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◆4章-3◆搾取


それから先はかなり楽になった。

対象が何であろうと奴から受け継いだ口、牙でバリボリ噛み砕く事ができる。


奴の力を借りようとすると自分の顔がぐちゃぐちゃになるのはちょっとだけ抵抗があるが、口が恐ろしく大きくなってるのだから顔がそのままと言うわけにもいかないのだろう。

出来れば顎の力と牙だけ手に入れたかったのだがそういう融通は利かないらしい。


生のままどんな物でも内臓ごとむしゃむしゃ食べていてふと気付く。

俺はよく腹を壊さないな。と。


多分俺が喰ってきた奴らの中に鋼の胃腸持ちがいたのだろうか。

そもそも魔物なんて悪食でなんでも食べるのだからそれも当然かもしれない。



とにかくなんでも噛み砕けるようになった俺はそこからあらゆる能力を求めて奔走する。


この世界は実に多種多様な能力を持った魔物や人間が存在した。

虫から得る物はそうそうないだろうと思い出来る限り除外して、まず俺は魔法に目を付けた。


ただし、魔法使いというのはなかなかに厄介な人種だ。

勿論俺には生半可な魔法は効かない。

この皮膚はわたあめのおかげか炎に関しては完璧な耐性を持っているし、あの老火竜の強靭な皮膚がある。


だから大抵の奴は簡単に首をへし折り引きちぎって逆さ吊りにして血抜きしてからゆっくり食べる。

だんだんとそれも面倒になってきて生きたまま丸かじりするようになってきた。


返り血が飛んでくるのは気持ち悪かったが、それさえ気にしなければ本当に手っ取り早い食事方法である。


どうやら奴の食欲までもある程度引き継いでしまったのか人一人くらいだったらぺロリだった。


もともと食材を残すのは好きじゃない。

どうせ食べるために殺すならきちんと全部余す事なく平らげてやらなきゃ失礼ってものだ。


話を戻そう。


魔法を得る為に魔法使いを喰うのだが、そこで問題が発生する。


どうやら魔法使いを食っても、そいつが使える魔法をそのまま使えるようにはならないらしい。


そいつの魔力は俺の物に出来る。

だが、魔法というのは自力で覚えなければいけないものらしい。

さらに言えば俺には魔法を覚える才能が欠如していた。


さあこれは困ったとやり方を改めようかと思っていた矢先、俺は気付く。


じゃあヨシュアは…?

 

俺はヨシュアから奪い取った魔法を使える。

それは相手の行動が一瞬早く解るという物だ。


たとえば相手が切りかかってきたとして、俺には極わずかだが、相手の剣の軌道が青白い残像のような形で見える。


それをかわせば必然的に次の瞬間その青白いラインを剣が通っていくという寸法である。


勿論それが見えたからといって反応できるだけの身体能力や反射神経がなければ意味がないのだが、俺はそういう危険回避能力はもともと高い方なので問題ない。


ヨシュアがあれだけ強かったのはその能力によるところが大きいのだろう。


さて、そこで疑問が生じる。

使えるようになる魔法とダメな魔法があるのはどうしてだ?

攻撃系はダメで補助は可能という事だろうか?

いや、それは違う気がする。

今まで喰ってきた魔法使いにだって補助系が使える奴はいただろう。

そうなってくると何かしらの条件があるのかもしれない。


いや、そもそもヨシュアのアレは本当に魔法か?

魔力を使っているのは間違いない。

でもヨシュアが魔法を使っていたというのはなんとなく違和感がある。

そもそもその魔法だけを習得して使っていたのだろうか?


もしかしたらアレは魔法ではなくて、ヨシュアが持つ固有の能力だったのだろうか?


