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小さな奇跡

作者: 佐倉志依

街の喧騒から離れたある森の中に一つの古びた小屋がありました。昔は誰か住んでいたのかもしれませんが、今では山で遭難した人々の避難所となっています。

遭難し疲労した人々の心を癒すのが暖炉とその向かいにある薄汚れたソファです。どれだけ多くの人がこのソファで一晩を明かし救われたことでしょう。ソファにとってそれは誇りでした。しかし、長い年月の中では救われない人々もあらわれます。吹雪が一週間ぐらい続き外に出られず暖炉に燃やせるものがひとつもなくなるのです。その人たちは決まってソファの上でうずくまり、凍えながらなくなるのでした。

僕はなんて無力なんだろう。。


ある日、うららかな風がふく春のことです。季節外れの訪問者があらわれました。

「こんなところに小屋があるよ!」

「ほんとだ!!暖炉にソファまである!」「いいねー!ここを秘密基地にしようぜ!」

それはこの場所には似つかない三人の子供達。彼らはこの日以降毎日この小屋に訪れ遊び、日暮れとともに帰って行きました。ソファ以外何もなかったこの部屋にはたくさんのものが増えて行き、古びたソファも新しい布できれいに覆われすっかり明るい空間となりました。

こんな日がいつまでも続けばいいのに…


その願いもむなしく季節は厳しい冬へと変わっていきます。あたりはすっかり真っ白になり、子供達も訪れなくなりました。

また、あの日々がやってくるのか…

ソファの予想通り訪問者の音が聞こえます。

ザク、ザク、ギー

その訪問者にソファは目を疑いました。

春に訪れた子供達の一人じゃありませんか。

「やっぱりここにあった。」

彼はそう言って夏の間一生懸命作っていた手編みのマフラーの袋を拾いました。

「母さんの誕生日に間に合うかな〜。」


しかし、彼が小屋にたどり着いてからというもの吹雪は増すばかり。

ついには置いておいたまきも少しの食べ物もそこをついてしまいました。

彼はソファの上でうずくまります。

「これが、最後のまきだ…せめてこのマフラーを母さんに渡したかったな。」

ソファは悲しみました。

僕は僕はこんなにそばにいるのに彼を救うことができないのか?

僕にわずかな幸せをくれたこの子を!

あー神様もしいるなら私の骨格をまきにしてワタを毛布にして彼を温めてください!



その願い聞きましょう!



翌日、吹雪がやんだ雪小屋に彼の両親が訪れました。そこには、ふかふかのワタで包まれた彼らの子供と半分に折れたソファがありました。

子供はスースーと幸せそうに規則正しい寝息をたてています。

よかった!無事だったんだ!


その日からまた、子供達が寄り付かなくなった小屋ではひっそりと半欠けのソファが佇んでいます。昔と変わらず、冬の避難所となっている小屋にはたくさんの遭難者があらわれます。しかし、あの時の奇跡は決して起こらず、ただただみることしかできない日々を過ごしていました。

こんな体になってもまだこの苦しみからは解放されないんだね…


それから数十年という月日が経ちました。半欠けのソファは修理されることもなくほこりを被りながらもひっそりと佇んでいます。

うららかな春の風が小屋に入ってくる季節となり、いつの日かと同じように季節外れの訪問者があらわれました。

あー僕は幻想を見るまでになってしまったのか…

サッサッギー

「やっと見つけた…」

そこには中年の男性が立っていました。

「ずっと探していたんだよ!あの時、僕を助けてくれたのは君だったんだよね?」

なんとその男性はあの時助けた男の子だったのです。

彼は泣きながら、ソファに向かって今までの話をしました。両親に助けられた彼はあまりのショックでこの小屋の記憶を無くしていたこと。でも、どこかでソファに助けられた気がしてずっと探していたこと。今は家族ができて、妻とちいさな子供2人の4人家族で住んでいること…

そして彼は最後にある提案をしました。

「僕の家に来ないか??君の半分は僕が修理するよ!」

それから半欠けのソファは修理され彼の家のリビングに置かれることになりました。そして、修理の時に出た切れ端でちいさな椅子ができました。そう、彼にも子供ができたのです。その後、そのソファは子どもの椅子とともに彼の家族に代々受け継がれ、暖かな家族とともに末永く暮らしましたとさ。

読んでくださりありがとうございます。

ソファの物語を書いてみました。

もっと明るい話が書きたい。。

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― 新着の感想 ―
[一言] 涙もろい人にとってはハンカチが必要なレベルですね。
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