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◆3章-1◆幕間が演者を喰らう


 俺の旅は順風満帆だった。

実際俺の身体はぐしゃぐしゃになって使い物にならなかったらしく、この世界で新しく再構成されたものだ。

その際いろいろと注文をつけて便利な身体にしてもらってある。


そして、俺が最初に目が覚めた場所はとある街に繋がる街道の脇に倒れていた。


そのまま街に入ってもよかったのだがいきなり人が沢山居る場所に行くのも少々気が引けたのであたりをうろうろして見る事に。


街に向かう行商人が何やらよく分からない生き物が繋がった馬車のような物に乗って目の前を通り過ぎていく。


見た事も無い生き物だったが、はっきりと名前がわかった。

ダビだ。

あれはダビ車。俺の世界で言うところの馬車の様な物だ。


俺の世界で言うところのなんて考えておいてなんだが俺の世界で馬車なんて実際見たことは無い。

テレビではたまに見かける事もあるが、実際に目にするのは馬車ではなくダビ車が最初というのもなんだか不思議な感じがする。


「貴方もあの街にいらしたんですか?」


 ふと背後から声をかけられる。

若い女の声だ。


振り返ると、ふわふわした薄い水色の髪の毛をなびかせた導師風のローブを纏った少女がにこりと笑っていた。


突然だったので少々身構えてしまったが、その必要は無さそうだ。


「え、ええ。このあたりの事は全然分からないので戸惑っていました」


「あ、やっぱり♪実は私もなんです。あまり大きな街ではないみたいですけど…いつも知らない街に入るときって緊張しちゃって。そしたら街の前をうろうろしてる人がいたのでもしかして~と思って声かけてみたんです」


 同士を見つけた!とばかりにその少女はにこにこと笑いながら喜ぶ。

とても笑顔の素敵な少女だった。


どうせ俺の事を知っている人もいない新しい世界なのだから少しばかり積極的になってみてもいいだろう。


「もし、よろしければ一緒に街を見て歩きませんか?実を言うと個人的な事情で今まで生きてきた記憶があまり無いんです。なので何をするにも不安で」


 それを聞いた少女はこちらがびっくりするくらい驚愕した顔をして「記憶喪失なんですか!?」と俺の両肩を背伸びして掴んできた。


背伸びしなきゃ届かないならやめとけばいいのになぁなどと思いながらもドキドキする。

女性との接触は慣れてないのだ。


勿論俺はモテた。

元の世界でもそれなりに女友達もいたし告白も数えられない程受けている。


だが、俺のイメージとして、いや。周りが望む俺を演じる為には女性というのは邪魔だったのだ。

それ故に必要以上に仲良くなろうとは思わなかったし、不用意に近付く者はこちらから遠ざけていた。


そんな理由もあるし、見たことも無いファンタジーな髪色、そしてとても愛らしい少女という事もあって俺はドキドキしてしまったのだ。


「あっ、急にごめんなさい。もし私の友達とかが記憶喪失になって私の事忘れちゃったら…と思ったらとても悲しくなってしまって。それに私が記憶喪失になったら不安で辛いだろうなって…」


 そう語りながら涙眼になっている。

人の事でここまで感情を出せるのは凄い事だ。

純粋に感動である。

「あの、街を見て回る件勿論オッケーですよ♪それに…私そんな話聞いたら放っておけないですよ。記憶が戻るまで私がお手伝いします。…と言っても私もこのあたりは初めてなのであまり役に立たないかもですけど」


