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◆4章-1◆検証


 うっすらとだが、俺には自分の能力について分かりかけていた。


確信はまだ無い。


だからそれを確かめるためにまずは手当たり次第に殺した。


虫、動物、魔物、人間。


目に付くものを片っ端から殺して回った。


結果、検証その一の結論が出た。


失敗だ。


少なくとも、幾つか考えられるうちの一つ、殺した相手の能力を得られるというのは間違いのようだ。


次の検証に移る。


また目に付くものを片っ端から殺し始めた。


虫、動物、魔物、人間。


それらを調理して食べる為だ。


まずは一番抵抗が少ない動物から。


何故か俺は音や振動に対する反応が人のそれでは無い。


いつからか不自然なほどに敏感に感じ取れる。


野生の動物を捕らえる事もそう難しい事ではなかった。


心が痛まないと言えば嘘になる。

もともと俺は動物が好きだ。

殺したくは無い。


しかし、目的が調理して食べる事ともなると一番抵抗が無かった。


まずは山に分け入り小動物を幾つか捕らえてくる。

首を落とし逆さに吊るして血抜きをした後、皮を剥ぎ内臓を取り出す。

肉だけになったところで体の部位毎におおまかに切り分ける。


それらを茹でたり焼いたりして命に感謝しながら食べた。


残念ながら何も起こらない。


次は魔物で同じ事をやる。


魔物は姿によってはなかなかにグロテスクな奴も多く、非常に抵抗があったが細かい事を言っていられないので殺して裁いて調理して食う。喰う。


我慢して食ったのに何も起こらない。


仕方ないので次は虫に取り掛かる。


この世界にもいろいろな虫が存在する。

ゴキブリのようなタイプの物からバッタ、蝶や蜘蛛に似た虫まで様々だ。


それらを適当に捕まえて来ては油で揚げて食べた。


何故油だったのかと言えば、ただ単に虫を煮たり焼いたりしても抵抗感が消えないからだ。

揚げたところでそれは変わらないのだが、水分が飛んでカリカリになるだけマシだった。


本当に残念な事に何も起こらない。


仕方ないので他の調理も試す。


まずは焼いてみた。


虫によっては意外に食える物もある。

俺がゲテモノに慣れてしまっただけなのかもしれない。


だからと言ってまだまだ我慢をして食べているのは相変わらずだ。


それも意味が無かったので煮てみる。


これは個人的にダメだった。

虫特有のぶにぶに感が強調されるだけで、噛んだ時に口の中に広がる体液の感じといい最悪である。


本当に精神が磨り減っていくのを感じた。


だが、それでも何も起きなかった。


本当に仕方なく、人間を食べる事にする。


この頃から俺の良心は完全にどこかへ消え去った。


人食い。

カニバリズム。


それがどうした?


俺にとっては動物や魔物、虫を殺して食べているのと同じだ。


検証に必要な事だから仕方なく殺して食べているだけである。

それが虫か人かなんてどうでもいい事だ。


とは言ってもムキムキのおっさんは筋肉が硬くて食べにくそうだ。

切り分けるのだって体力が必要だし、一番適しているのは身が柔らかい子供だろう。

それも女子がいい。


別にそういう趣味があるわけでは無いのだが、効率を考えるとそれが一番適しているのだ。


街に入り、適当に悪さをしている子供を見つけて路地裏で殺し切り分ける。

小さな子供は関節部分に剣を入れるだけで簡単に四肢を切断する事ができた。


出血もまぁ、大人に比べれば少ないだろう。

手早く食せそうな部分を袋に詰めて街を出る。


慌てていた為血抜きがうまく出来ておらず袋が血で滲む。

生臭い臭いが鼻を突くが、俺は止まらない。


まずは太ももの肉をスライスして焼いて食う。


…意外に美味いな。


自然に、そう感じてしまった。


俺は持ってきた肉をいろいろな調理法で食べてみる。


焼いても美味い。

煮ても美味い。

油で揚げればまさに唐揚げだ。


これはいい発見だな、なんて思いながらそれらを食い尽くす。


しかし、何も起こらない。


そもそもだ。

仮に食べた相手の能力を手に入れられるのだと仮定した場合。


虫や動物、魔物達ならまぁ得る物もあるかもしれない。

だが、よくよく考えたら人間の幼女など食ったところで何を得られるというのだろう?


