるが目的の為だと諦め、自分の身体を女性に擬態する。


さすがに女言葉まで使う気にはなれなかったので話し方はそのまま。

気が強い女くらいに思ってもらえたら都合がいいのだが。


まぁ声帯の形をいじって声も変えているから大丈夫だろう。


ちなみに外見はルーイを参考にさせてもらった。

彼女をもう少し、大人びたクールな印象にカスタマイズしていく。


完成後鏡を見るが、まぁ意外といい具合に出来たんじゃないだろうか。

全身を完全に女性化するとなんだか不思議な感覚である。


性転換後のニューハーフなんかはこういう気分なのだろうか。

だとしても俺は心が男のままなので妙に心地悪い。


本当は俺が子供の頃に恋をした近所のお姉さんをモデルにしようと思ったのだが、よく顔を覚えていない上に俺の性格と合わないにも程がある。

あんな癒しオーラが出てる雰囲気で中身が俺じゃあさすがに気持ち悪い。

主に俺が。




そして奴らと接触するタイミングを考えていると、その晩にマイヤの街で事件が起きる。


死霊使いがゾンビと骸骨の剣士を操って街を混乱に陥れた。

街の人々は家の中に避難して出てこない所を見ると今日に始まった事ではないのかもしれない。


しばらく様子を見ていると、勇者ご一行が宿屋から飛び出してきた。


お手並み拝見といこう。



確かに彼らは強かった。

だが、勇者自身は動きも良いしまだあの剣を使ってないので余力を残しているだろうが、経験が足りていない。

女性達もそれぞれは非常に戦闘慣れしていて連携もしっかり取れているが、それではこいつらを倒す事はできないだろう。


いつしかじりじりと勇者達を魔物が取り囲んでいく。


こんな事で死ぬとは思えないが万が一ゾンビにでも噛み付かれて奴まで死霊になんてなられたら拍子抜けにも程がある。


…ある意味これはチャンスだろうか。

助けに入るという口実があれば接触もしやすいだろう。



俺は、潜んでいた建物の屋根から奴らの下へと飛び降り、周囲のゾンビを燃やし、骸骨の腰骨を砕く。


 こちらを呆然と見ている勇者様とやらに一言言ってやった。


「勇者様ってのも意外と大した事ないんだな」


他の連中に倒し方を教えてそれぞれ各個撃破を指示し、皆がこの場を離れてからゆっくり振り返り、勇者に話しかける。


「この言葉が分かるな?」


 日本語だ。


「き、君も転生者なのか!?」


 そうだ。その反応が見たかった。


これだけはきちんと確認しておかなければいけなかった。

でもこれで確定だ。

こいつは俺と同じようにこの世界にやってきた日本人。


「…やっぱりそうか。話の続きはこの騒ぎを鎮めてからにしよう」


 死霊使いが死霊を失った場合、やる事といえば大抵一つである。


俺は奴を先導してこの街の墓地へ向かう。

驚くべきことに、それなりの速さで走っているつもりだったが当たり前のように勇者が併走してくる。


やはり正面からぶつからなくて正解だったようだ。



墓地に到着すると案の定怪しい男が現れる。



「そこまでだ。これ以上死を冒涜する事は許さない」


 …マジかよ。

俺はその言葉を聴いて噴出しそうになってしまった。

本当に正義感にかられて勇者やってんのかこいつ。


しかも勇者のその発言に対し死霊使いと思しき青年は、ただ墓参りにきただけだと答える。


なんだこのコントは。

あまり笑わせないでくれよ。


「はっ、こんな夜中に墓参りとは随分生活習慣が乱れてやがるなお前」


 問答無用で俺が青年に襲い掛かると、男はすぐにぶつぶつ呪文を唱えてゴーレムを呼び出す。


こいつ死霊だけじゃなくゴーレムまで使うのかと関心するも、呼び出されたゴーレムが図体がでかいだけの初歩的な奴だったので拍子抜けしてしまう。


額に書かれた文字の一部を削るとその文字の意味が死に変わり、活動を停止するというなんの為に弱点を前面に押し出しているのか謎仕様のゴーレムだ。

おそらくは何かの試練用に作られたのが起源なのではないかと俺に取り込んだ誰かが考察していた。


とにかく、俺はそのゴーレムの頭部にナイフを投げつけ文字を削り取る。

すぐさま土くれに変るそれを見て慌てて逃げ出そうとする男をすぐに捕まえて首を掻き切って殺す。


ついでに首筋にがぶり。


こいつの能力もいつか役に立つ事があるかもしれないからだ。


ゴーレム使役は幼稚すぎて使い物にならないが、俺はまだ死霊使いスキルは所持していなかったのだ。


噛み付いた痕がバレるとまずいので念のために身体を切り刻んで誤魔化す。


…いや、良く考えたら人間をあっさり殺している時点でアウトなんじゃないだろうか。

俺の常識と一般の常識が絶対的に違う事を忘れていた。


俺を追いかけてきた勇者が、何かもごもごと口を動かしている。

…さすがに警戒されたか?


