発現せし強欲5
俺は両親が死んだ時に孤独になることを恐れた。周りを更地にする力を持つ俺が普通の人と歩めるはずもないと悟ったからだ。暴喰はそれだけ強力な力であったし、誰にも負けないほどの力を持っていた。
元々、俺はさほど友達が多い方では無かったが普通の高校生だった。成績も中の中、特別何かに秀でることも無かったし、普通に両親に愛されているだけの一般人だった。
それがユニークスキルという超常の力を手に入れた事により一変した。幸い、俺と同じく力を持ったスキル持ちがいた事とスキル持ち位にしか魔物を倒せなかった事により拒絶されることはなかった。
それでも強欲なまでに俺は孤独になりたくなかった。楓を助けたのも拠点に連れ帰ったのもそのためだけにしたことだ。孤独を何より恐れた俺は誰かといることでそれを紛らわせようとした。浅はかな欲に取り付かれた哀れな人間。それが俺の正体の一つであった。
目覚めた俺は己のやったことは正しい事だと知りつつも、それを利用して心の安寧を計っていた事に笑ってしまう。
「どうしたんですか?」
「いや、つくづく俺って嫌になるなぁって思ってな」
「そうなんですか。先輩は思い詰め過ぎだと私は思うんですけど」
「孤独を恐れてお前を助けたのにか?」
「はい。結果的に私は救われました。そこにどんな理由があろうと意味はありませんよね。私が救われたという結果がそれを示しています」
「……そうか。ありがとう。ちょっとだけ気持ちが楽になった」
「ええ。いつでも相談してくださいね。私がずっと側にいてあげますから」
「それは有り難いな。もう独りじゃなくなるから」
恐れていた物はもう無い。俺は自身が最も欲していたものを手に入れた。ならば、次はそれを守るための力を手に入れよう。俺は新たなるユニークスキルの強欲を手に入れた事によりまた変わった力を得る機会を得たことに笑みを浮かべる。
「さて、まずはこいつの目で試してみよう」
「何をするんですか?」
「新しいユニークスキルを試すのさ」
強欲は奪った全てを俺自身に還元する。魔力ならば最大容量が、スキルならば新たな形のスキルが、魔物から奪った力ならば、身体能力やスキルという形でありとあらゆる物を奪い、自身の物とする。まさに強欲の名に相応しいユニークスキルであった。
キングから目玉を二つともくり抜いた俺は強欲を発動させた。キングの目玉が俺の体に吸収されるように消えていく。しばらくすると見えなくなっていた左目が疼き始める。何となく気になって魔力を集中してみると瞬く間にその疼きは無くなった。代わりに俺の左目は視力を取り戻して眼球も元に戻っていた。
「先輩、左目が」
「治癒の魔眼か。またユニークスキルだな」
「万癒の魔眼とどう違うんでしょう?」
「傷を治す程度だな。致命傷レベルでも魔力さえあれば治せそうだけど」
「それはまた凄いものを手に入れましたね」
「あんまり使いたくはない奴だけどな。機会は少ない方がいい」
「それもそうですね」
強欲はかなり使えるスキルだ。これがあれば俺はスキルをいくつも増やしていくことが可能だろう。これで更に強くなれる。強欲な俺にとってもってこいのスキルと言える。
それから楓がキングの魔結晶を取り出した後、俺がその死体を喰らっておく他の死体は放置でもいいだろう。それほど魔力が残っている訳でもないし、今は帰ってすぐに休みたい。
「帰るか」
「はい。これで依頼達成ですね」
「そうだな。しばらくは魔石は持つだろうしな。後は千代さんの手伝いか」
「魔力を打ち消す魔物ですか。そうなると物理攻撃主体で攻撃しないといけない訳ですけど、今の私達では手に負えそうにありませんね」
「まぁな。そのうち対抗策は見つかるだろう。それまでは千代さんと一緒に行動することになるだろうな」
どんな魔物かは知らないが俺の糧になってもらう。この文明が崩壊した世界で生き残るには勝つしか方法は残されていない。この状況を作り出したであろうと奴と対面するまでは絶対に生き延びてみせる。俺はそう改めて決意するのであった。
▽▽▽
「所で先輩。あの時この状況を作り出した人がいるみたいな事を言ってましたけど、本当にいるんですか?」
「ああ、いる。俺は会ったことがあるからな」
俺の家から歩いてしばらく、楓の問いにそう返した俺は楓にその時の状況について説明する。
「奴が現れたのは突然だった。奴が初めに生み出したのがレッドアイだ。それに襲われて俺は死にかけた。奴は俺を見て笑ってどこかへ行ってしまったんだよ」
「その人が元凶なんですね」
「きっとな。どこにいるのかは知らないがいずれ引きずりおろしてやるよ。まぁそれはついでだ。俺は普通に暮らしていければ何でもいい。邪魔なら殺すだけだ」
