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◆3章-2◆演者の邂逅


 俺達は四人でパーティーを組む事になり、名目は俺の記憶を取り戻すという事で各地を渡り歩く事になる。

つまりは冒険の始まりだ。


あの後魔物達から街を救ったという事で俺達は手厚くもてなされ、冒険に必要な道具、装備一式を調達する事が出来た。

そしてその街に二~三日滞在し、新たな街へと旅立つ事にする。


各地で困っている人を助け、宝が眠るという噂のダンジョンもいくつかこなし、連携もうまく取れるようになってきた。


それぞれの役割がきちんと定まった事で非常にバランスのいいパーティーとなっている。

回復、支援魔法のクレア、壁となり皆を守るアリア、前線で戦うシェイア。そして、それら全てをサポートしつつ全部の役割をこなせる俺。


欲を言えば強力な魔法攻撃が可能な人員が一人欲しいところだが、今のところ魔法でなければ倒せないような魔物には遭遇していない。

それに、もしそういう敵が現れたとしてもクレアは簡単な攻撃魔法も使えるし、最悪の場合俺が攻撃魔法役に徹すればいい。


どうやら俺のステータス上どのような魔法も使いこなせる事が判明したので、魔法屋という店によりとりあえず全属性の魔法書を買って使えるようにしてある。

ショップでは中級魔法程度しか取り扱いがなかったが、俺の魔力で使えば中級魔法でも上級以上の火力が出るので問題無い。


それに、魔法なんて使わなくてもムラクモがあれば誰にも負ける気はしなかった。

だが、全て俺だけで片付けていたのではパーティを組んだ意味がないし俺達の好感度上げにもならない。

だからあえて皆で協力して戦う。

ヤバめの敵が出たら俺が全員を守る。


そうやって俺は皆から絶対の信頼を勝ち取った。

そして愛情も。


野望としてのハーレムには程遠いが、パーティ内ハーレムは確固たる物になった。


そして運命の時が訪れる。



ふらりと立ち寄った街で、巨大な火竜が現れたという噂を聞く。

騎士団が大勢で討伐に向かったという事だが、勝てる見込みがあるのだろうか?

