『未練』そのいち
「居ないだと?」
聞かれたサクラは頷いた。先程、焼香を上げる際に魂と肉体を離させる言葉をかけたのだが、中身は既にもぬけの殻だった。
「でも、こういった事態は全くのレアケースってわけじゃない」
「だが、度々あるわけでもないだろう。少なくとも俺は初めてだ」
「そりゃ、私の方が先輩だもの」
そんなサクラの後輩に当たる男、ハギは、高校生な出で立ちのサクラに対してワイシャツにスラックス、社会人三年はとうに過ぎたような風貌である。しかし、この二人が身を置く社会は人間とは違う。「天使」とう社会の一員なのだ。女子高生の方がサラリーマンよりキャリアが上でも何らおかしいことはない。
「天使」にも様々な役職がある。花形といえば「守護天使」。上質の魂を持つ人間の傍でその魂が汚れることがないよう導くのが役目。ハードだが給料は良いし人間による認知度も高い。常に有り難がられるのもポイントである。
エリートと言われているのが「大天使」。八百万の神に仕える事は天使の誉れである。しかし、使える神々に合わせた難易度の高い試験に合格せねばならないので、成りたいから成れるという訳ではない。
守護天使が俗に「ダニエル」と呼ばれているのだとしたら、サクラとハギの二人は「サリエル」と呼ばれる事になる。大天使の中のひとつであるが、使える神が死神なだけに仕事内容は死者の魂を狩るというもの。恐ろしさしかない。むしろ悪魔なんじゃないか、なんて言われる始末。これは天使にとっては不名誉極まりない。故に「なりたくない職業」殿堂入りを果たしてしまった。
そんな訳で二人は天使で在りながら、今日も魂を回収しに葬儀場に現れたのだが・・・。
肉体に無いとすると、探さなければならない。人の身体を離れた魂は曖昧で、鉛より重ければタンポポの綿毛より軽かったりする。
「今回は亡くなってからまだ日が浅いから探しやすいはずよ。問題はどうして身体からはなれてしまったのか、って事だけど・・・」