 …まじかよ。


いろいろ考える事が多すぎて頭の処理が追いつかなくなってきている。


 とりあえず言語だ。

問題なく聞き取れるし意味が自然と理解できている。

こちらの言葉も当たり前のように通じている。

自分がまったく習得した覚えの無い言語を喋っているのは不思議な気分である。

勿論ちゃんと日本語を喋ろうと思えば喋れるし、試しに呟いてみるとその言葉は彼女には伝わらないようだった。


それと俺はあの女神らしき女に感謝すべきだろうか。

俺の身体のパラメーターを設定している際に運の項目も出来る限りあげろと伝えたが、それにしたってこれは凄い。


初めてあった女性が可愛くて、世話焼きで、俺の記憶を取り戻す手伝いをしてくれるという。

勿論記憶云々はでまかせだが、俺はこの世界の事は知識でしか知らない。

実際見てみないとわからない事もあるだろうから彼女のサポートは頼りになるはずだ。


そして可愛い。


俺のハーレム候補第一号にきまりである。



 彼女の名前はクレア。

記憶をなくした(という設定の)俺をやたらと世話してくれる。

その後はとんとん拍子で事が進んだ。


まず二人で街を散策している時に街の中に突如魔物が大量発生し、街の人々を守るために戦っていた女騎士に加勢する事に。


女騎士の名前はアリア。

全身をいかつい鎧で固めていて、攻撃は勿論だがどちらかというと防御に長けているようだった。

戦いの最中にも何やら技を発動していたが、防御系の魔法を駆使しながら一体ずつ確実にしとめていくスタイル。


彼女はかなりの使い手だったが魔物の数が多く、一対一の戦いに長けている彼女は苦戦を強いられていた。

まずおせっかいのクレアがアリアに身体能力強化の魔法をかける。

あるのは分かっていたが目の前で魔法を使われると感動すらある。

クレアは補助だけではなく簡単な攻撃魔法も使えるらしく一緒に戦い始めたので俺ものんびり観戦しているわけにはいかない。


本当はもっといろいろ試してからにしたかったが、あの女神に与えられた能力で戦闘に参加する事にした。


少し戦ってみて分かったが、どうやら俺の身体能力は強化されすぎているようだ。

まず敵の攻撃がスローに感じる。

動体視力が尋常じゃないほど上がっているのだろう。

その動体視力に対応できるだけの反射神経、そして瞬発力。

驚くほど簡単に魔物を片付けていく。


調子に乗りすぎて一人で先行しすぎ、背後のクレアに魔物の一撃が迫っていたのに気付くのが遅れてしまい、慌てて彼女を突き飛ばし代わりに俺がその攻撃を背中に受けることになってしまった。


取り乱しながらもクレアが俺に回復魔法をかけてくれる。

正直まったく痛く無いし傷もすぐに修復されようとしていたので必要なかったのだが、それでも「ありがとう」と声をかけ、また魔物に向かっていく。


この身体の能力は大体把握できた。

じゃあ次は…武器だ。


俺の必要な時に亜空間から取り出せる聖剣ムラクモを俺の手の中に呼び出す。

本当に頭で考えるだけで現れた。


これは便利だと関心しながらも、聖剣なんてカテゴリの癖にムラクモなんて和風の名前だなと不思議に思う。

が、それも一瞬の事で、手に握られた剣を見ると…

「…刀じゃねぇかよ」


 聖剣っていうから西洋風の両刃剣を想像していたが、どう見ても日本刀スタイルだった。


まぁそんな事はどうでもいい。

大事なのは性能だ。


 その刀で切りかかる前に、重さや振り心地などを確かめようとその場で一度試し振りをしてみる。


が、どうだろう。


俺が軽く刀を一度振っただけですさまじい衝撃波が発生しそれが無数の刃のように周辺の魔物に襲い掛かった。


あまりの出来事に一瞬呆然としてしまったが、正気を取り戻した時には魔物は全て切り刻まれていた。


きちんとクレアとアリアを避けて魔物だけを狙い撃ちしている。

どういう原理だ…?

俺が敵と認識している物だけに攻撃が向かうって事なのかもしれない。


先程の攻撃を俺が繰り出したと気付いたクレア、アリアが目を丸くしてこちらを見ている。


そんなに見つめるなよ。照れるぜー。


「き、貴君が今の攻撃を!?…なんという強さか。是非今度ご指南頂きたい!」


 アリアは強さに強い憧れを持っているらしく、めちゃくちゃ食いついてきたが全て刀のおかげなんですとは言えず苦笑いで受け流すしかなかった。


しかし、兜を外したアリアの美貌たるや一瞬こちらが怯んでしまうほどだった。

長いブロンドの髪、鎧の上からでも分かるプロポーション。エメラルドグリーンの瞳。


クレアは可愛い。

アリアは、美しい。


…この世界は本当にさいっこうだぜ。



とにかく、こうして街は平穏を取り戻した。


…かのように見えた。


「ちょえいやぁーっ!」


 …どこかで変な声が聞こえる。


俺達が戦っていた場所から二つほど向こうの大通りでまだ戦闘が行われているようだった。


クレアが俺達に回復魔法をかけ、アリアは慌てて兜を被りなおし、三人で向こうの路地へ向かうと、今まで戦っていた魔物の五倍はあろうかというほどの大きさがある魔物と少女が戦っていた。


すぐに助けに入ろうかと思ったが…ついしばらく見蕩れてしまう。


その少女は、なんというか…俺の居た世界で言うところのチャイナドレスのような服装をしていて、動くたびに服がひらひらと危うい感じに揺れ動き、見ている事がハラハラする始末だったが、彼女もまたかなり強そうだ。