むしろ、俺達が颯爽と登場して騎士団の目の前で火竜を討伐してやれば俺の名にも箔が付くのではないか。


皆に火竜の話をするとクレアは若干心配そうだったが、概ね全員賛同してくれた。


そして意気揚々と火竜が現れたという場所へ向かったのだが…。


そこで目にしたのは想像をはるかに越えるサイズの火竜だった。


マジでこんな生物が空を悠々と飛んでる世界にきちまったんだなぁと思いながらも俺達は戦いを挑む。


戦いの最中火竜が大きく息を吸い込んだ。

これは特大のブレスが来る予兆と相場が決まっている。

なので俺はあえてそれを避けず、むしろ突進して思い切り火竜の顎を蹴り飛ばした。


俺達のパーティーを狙っていた炎は明後日の方向へ放出されるのだが、運の悪い事に遠くから集団で迫ってきていた騎士団連中がモロにそれを受けてしまう。


そういう事もあるよな。

俺のせいじゃない。


騎士団の連中に俺の雄姿を見せる事が出来なかったのは残念なのだが、この火竜を倒した事実を騎士団を派遣した国に持ち帰ってやれば俺は英雄になれるだろう。

だったら何も問題は無い。


火竜は手ごわかったが、俺のムラクモを使えば取るに足らない相手だった。


火竜を討ち取り、その角を切り落とす。

かなりかさばるがなかなかそれは軽く、筋力強化された俺にはたやすく運ぶ事が出来そうだった。


勿論根元からでは大きすぎるので先っぽの方だけだが、きちんと調べてもらえば火竜の物だと分かるだろう。

実際この火竜は討伐されているわけだし、俺がこれを持っていけば証明になるはずだ。


そう考えると騎士団が壊滅しているのはある意味効果的とさえいえる。

これだけ束になっても叶わなかった火竜を俺達のパーティーが討伐したのだ。

それ相応の評価をされるべきだろう。


これで俺の夢の実現がまた一歩、とても大きな一歩を踏み出した。


「しっかしこの世界は最高だな」


「ん?にーちゃん今のなんて言うたん?」

「聞いた事の無い言葉だったが…」

「もしかして自分の国の言葉とか?」


 記憶が戻ったのか?と皆が騒ぎ出す。


テンションが上がりすぎて無意識に日本語で口走っていたらしい。

気をつけなければ。



そういえばどうでもいい事だがブレスを浴びた騎士団の中に一人生き残りがいて途中ですれ違ったので一声かけておいた。


本当ならどこか近場の街まで送っていってやるべきなんだろうが不思議な事にあのブレスを浴びてなんとも無さそうだったので一人でも帰れるだろう。


他の奴らが炭になっているところを見る限り人だかりを盾にして一人生き延びたのかもしれない。


そういう姑息な真似は嫌いだ。

だから俺はそいつに構う事なく先を急ぐ。



そして、俺の目論見どおりだった。

ファナール王国へ到着すると物凄い歓迎を受けた。


どこかから既に俺達が討伐した情報を得ていたらしい。

街に着くなり

「勇者様お待ちしておりました!」

 …これである。


騎士団総出でも手も足も出なかった火竜を退治したパーティーという事で俺達は英雄扱いだった。


盛大なパレードが開かれ、国王に謁見し、是非姫の婿にという話になる。


だがそこだけが良くある異世界転生物のようにうまく行かないところだった。


国王の娘は…


既に三十台後半で、しかも俺の倍以上の体重ではないかと思われる容姿だったのだ。


真実を写す鏡とか手に入れてきたら絶世の美女になったりしないだろうか。


とにかく、俺達には俺達の旅があるからと国王に丁重なお断りをして俺達は新たな旅に出る。


が、その前に勇者としてこの国で盛大に遊んだ。

飲み食いはし放題、女は勝手に群がってくる。

パーティー連中の目もあるのでその辺は人目を忍んで遊ばなければならなかったが、この国で骨をうずめてもいいんじゃないかと思える程度にはいい思いをした。


それからこのファナールを出て、ファナール大陸中をあちこち旅して回った。

どうでもいいけど大陸と王都の名前が一緒っていうのは意外とややこしい。


日本で言うなら東京の名前が日本。みたいな物だ。

日本の首都日本。

ほらおかしな具合だろう?