確認のしようが無いが、そう考えれば一応納得できる。


ならばこの世界で特殊な能力を持っている奴を見つけて喰えば俺はもっと強くなれるという事であろう。


しかしそれはなかなか骨が折れる作業だ。


何せ見た目じゃそんな事は解らない。



翌日から俺は身なりを綺麗に整えて、いろいろな街中で聞き込みを開始する事にした。

有名な冒険者や特別な力を持つ相手を探すためだ。


それは意外と功を奏して、名が売れてる奴らはやはり何かしらの力を持っている場合が多かった。


目にも留まらぬ速さで走り回る奴を相手にした時は大変だった。

というより面倒だった。


こちらが何かしようにも凄まじい速さで視界から消える。

そして死角から攻撃してくるのだ。

勿論そんなもの効きはしないのだがこちらの攻撃が当たらないっていうのはかなりストレスが溜まる。


俺はわたあめか火竜のどちらの物なのか解らないが強力なブレスを吐く事が出来るが、広範囲の攻撃で倒す事が出来たとしても丸焦げじゃ喰っても意味がない。


あくまでも生で喰わないと。

それに相手が俺に適わないと悟って逃げられたら追いつける自信は無い。


一撃で仕留める必要がある。

俺はひたすら相手の攻撃を受けながら、それもダメージを受けている振りをしながら考える。


あまりゆっくり考えている時間も無いので一か八か…。


 相手の攻撃が俺の背中にヒットしたタイミングを見計らってうめき声を発し、大げさに前方に転がる。


案の定相手はチャンスだと俺に向かって突進してきた。

見えてはいない。

俺に見えるのは俺の首筋に振り下ろされる筈の青白いライン。


その残像が見えた瞬間、俺はその青白いラインに向かって思い切り噛み付く。


「ぎゃあぁぁぁっ!!」


 攻撃の軌道が解りさえすれば見えなくともなんとなくで対応できる…かも。

という曖昧な作戦だったがうまくいったらしい。

相手の振り下ろした短剣ごと肘辺りまで齧り取る。


それを骨ごとバリボリ噛み砕く俺を見てそいつは怖気づき、腕から血をボタボタたらしながら逃走した。


あの出血ではすぐに対処しないと出血多量で死んでしまうだろう。

どこかで野垂れ死んだらもったいないじゃないか。


…良し、行ける。


俺は手にしたばかりの猛スピードで相手を追いかける。


うぉぉぉぉ…すげー。

気をつけないと物凄いスピードで木や障害物に激突してしまいそうだ。


少しばかり出遅れたが奴の逃げた方向は地面に垂れた血が教えてくれる。


やがて前方に血を流しすぎてフラフラになっている奴を見つけた。


俺が奴と同じようなスピードで追いかけて来た事に驚愕しながらも、ついに諦めたようにそこにへたり込む。


俺も慌てて急停止し、足元のそいつに問いかける。


「何か言い残す事はあるか?」


「…お前は、人か?それとも…魔物か?」


 …この状況で聞くのがそれなのか。

つまんない奴だ。


「人間だよ」


「…嘘付け。この魔人が」


 …魔人ねぇ。

あくまでも俺は人間のつもりでいるんだけど…まぁ他者からしたらそうやって区別したいのかもしれない。


とりあえずそれ以上こいつと話していても楽しい事があるわけでも無さそうなので、まだ俺に対してぼそぼそ言っている奴を頭からガリゴリっと頂く。


しかしこれはいい能力を手に入れた。

使いこなすのにコツが必要だろうがその辺は練習すればなんとかなるだろう。


そして俺は一つの戦法を手に入れる。


思い切り加速する。

突っ込む。


これだけ。


俺の鋼の身体が猛スピードで突っ込んでくるのだから当たった相手はただではすまない。


 大抵それだけで失神するかあちこち骨が折れて瀕死の重傷。死んでしまう奴もいる。


あまりスマートな戦い方じゃないので俺は他の戦い方を手に入れる為にも能力を求めて放浪を繰り返す。



退役した元騎士のナントカ流とかいう剣技はただそいつが強かっただけっていうオチで能力ではなく、得るものは何も無かった。


全ての魔法を極めし賢者とかいうジジイは幻惑の魔法とか気配を消す魔法とかを駆使されてめちゃくちゃ大変だったがそのうち発作で勝手に血を吐いて倒れたのでその時にすかさずボリボリ。


これはとんでもない結果を得た。

魔法使いなんて倒しても魔法を得られるわけじゃないと期待してなかったのだが、こいつは特殊能力があった。


ぶっちゃけこいつの能力は俺でもズルいと思う。

どのような魔法なのかが解ればそれを使いこなす事が出来る能力。


なんじゃそりゃ。


要するにそういう魔法があるんだよ。って話からでも使えるようになる。


賢者になるべくして生まれてきたような人間だ。


ただし、それはこういう魔法がある。という情報があって初めて使えるようになるわけで、俺はその知識が無い。


仕方ないのでしばらくその賢者の家に泊まりこみ、そいつが集めに集めた魔道書を読みふける日々を繰り返す事半月ほど。


そしてその時は特に使い道を思いつかなかったとある魔法がその後とても役に立つ事になる。


もう瞬間記憶能力を持った人間とか魔物とかいないかなー。

そしたらあの魔道書をペラペラ見るだけで習得できるのに。


それか直接相手の記憶を吸いだせるような能力があれば…。


今後必要な物がいくつかわかったが…それらを探し出すのは本当に大変だ。

偶然に期待するしかない。


とにかく数打って当てるしかないので俺はあちこちで聞き込みをしながら特殊能力を集めていく。


段々人から集めるのも限界が近いかもしれない。

空振りが増えてきたり、既に持っている能力の下位互換だったり。


そこからは覚悟を決めて修羅の道を歩む。


まずは自分に出来る事をきちんと把握する事だ。

集める事に夢中になりすぎてきちんと把握できていないのもあるかもしれない。

そもそもわたあめと老火竜から引き継いだのはどれだ?