本来なら実行前に気付くべきなのだが最早俺にはそれらの一連の流れが作業になってしまっていた為気付く事が出来なかった。


今後は仕方ないが大人にも手を伸ばしてみるしかない。


そしてその後も何度か同じ事を繰り返す。

虫も動物も魔物も大体検証してしまったので人間でどうにか結果を出したいところではあるのだが、近付いてきている感覚はあるのに条件を満たす事が出来ないでいる。


筋肉質の硬くて不味いおっさんの肉も、子供程では無いが柔らかく食べやすい女性の肉も、どこに食べるところがあるのだろうというような爺さんの肉も食ったが結果は同じ事だった。


いったい何が足りないのだろう。


俺は迷走していた。


そんなこんなで様々な検証を続けているうちに、俺の犯行がついにバレる。


勿論人に手を出し始めた頃から猟奇殺人だなんだと街中では騒がれていたが、俺に繋がるような証拠を残してはいないのでバレる事はなかった。

それくらいはうまくやっていた。


だが、もしかしたら俺の犯行なんじゃないか、と気付いた人間がいた。


ヨシュアだ。


山の川辺でいつものように検証をしているところだった。

ヨシュアが現れる。


 その日、俺は覚悟を決めて内臓にも手を出しているところだった。


虫はもともと丸ごと食べていたので、動物と魔物も検証してみる。

意外な事に一番美味い内臓は魔物の物だった。

勿論種類によってバラつきはあるものの、全体的に、という意味である。


人の内臓は湯通ししても焼いても揚げても美味いものでは無かった。

雑味が多すぎるというか苦い。


だが美食を追及する事が目的ではないのでそんな事に構ってはいられない。



「…ジャン、リンが自殺したという話は聞いた。その後お主が失踪した事も…。心配しておったのじゃぞ」


 俺はヨシュアが何か言っているのを無視して俺は女の内臓を炒めた物を串に刺す作業をしていた。


「ジャン、聞いておるのか?今街では大変な事件が起きていてな、お主…よもやそれに関与など…っ!?ジャン、い、今…お主が手に持っているそれはなんじゃ…?」


 …あ?

これの事か?


「街で見つけた女の内臓だけどそれがどうかしたか?」


 そう言って俺は焼き鳥のように串に刺さった女の肝臓を一気にほお張る。


うん、男のよりはマシだが好んで食べたい味じゃないな。


「き、貴様…まさか街で人を殺しているのは、ジャン…お主なのか?しかも、それを食ろうているとは…ッ!!」


 見た目だけは若いジジイが何か騒いでいる。

昔から倫理には特に煩いジジイだった。


「別に食いたくて殺してるわけじゃないよ。俺だってこんなもの食わずに済むならその方がいい」


「な、なら何故そのような…」


「あんたに言ってもわからないよ。俺には確かめなきゃいけない事があって、その為に必要な事だから仕方なくやってるんだ。都合よく肉なんか落ちて無いだろ?だから殺して調達するしかないんだって」


「貴様…気でも狂ったか!?」


 そうだなぁ。

とっくに狂ってると思うよ。


でもそれをお前にとやかく言われる筋合いは無い。


「わしが教えた剣で…罪も無い人々を…なんとなくそんな気はしていたのだ。だからお主を探していた。間違いなら良いと思っておったが…こうなっては仕方が無い。わしが責任を持ってお主を止めよう」


 だからなんの責任だよ。

わしが教えた剣で、とか言ってるけどあんたの剣を熱心に勉強していたのはダレンだ。

俺じゃない。


俺はただなんとなくダレンに置いていかれない程度に強くなれればそれでよかったんだ。

あんたの事を師匠だなんて思った事も無い。


ただの知り合い。


それが責任を持って?

笑わせないでくれよ。


俺は構わず違う臓器の調理に取り掛かる事にする。


「成敗致す。許せッ!!」


 そんな俺の背後から、ヨシュアが思い切り剣を俺の首筋に振り下ろした。


がぎゅぃぃぃんっ


案の定ヨシュアの剣は俺のうなじあたりの皮膚に弾かれてしまう。


俺はもう何臓だかわからない臓器を油で揚げて、それを一つ口に放り込む。


うん?

これは悪くないな。

今食べたのは何臓?

いや、臓器全部が名前に臓が付くわけじゃないか。

どこの部位だったのだろう。

今度またゆっくり確認してみようか。


「…な、何が…どうなって…」


 まだいたの?


「あんたさ、俺を止めたいんだったら力不足だと思うよ?今のあんたに俺は殺せないし、むしろ殺せるなら殺してほしいから避けなかったんだからさ、せめて痛い、くらい言わせろよ」