それはともかく、大きな街も幾つか回り、各地で困っている人達を助けながら冒険は続く。


とある街では人身売買組織をぶっ潰し、またとある街では貧富の差から生まれる慢性的な差別概念をぶっ潰した。

と言っても人身売買組織は潰せば終りだが民衆の心に巣食う感情をどうにかするのは簡単な事ではなく、まずは貴族連中に取り入るところから始まり、何度も街の危機を救う。

そこで信頼を得てから進言するのだ。


誇り高い貴族であるあなた方が同じ人間を見下すような愚かな行為をしてはいけない。


勿論そんな簡単に話は進まないが、それでも少しずつ皆の感情は変化していった。

貴族ならば貧困に苛まれる民達を守ってやるくらいの余裕がなくてどうする。


一人の貴族がそう言い出した事が一番の転機となり、今では差別的な発言をするだけで時代遅れの馬鹿者呼ばわりされるようになった。


そして、最大の原因である貧困についてはある程度解消できているのでこのまま行けばその街はいい方向へと進んでいく筈だ。


貴族は貧困に困る人々に仕事を与え、きちんと相応な給金を支払う。

その仕組みが出来た以上心配はいらないだろう。


そんなこんなで旅を続ける事一年と少し。

俺は運命的な出会いをする事になる。


それはマイヤという街に立ち寄った時の事、一人の闇に落ちた魔導師が大量の死霊を操り街を混沌に落としいれようとしていた。


俺達一行はその騒ぎで夜中に叩き起こされる。

眠い目を擦りながら皆と準備をして宿の外に出るとそこはゾンビのような魔物と骸骨剣士みたいなので溢れていた。

幸いにもあまり知能は高くないらしく家に入ろうとはしていないが、動く物や音に反応して一斉に襲い掛かる。


住民達は今日に始まった事ではないらしく、対応は心得ていた。

家に閉じこもって震えて夜を過ごす。

それが一番安全な解決策だったのだ。


俺達が叩き起こされたのは、宿の主が俺達の事を知っていたからである。


この大陸でもはや俺達の事を知らない人の方が少ないと言えるほど有名になっていたのだ。


それで店主に、毎日これで困っているからどうにかしてもらえませんかと泣きつかれてしまったわけだ。


死霊の類は相手にした事がなかったが、出来るだけ噛まれたりとかは気をつけるように皆に言って各自死霊退治に取り掛かったわけだが…。


「なんやこいつらよわっちぃ癖にすぐ立ち上がってきよるんやけど!」

「確かに…倒すのは簡単だがすぐに再生して襲い掛かってくる…ユウジ、どうしたらいい?」


「それに数が多いですぅ~このままじゃ、ちょっと危険じゃないですか!?」


 皆が段々慌て始める。

俺も何体か倒してみるが、どうにもこうにも手ごたえがない。

ゾンビはすぐに手足が千切れ、倒れるのだが気が付くとそれらを繋ぎ合わせて再び襲ってくる。

骸骨剣士は叩けばすぐにバラバラになるが、すぐにそれらがプルプル震えたかと思うとまた一箇所に吸い寄せられるかのように集まり、元の骸骨剣士が蘇る。

これではキリがない。


その場しのぎの対応は十分可能だが、こいつらを始末するのは策を考えないとダメだ。

どうする?ムラクモで跡形もなくなるほど粉々にするか?

いや、あの風圧で細切れにしたとして、骸骨は何とかなるかもだがゾンビがびちゃびちゃ飛び散ってきたら気持ち悪すぎる。

それは最悪の場合の最後の手段に取っておくおして、他に何か…。

漫画やアニメではこういう奴らに対してどう対応していただろうか。

ゲームとかでは普通にザコとして簡単に倒していたように思う。


俺にはこういうファンタジーに対応できる知識が少し足りない。


対応に困っているうちに、じりじりと追い詰められ気が付けば周囲を囲まれていた。


…倒せるかどうかはおいといて一度ムラクモでこいつらをまとめて吹き飛ばして体制を立て直すか…?


 やむを得ず俺が刀を呼び出そうとしたところで、あいつと出会った。


「この髑髏は腰骨を砕け。そうすれば復活できなくなる。それとゾンビは炎で燃やせば再生しない。炎が無ければ聖水か回復魔法でもかけてやれ」


 近くの家の屋根から颯爽と俺達の前に飛び降りてきたそいつは、俺を見つめてふっと笑うと、俺に背を向けて魔法か何かでゾンビの群れを焼き尽くす。

そしてほんの瞬きをする程度の間に骸骨の群れも無効化してしまう。


確かにゾンビも骸骨もピクリともしなくなった。


「き、君は…?」


「勇者様ってのも意外と大した事ないんだな」


 そう言った彼女は。


一撃で


完膚なきまでに


俺の心を打ち抜いた。



「何をしている。弱点が分かったんだからお前らも対応できるだろう?まだ街中に死霊が溢れてるんだから働け」


 その言葉に皆無言で頷き、各自死霊退治を再会し始める。


俺は、そこから動く事ができない。


ショートカットの紫がかった黒髪。

漆黒の瞳。

冷酷な視線。


俺の中に電気が走ったように、その横顔に見蕩れていた。


 そして何より、彼女の次の言葉に俺は運命を感じてしまう。


「この言葉が分かるな?」


 それは、間違いなく、日本語だった。


「き、君も転生者なのか!?」


 俺のその反応にまた彼女はふっと笑う。

その冷たい視線。

見下すような含み笑い。

男勝りな話し方。


どうしてだか俺はそんな彼女から目を離せない。


「…やっぱりそうか。話の続きはこの騒ぎを鎮めてからにしよう。元凶は一人の魔導師だ。今頃は手下の死霊がどんどんやられて焦ってるだろうぜ。街の北部に集団墓地がある。奴が向かうのは多分そこだろう…先回りするぞ。一緒に来い」