彼女は自分の両手にいかついナックル系の武器を装備していて、肉弾戦を軸に戦う武道家のようだ。


「ちょりえりゃぁぁーっ!」


 そして掛け声が特徴的である。


「ちょいそこの人たちーっ!はよ逃げー!こいつごっつ強いねん多分倒せんわ!時間稼いどくからはよどっかいけーっ!」


 こちらに向かって少女が叫ぶ。

彼女は魔物の攻撃を全てかわしてカウンターを入れ続けているが、確かに効果があまりなさそうである。

人々を逃がすための時間稼ぎをしてくれているのだった。


「某が助太刀いたす!」


 アリアが騎士の外見で武士のような発言をしつつチャイナ娘と魔物の間に滑り込み、彼女を守る壁となる。


「私も力になりますっ!」


 クレアがチャイナ娘に強化魔法をかけると、「うおーっ!なんやこれめっちゃ力湧いてくるわー!テンションあげあげやっちゅーねん!」とか言いながら魔物をぶん殴る。


どうでもいいけど俺が聞き取れるように言語が翻訳されているとして、この妙な喋り方はなんだ?

この世界でも出身地で訛りとかがあるのだろうか?


そんな事を考えていたらぶん殴られた特大魔物がこっちに向かって吹き飛んできた。


…これって俺潰れるんじゃね?


 ってぼけーっとしてる場合じゃない。なんとかしないと。


といっても俺に焦りはない。

かわすのは簡単だ。

おそらくこのまま蹴り飛ばしてほかの方向へ逸らす事も可能だろう。


でもそれじゃ面白くない。

ターゲットがいるうちにもっと試しておきたい事があったのだ。



俺も幾つか魔法の類を使えるようにしてもらったのだが、使い方を聞いていなかった。

だが、それに関しては心配はいらないようである。


聞いていないのに頭に使い方が浮かんできた。


よし、これにしよう。


亜空間から小さなナイフを数本取り出す。

魔法用の呪倶だ。


俺は少し後ろに飛び退き、魔物の落下予想地点にナイフを投げる。


地面に刺さったナイフから光が溢れ、地面に六芒星が描き出されると、そこから光の柱が立ち上り魔物を捕らえた。


空中で捕縛された形で身動きできなくなる魔物を少女達は不思議そうな目で見ている。


そこで俺の手が止まってしまう。

これからやろうとしていた事が、良く考えるとこんな所でやってしまうと面倒な感じになりかねない。


仕方ないので空中で固まっているそいつを一度思い切り蹴り飛ばす。


ぐぼっと変な声をあげながらはるか上空へと吹き飛んだそいつに向けて俺は頭に流れてくる呪文を唱え、掌を空に翳す。


そして思い切りその手を握りこむと、魔物が光り輝き空中で爆発を起こす。

七色の光を当たりに放射状に撒き散らしながら消滅する魔物は意外と綺麗だった。


なのでここぞとばかりに言っておくことにする。


「クレアさん、アリアさん。見てください…こんなに綺麗な花火ですよぉ」


 勿論彼女達には聞こえない程度の声で。

言っては見たもののこれは結構恥ずかしいのだ。



「にーちゃん今何したんだ!?あんためっちゃ強いな!うーおー!テンションあがるわー都会ってマジすげぇわー!」


 あ、やっぱり地方出身なのか。


「ババァに強い男捜してこいって言われてるんだ!あんたなら文句ないし、よっしゃにーちゃんあたいの旦那になってくれー!」


「なっ、き、君はいったい何を言い出すんだ!彼は…」


「あん?騎士のねーちゃんの男だったん?」


「い、いやそういう訳ではないのだが…」


「じゃーいーじゃんもーまんたいってやつだぜい。あたいシェイアってんだよろしくなにーちゃん!」


「問題有りますっ!彼は、その…今記憶喪失でっ、それが解決するまでは…そのっ…とにかくダメですっ!」


 少女三人が突如ハーレム展開的言い合いを始めた。


…俺この世界来てよかったわ。マジで。


 結果的にクレア、アリア、シェイアの三人は万が一俺の記憶が戻った時にもともと彼女や婚約者がいたらまずいだろうという事で、記憶が戻るまでどうするかは保留という事になった。


どっちにしてもこっちの最終目的はハーレムな訳だから全員できてくれてもオールオッケーなのだがな。


いや、焦ってはいけない。

こうやって俺は少しずつ自分の理想の人生を設計通りに遂行していかなければならない。


その第一歩は思ったよりもスムーズに踏み出せた。

俺の新しい人生は素敵な夢で満ち溢れている。


ああ、素晴らしき異世界よ。


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