 ヨシュアは臓器唐揚げをもしゃもしゃ食べながら近付く俺に恐れをなしてその場にへたり込んでしまう。


あのヨシュアが。


笑える。


「そういえばさ、まだ一つ試してなかった事があったんだよね」


「な、な、なんの事じゃ…っ」


「そうだそうだ。なんでもっと早くに試してみなかったんだろう。検証始めたばっかりならともかく今の俺なら気にする事もないのにな」


 ヨシュアは腰が抜けてしまったらしく「ち、近寄るでないっ!!」とか言いながら剣を振り回した。


それが俺の膝や足首に当たるたびにがぎんがぎゅいんと鈍い音がする。

そのうちヨシュアの剣はカッターの刃のようにどんどん折れて短くなって最後には無くなってしまった。


何それマジウケるー。


耳元でやかましい悲鳴を上げ続けるヨシュアの首筋に、思い切り噛み付く。


今まで生食を一切試してこなかったのは我ながら馬鹿だと思う。


始めた頃、動物や魔物、虫なんて生で食べる気にはなれなかった。

だから無意識に調理して食べる事が習慣付いてしまっていたが、方法論としてはこれも試すべき案件だろう。


ヨシュアが痛みに耐えかねて手足を大きくバタバタ振ったが、構う事は無い。

首筋に噛み付いた部分を思い切り食いちぎる。

血が口の中いっぱいに広がって気持ち悪い。

やっぱり生は抵抗あるなぁ。


別にやめないけど。


もう一かじりした所で異変に気付く。


今まで感じた事の無い感覚だった。


笑いがこみ上げてくる。


きっと今までは自分の能力が分かっていなかったから力を得ている事に気付かなかっただけだったのだ。


今ならすぐに分かる。

ヨシュアの肉を食いちぎり、咀嚼し、飲み込んだ瞬間。


俺の体に感じた不思議な感覚は…。


魔力だ。


それも攻撃的な物では無い。



詳しい事はこれも検証してみないと分からないが、おそらく回避系のスキルだろう。


笑いが止まらない。


あのヨシュアが、

あのヨシュアが、だ。

戦いの際魔法に頼っていただなんて。


そりゃ当時の俺やダレンが勝てる訳が無い。



「なぁジジイ。魔法が使えず自分の力だけで強くならなきゃって頑張ってたダレンの相手してるのはどんな気分だったんだ?答えろよ」


 …。


「もう、聞こえねーか」


 首を半分以上噛み千切られたヨシュアは、当然といえば当然だが、息絶えていた。


俺は勿体無いのでそのまま出来る限り食す。


が、しかし途中で顎が痛くなってきたので残ったヨシュアはその辺に放り捨てる。



俺の能力は分かった。

使い方も分かった。

後は根気である。



その夜もいつもの悪夢を見た。

相変わらずそれは毎日続いている。


ダレンはもう俺の事を諦めてしまったらしく遠くで体育座りしながら見つめてくるだけだ。

ルーイはいつもと同じくひたすら小言を言ってくる。

ある日は恨み言。

ある日は忠告。

そしてある日はただただ涙を流すだけ。


そしてわたあめは、ひたすら俺に本当にそれでいいのかと問い続けるのだ。

良くは無い。

しかし悪くも無い。


死ぬ事が出来ないのなら、俺にできる事は俺以外を殺す事だけだ。


悔いる事があるとすれば、俺がもっともっと早くにこの能力に気付いていればあの施設での化け物も倒せたかもしれないし、わたあめを少しだけ食べさせてもらって背中に翼を生やしあの洞窟を飛んで出られたかもしれない。

俺はあの時…洞窟に閉じ込められ限界の状況の中、生で食べた虫の特性を吸収して音や振動に敏感になっていたのだろう。

だったらやる気になればあの壁面を這って登ることも出来たのかもしれない。

わたあめを助ける事が出来たかもしれないのに役立たずの俺には助ける事が出来なかった。


それだけは本当に悔やまれる。



そうそう、最近になって悪夢のメンバーに新入りが加わった。

リンである。


リンはひたすら俺に向かってお前が死ねばよかったと繰り返し言う。

なんだかもう慣れてしまった。


むしろそっちに体育座りのダレンがいるんだからそっちで仲良くやってりゃいいだろとさえ思う。


そして今日になってさらに新メンバーが加わる。


ヨシュア。

これは煩くてたまらない。

人食いが!とか気が狂ってる!とかずっと喚き散らしてくる。

精神的に追い込まれるとかそういうんじゃなくてひたすら煩くてたまらない。


それ以外にも新入りは居た。

大量の虫達。

大量の動物達。

大量の魔物達。

そして大量の見知らぬ人間達。


いちいち顔を覚えてはいないがきっと俺が殺して食ってきた人間だろう。


ごめんな。

虫も動物も魔物も人間も。


俺がやり方を分かってなかったせいで無駄に殺してしまって。

せめて俺の役に立てばよかったのにな。


でも子供とか女とかは結構美味かったよ。


そういう意味では俺の役に立ってたかもしれないしいいよね。


これからはもっと厳選して必要な物をきちんと俺の中に取り込んでいくから。


お前らの死は決して無駄にしないからさ。


そう嘆くなって。


大丈夫。


すぐにもっともっとお仲間を増やしてあげるからさ。


そしたらもう



寂しくないだろう?

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