 目が合って、何故だか慌てて視線を逸らし、頷く。

うまく言葉が出てこない。


凄いスピードで走っていく彼女を追いかけながら考える。


彼女も転生者だとしたらこの異常なスピードで走れる事も納得できる。

が、俺が気になっているのはそんな事ではない。


あの状況からの対応である。

魔物に対する的確な対処法。

そして魔法だけでなく体術、剣技も痺れるほど洗練されている。


生き物として明らかにこの世界の人間とは違う。

一つ上位の存在だ。

上位の美しさがそこにある。


そして頭もいい。

魔導師の次なる行動を先読みして走る。


俺達が墓地に到着してすぐ、一人の優男が墓地に現れる。

手駒が無くなってここに眠る人々の遺体に目を付けたわけだ。


そんな外道は俺が許さない。


「そこまでだ。これ以上死を冒涜する事は許さない」


 青年はこちらの声に気付きビクッと身体を震わせながら、

「な、なんの事ですか…?僕はただ、墓参りに…」

 と言う。


「はっ、こんな夜中に墓参りとは随分生活習慣が乱れてやがるなお前」


 彼女が青年に向かってそう言いながら走り、男は何やら呪文を唱えて背後に俺達の三倍くらいのサイズのゴーレムを呼び出す。

彼女は突然現れたゴーレムに動じる事なく懐から小さなナイフを取り出しゴーレムの額に投げつける。

そのナイフが額に当たった瞬間、ただの土くれに戻り崩れ落ちていく。

その様子に狼狽した男は慌てて逃げ出そうとするがあっと言う間に追いつかれて、その場で息絶える。


一瞬の出来事だった。

俺の出る幕が無い。


全てにおいて対応が早すぎる。

知識か?いや、どちらかといえば経験だろう。


欲しい。


彼女が、欲しい。



いや、変な意味ではなく、戦力として俺達のパーティーに必要な人材だ。


そんな事ばかりを考えていて、彼女が魔導師を当たり前のように殺害している事なんてどうでも良かった。




「君、名前は…なんていうの?」

「あ?ああ、名前か…俺はキョウコ。お前と同じ日本人だよ」


 …日本。

こんな所で同胞に会うとは思わなかった。

本当なら俺以外の転生者なんて必要無いと思っていたのに、この人は…この人の事は全て受け入れてしまう自分がいる。

一人称が俺な所さえクールでカッコいいと思う。

どうも俺は彼女を見ていると冷静さを失いそうだ。


「キョウコ…キョウコか。いい名前だ。君も神様の手違いで死んで能力を与えられて転生したのか?」


 彼女は少し首をかしげて黙ってしまう。

「生前の事とか追及したりしないから安心してくれ。俺はただ君を、キョウコをうちのパーティーにスカウトしたいんだ。同郷の士とかそういうのは関係無くね」


「転生の件は大体同じようなもんだよ。それと、パーティーの件は…そうだな、もともとは勇者と言われてるお前が同じような転生者かどうかを確認しにきただけなんだが…それもいいかもしれないな」



 皆にキョウコの事を説明するのはなかなか大変だったが、窮地を救ってくれた彼女の事を概ね皆スムーズに受け入れてくれた。


俺がついうっかりキョウコを同郷なんだと説明してしまったがために俺の記憶がある程度戻ってきたという事にしなくてはいけなくなった。


その様子をキョウコは冷めた目で見つめている。いや、俺を冷たい目で見下している。

その視線、ご褒美です。


まて、俺にそんな趣味は無かったはずだ。


…いや、そんな事どうでもいい。

どちらにしても俺達のパーティーにこれ以上無いほど頼りになる仲間が加わった。



そしてその後俺達はこのパーティーで魔物の大陸、ユメリアに乗り込み、魔王と対峙する事になる。


同じく転生者で、魔物と言葉を交わし、それらを支配、操る魔王と呼ばれる人間と。


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