序章
死者の魂は基本、葬儀までは遺体の近くに在ります。参列者の様子をよくご覧になってみてください。その中に見た覚えのない人がいませんか?もし居たとしたら、死者の魂をあの世へと迎えに来たのです。恐れず、故人が旅立ってゆくのを見送りましょう。あの者は死神なのかって?いいえ、天使です。
序章
葬儀はつつがなく進み、参列者は故人を悼みながら焼香を上げる。教師をしていた父には、高校生から子連れのサラリーマン、生前の父と同じくらいの白髪とシワのある男性など、年齢層の広い参列者が最期の言葉をかけに来てくれた。「良かったわね、お父さん」と心の中で声をかける。
ふと、一人の少女に目が行った。この辺りの学校のではないセーラー服。どこかへ引っ越して、葬儀のためにここまで来てくれたのだろうか。
すると、少女は父の耳元に口を近づけ、囁くようにこう言った。
「魂は月に帰らなければならない」
気が付くと、男は大勢に囲まれて横になっていた。そうして思い出す、自分が病気で死んだことを。
「この度はご愁傷様です」
目の前にセーラー服を着た高校生くらいの女の子が居た。自分の受け持った生徒・・・・ではない。起き上がって周りを見るが、目の前の女の子以外はみんな微動だにしない。時が止まったかのようだ。
「検査したところ、あなたの魂はとても綺麗でした。自分か亡くなったこともきちんと理解しているようですし、このままあなたを月へ帰したいと思います」
女の子は穏やかな表情でそう言いきった。死んだことを理解している男は、この女の子についても察することが出来た。
「随分と可愛らしい死神に迎えに来てもらえたもんだ」
首を横に振った。
「いいえ、天使です」
そう言うと、「さあ、立って」と促した。男が立っている間に天使が胸ポケットから取り出したのは鍵。するとどこからともなく鍵穴が現れた。
「魂は月に保管され、肉体が滅びると月に帰っていく。あなたの魂が次の命に巡るまで・・・」
鍵がひらき、向こう側が見える。
「最期に何か言うことはありますか?」
男は後ろを向いた。自分のために来てくれてありがとう。そして、愛しい娘よ。
「幸せになるんだぞ」
男は前を向くと、確かな足取りで進んでいった。
気が付くと、少女が自分に会釈をしていた。慌てて会釈を返すと、少女は穏やかに微笑んで去っていった。
父に目を向けると、何故か急に怖いと感じるようになった。
もう一度振り向いたが、少女の姿はもう何処にも無かった。