いつもの癖で殺してしまったが失敗したな…なんて考えていたのだが。


そんな心配は無用だったようだ。


「君、名前は…なんていうの?」


 …は?


こいつ…俺が人間を殺した事なんてまるで気にしていない。

それよりも俺の正体が気になって仕方が無いといった様子である。


「あ?ああ、名前か…俺はキョウコ。お前と同じ日本人だよ」



なんでキョウコなんて名乗ってしまったのだろう。

つい口から出た名前。


俺も今の今までずっと忘れていた名前。


幼い頃に恋をした、近所のお姉さんの名前だ。


「キョウコ…キョウコか。いい名前だ。君も神様の手違いで死んで能力を与えられて転生したのか?」


 …ん?ちょっと待て。

どういう意味だ…?


俺が奴の発言の意味を考えていると、聞かれたく無い事を聞いてしまったと勘違いした奴が慌てたようにフォローを入れた。


「生前の事とか追及したりしないから安心してくれ。俺はただ君を、キョウコをうちのパーティーにスカウトしたいんだ。同郷の士とかそういうのは関係無くね」



 …生前?

手違いで死んで能力を与えられた…?


どういう事だ。

こいつは俺とは違う手順でこの世界にやってきたのか?

とにかくそれについて考えるのは後だ。


「転生の件は大体同じようなもんだよ。それと、パーティーの件は…」


 俺は奴の提案を受け入れる。

そういう展開になれば手っ取り早いと思っていたがこちらから交渉するまでもなくすんなりと受け入れられたのは意外だった。



死霊使いを倒した事で街に平穏が戻り、俺達も他のメンバーと合流する。


女性達は補助魔法とちょっとした攻撃魔法が得意なクレア。

騎士のような鎧を身に纏ったパーティーの壁役アリア。

チャイナ服のような衣装に身を包んだ格闘家のシェイア。


そしてそれらを纏めるのが勇者ユウジ。


確かにちゃんとバランスの取れたパーティーになっている。

欲を言えばもう少し攻撃魔法がちゃんと使える魔導師の一人もいれば完璧だったろう。


「先程はありがとう御座いました」

「貴姉のおかげで苦境を脱する事が叶いました。有難う御座います」

「ねーちゃんやるなぁ!めっちゃ助かったぜありがとなー♪」


 クレアが礼儀正しく、アリアが堅苦しく、そしてシェイアが馴れ馴れしく俺に感謝の言葉を述べる。


ハーレム環境だったら新しい女が増えるというのは女性人から反感を買うかとも思ったが、ユウジが俺をパーティーに入れたいという話をすると皆好意的に受け入れてくれた。


「良かった。キョウコは俺と同郷なんだ。仲良くしてやってくれ」


 上手く溶け込めそうだなと思った途端、ユウジが爆弾を放り込む。

俺にはそれがなんの爆弾かは解らないのだが、皆には重要な問題だったらしい。


「ユウジさん、記憶が…!?」

「ユウジ殿!故郷の事を思い出したのか!?」

「にーちゃんの記憶が戻ったならこれでいろいろはっきりするな!それで、女は!?にーちゃんに女はいたのか!?」


 …なんだなんだこいつらは。


その後もしばらく彼女達はユウジを取り囲んで喚き続けた。



…やれやれ。

しばらく面倒な事になりそうだ。


なんだか懐かしいような気がしてしまったが、俺の人生の中でこれほどにぎやかで騒がしい瞬間があっただろうか?


いや、無いな。


だから懐かしい訳じゃない。


ただ俺がこういう雰囲気というか、仲間が沢山いてワイワイやってるノリとかを羨ましいと思ってしまっているだけなのだ。


ああ、仲間っていいな。


自分を好きでいてくれる人達が居るっていいな。


それを持っているこいつが羨ましいな。




ああ、騒がしくてウザったいな。


仲間が居るって面倒だな。


自分を好きで居てくれる人なんて必要ないな。


こいつの顔を見ているだけでイライラしてくる。


この環境に居るだけで怒りが湧いてくる。


この楽しくて

煩くて

ウザったくて


幸せな空間を


早く


早く壊してしまわなければ。


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