「発想が物騒ですよ先輩。もう少し穏やかにいきましょうよ」
「ぶっ殺して差し上げます、の方が良かったか?」
「いえ、そういう問題ではありません。結局それじゃあ変わっていませんよね?」
「バレた? まぁなるべく平穏にいくさ。相手が平穏にくるならな」
「全く反省してませんよね、先輩」
溜め息を吐く楓はしょうがないなぁという雰囲気を滲ませている。
「ともかく、早く戻りましょうよ」
「ああ、そうだな。一旦、湧水の湯船に帰ろうか」
湧水の湯船に戻るまではそれほど時間は掛からない。身体強化を使って本気を出せば、一時間も掛からずに帰ることができる。まぁそこまでして帰る気もない。日が暮れるまではまだ時間はある。ゆっくり魔物でも狩りながら帰ってもいいだろう。
数時間後、日が暮れるぎりぎりの時間に帰ってきた俺達はそのまま斎藤の所まで行くことになった。案内役が待機していたようでそれに着いていく事になったのだ。斎藤の所までいけば、千代さんもいて真理奈という女性もいた。
「やぁ帰ってきたのかい。おや、その眼はどうしたんだい? もしかして見えるようになったとか?」
「ご明察。まぁ色々あってな」
「ふーむ。非常に興味深いが聞くのはやめておこう」
「何だよ。随分と早く引くな」
「私だって空気くらいは読むさ。さて、レッドアイの眼は手に入れてくれたのかな?」
「ああ、これだ」
そう言って二十九もあるレッドアイの眼を渡すと斎藤は驚きを露わにした。千代さんもその数には驚いており、流石の俺もやりすぎたかと思ってしまう。
「流石、玄人くんだ。仕事が早いし、予想以上だよ」
「凄いわね。レッドアイは接触禁忌種に指定されるくらいなのに。会ったら逃げろと言われるくらいなんだから」
「そんな奴の所へお前は俺を行かせたのか、斎藤」
「いやぁ、どうしても欲しくてね。君の眼に付いているのと同じ効果があると良いけど」
「チッ、お前の覗き見趣味は相変わらずだな」
「僕が発現したスキルがこれなんだ。文句なら偶然やら運命やらに言って欲しいね」
斎藤のスキルは見通す眼というスキルだ。人のスキルを見通すことができるその眼はこの世界では有利に働く要素の一つとなる。効果までは判定できないのは救いだろう。澄まし顔をする斎藤を殴りたくなったがぐっと我慢する。
「ともかく、ありがとうと言っておくよ。これで妻が助かるといいんだが」
「なんだ、嫁さんなんかいたのかよ」
「ああ。コミュニティーとしはああいう方針は取っているけど、私は妻一筋なんだよ。妻の病を治すためなら何でもするさ」
斎藤の表情には危うさが現れていた。この調子なら犯罪すら平気で犯すことだろう。俺も力になってやることも吝かでは無いのだがただで力を貸すのは癪だな。せめて何か対価を分捕ってやらないと気が済まない。
「なら、俺が助けてやってもいいぞ?」
「君が? 無理だよ。妻の病はこの世界になる前からの病なんだ。結核という病気くらい知っているだろ?」
「知っているけど」
「こんなご時世だ。医者なんて役に立たない。もちろん、医療系のスキル持ちにも調べさせたけど治せなかったよ。君の暴喰は強力だけど、妻を喰らってしまう危険もあるかもしれないし、第一喰らったものが君に全て移ってしまうようじゃ本末転倒だよ。それじゃあ妻が悲しむだけだ」
「強欲ならいけると思うぞ。この力は奪ったものを俺に還元する力だ。細菌もいい方向に変化するかもしれない」
「……そこまで言うならやってみるといい。暴喰で無いなら許そう」
斎藤は儚げにそう言って背を向けた。妻を助けるためなら何でもやるというのは嘘ではなかったようだ。この男はきっと必死に今日まで生きてきたのだろう。妻のためだけに生きるのは並大抵のことではできない。この世界は人のために生きて生き残れるほど甘くはない。それができるのは力ある者のみだ。
俺ができることはやろうと思う。斎藤自体はいけ好かない奴だがそれでもその奥さんにまで嫌っているわけではないのだから。
「先輩、良かったんですか? 別に先輩がやる必要もないと思うんですけど」
「いいんだよ。精々魔石をふんだくってやるさ」
「あなたも物好きね。このご時世に人助けなんて」
「俺に余裕があるからやるだけですよ。それに俺がやる必要があることみたいですから」
二人は首を傾げて疑問を浮かべている。分からなくとも無理はない。これからやるのは広範囲に伝を持つコミュニティーの長を仲間に引き入れる最大のチャンスなのだ。これから俺が探そうとしている何者かを見つけるにはこのコミュニティーの援助は欠かせない。未来へと布石の為にもここはしっかりとその人の命、拾い上げさせてもらうとしようか。