ブレスはそうだろう。

この肌もそう。

ほかにはできる事ないだろうか?


一つ気になる事を試して見る事に。


…その結果、俺は空を飛べるようになる。


強い跳躍力とかは他の奴から調達していたが、実際浮き上がるとなるとそうもいかない。


竜といえば飛行だろう。

ならその特徴も引き継げないものかと、背中から羽が生えるイメージを頭の中で強く広げる。


すると、気がつけば服を突き破るようにして背中に真っ赤なドラゴンの羽が生えていた。


これは老火竜ではなくわたあめの翼だ。

色で判別しているだけなので多分、だが…これはわたあめのだと。そんな気がした。


試しに飛んでみる。

なかなかバランスを取るのが難しい。


思い切りが足りないのかもしれないと思い、崖から飛び降りてみた。


それでもイマイチうまくいかずに十メートル以上下の地面に激突。


失敗だ。


羽をいくらバタつかせてもいまいちうまく飛べなかった。


俺はわたあめを思い出す。

あの子はどうやって飛んでいただろう?


重力を無視してふわふわとよく解らない飛び方をしていた。

飛ぶというより、浮く、と言う感じだった筈だ。


俺も同じようにやってみよう。

羽をゆっくりパタパタとやりながら、ふわりと浮かぶようなイメージ。


すると少しずつだが、足が地面から離れていく。


感覚になれるまでに三日かかった。


慣れてしまえば自由に空を飛び回る事ができるようになり、行動範囲も増える。


上空からの方が何かと索敵もしやすいので便利だ。


俺はとにかく自分の能力を使い慣れる事に集中する事にした。

経験を積まなくてはならない。


今まで手に入れてきた能力にも俺の知らないもう一つ上の使い方があるかもしれない。

いろいろなやり方を模索して、俺は戦いに明け暮れる。


魔物の巣を見つけては乗り込み一人で百体以上を相手にしたり、とある国を滅ぼしてみたり。


ひたすら殺して殺して喰って喰って喰った。


そんな日々を一年以上繰り返した頃だろうか。

探していた能力も少しずつ集まってくる。


瞬間記憶能力もそう。

これは意外と早く見つけられた。

とある街でそういう人がいるという噂があったのですぐだった。


完全に偶然だったのは、相手の記憶を吸いだせる能力。

これは完全に運が良かったとしか言えない。

あまりに身体が血に汚れてしまったので海辺に出て無人島の波が穏やかなところで身体を洗っていたところだった。


周りにわらわら集まってきたイルカみたいなのを気まぐれに一匹ガブリとやったら手に入れてしまった。


こういう事があるから動物達も馬鹿に出来ない。

そもそも動物と魔物の差はなんだ?

人を襲うかどうかか?


いや、それだったら日本の熊だって魔物になっちまう。

日本には魔物なんていないから区別する必要もないんだが。


この世界ではどうしたらいいんだろう。

むしろ動物なんてカテゴリはないのか?穏やかな魔物と凶悪な魔物。

そういうものなのかもしれない。


まぁそんな事は俺にとってどうでも良い事だった。


あまりに突然凄い能力を手に入れてしまって頭が混乱していたのかもしれない。


どちらにしても、そろそろ俺は行動に移ってもいい頃合だろうか?


いろいろ考えて結論を出す。

もうちょっとだけ準備をして、そしたら動き出そう。


記憶を吸いだせる能力を手に入れたならそれを活用しないと意味がない。

経験者だ。

百戦錬磨の猛者を食わなくては。

ヨシュアや賢者やあの強い元騎士なんて今こそ喰うべき相手だった。

タイミングというものはなかなかうまくいかない。

まずはそれらをきちんと調達する。

情報は宝だ。

そして、その情報をある程度集めたらその時は…目的の為に動き出そう。



まず俺の目的に一番邪魔な奴をどうにかする。


今のところ相手は二人。


聞き込みをしていた時に入ってきた情報に魔王が実際に存在するという物があった。

もし実際にいる居るのならそれは俺がなろうとしているものではないのか?

ならば俺にとって邪魔だ。

滅ぼさなければいけない。



そして、一番俺が殺意を感じている相手。


勇者だ。



あの男は必ず殺す。

この世界から搾取した力で殺す。

出来る限りの絶望を味あわせて殺す。

奴から全てを奪って殺す。

殺して殺して殺して殺して…


喰い尽くしてやる。


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