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発現せし強欲3

 レッドアイ。それは赤い眼を持つ四足型の獣。ベヒーモスという空想上の怪物を現実に現したかのような姿をしている。最もその姿も様々な姿で描かれている為にどれが本物なのかすら判断もつかないが。

 レッドアイは一般的にベヒーモス種という括りで知られている。スキル持ちの中でも強く警戒され、一度見つかれば死ぬしかないと言われるほど強力な魔物だ。余談だがベヒーモス種は他にワンアイと通常種と思われるブラックアイが確認されている。

 湧水の湯船を出た俺と楓はそのまま二人が出会った場所の近くまで来ていた。


「久し振りですね。ここも変わりません」

「ああ、そうだな」


 その場所には一つの壊れた家以外は何も残っていない更地であった。まるでその家だけが意図的に残されたその場所に俺は顔を歪めた。

 俺が両親を失った場所であり、レッドアイを発現した暴喰グラトニーで初めて喰らい殺した場所でもあった。それから動き始めた俺は近くで郷田に襲われている楓を助けて今に至る。

 たった一週間。されど、それだけの時が経ったのにここには一欠片の魔力すら感じ取られない。初めて発現させた暴喰グラトニーを暴走させた結果、ここでは暴喰グラトニーの影響が残り魔力がなくなってしまうというイレギュラー空間ができあがったのだ。ここで魔力を使えるのは俺だけだ。それ以外は魔物であれ、精霊であれ、魔力を使うことはできない。


「さて、レッドアイを探すか。あれはここを目の敵にしている伏があるからな。俺が現れたと知ったら群がって来るだろう。」

「共鳴の魔眼に万癒の魔眼ですか」

「ああ。共鳴の魔眼は同種に自らの経験を共有する一度きりの魔眼だ。対して万癒の魔眼はあらゆる傷や病を治すと言われている。実際、毒もすぐに治ったと聞いたことがある」

「それなら何百と来るかもしれませんね。どうするんですか?」

「いや、それはないだろう。精々が三十匹程度だ」

「どうしてそう思うんですか?」

「あいつらにそんな繁殖力は無いからだよ。ベヒーモスの亜種がレッドアイなんだ。原種ならともかく亜種が繁殖で一気に増えることはないさ」


 一歩踏み出す。暴喰空間グラトニー・スペースとも言うべきその空間に入り込んだ瞬間、俺の周囲にあった魔力は消え失せる。そして、俺と直接繋がったような感覚を覚えたかと思うと次の瞬間には俺の魔力が一気に跳ね上がった。怒涛の魔力の奔流に意識が飛びそうなるのを耐えながら俺は歩みを止めずに家へと歩いていく。


「先輩、大丈夫ですか? 急激に魔力が高まってますけど」

暴喰グラトニーの効果が常時着発動されている空間だからな。世界にある魔力を喰らって俺に還元してるのさ。微量とはいえ、世界にある分の微量だ。普通は耐えられないはずなんだがな」

「それって私もヤバくないですか?」

「大丈夫だよ。敵味方の区別は付けられる。俺が守りたいと思った物には例え俺の制御が離れたとしても手を出さないようになってるからな。そもそも俺がこの力を発現したのは守りたい物を守れるために強くなりたいと思ったからだからな」


 家に近付くにつれ、俺の最大魔力保有量は増えていく。しかし、ある一定ラインを越えるとぷつりと切れて元に戻ってしまった。それからはほんの少しずつ魔力が増えるだけになった。どうやら今まで溜め込んでいたものが俺の元に集まっただけらしい。お陰様でかなりの回数、暴喰グラトニーを使っても問題なく戦えるようになった。


「あ、収まりましたね。大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。それより家に入ろう。父さんと母さんの墓があるからさ。お前も挨拶していってくれよ」

「……はい」


 顔を赤くする楓に疑問を持った俺だったが家の中に入る頃にはすっかり忘れてしまっていた。家の中は当時のまま、残っている。ここは俺の認識次第で誰もが死んでしまう空間だ。誰も俺の家を荒らす存在はいない。

 半壊の家を見た後、俺はすぐ側にある墓へと目を向けた。俺が作ったちっぽけな石だけで組み上げたお墓はちゃんと二つ並んで残っていた。洒落た様子すらない無骨な墓に俺は苦笑してしまった。


「父さん、母さん。ただいま。俺は元気にやってるよ。ちょっと大変だけど、なかなか悪くない世界なんだぜ」

「…………………」

「後悔もあるけどさ。今は楓がいるし、俺にもやりたいこと、できたからさ。強くなっていつか魔物を出現させた現況を倒そうと思うんだ。だから、見ててくれよな」


 黙祷を捧げる。その間、楓は一言も発することは無かった。その代わりに俺の手を握ってきた。その温もりは今だけは有り難かった。孤独でない証がこんなにも近くにあったことを理解させられたのだから。


「ありがとな、楓」

「先輩のお役に立てたなら良かったです。そろそろ行きますか? レッドアイらしき魔物はもう周辺にいますけど」

「ああ。行ってくるよ。お前はここで待っててくれ」

「分かりました。気を付けてくださいね」


 楓の言葉に頷いた俺は両親の墓に背を向けてレッドアイがいる方向へと歩き始めた。奴らの魔力だけは分かる。因縁の相手。永遠に俺が狩り続けるべき対象。色んな思い出が思い浮かぶ中、俺は涙を拭ってレッドアイのいる方角を睨み付けた。


▽▽▽


 レッドアイを狩りに出掛ける先輩の背中を見ながら私は後ろから聞こえてくる声に耳を傾けていた。


「行ったか。玄人も大人になったな」

「そうねあなた。でも、子供ってそういうものでしょ?」

「ああ、そうかもしれないな。さて」


 そう言った男性の声に合わせて私は振り返った。そこには先輩によく似た姿の二人の男女がいた。言うまでもなく先輩のご両親なのだろう。私は少しだけ緊張して喉の奥を鳴らした。


「ふふ、緊張しなくてもいいわよ。私達もどうしてあなたにしか見えないのか分からないもの」

「楓くん、だったかな。いつも玄人がお世話になっているようだね」

「いえ。こちらの方がお世話になっています。先輩がいなければ私はきっと酷い目にあっていましたから」

「そうか。あいつは好きに生きているのだな」


 しみじみといった風に先輩のお父さんはそう言った。

 先輩は心に正義を持つ普通の人だ。合理的に生きてはいるが困っている人は見逃せない人でもある。もちろん、義理がなければ動いたりはしなかったりもあるが基本的には良い人ではある。

 私が先輩と一緒にいるのはそんな先輩を見ているのがいつの間にか気に入っていたからだ。いや、はっきり言おう。好きになってしまったからだ。先輩の事を考えていたのがバレたのか先輩のお母さんが笑う。


「あの子もこんな女の子を引っ掛けて隅に置けないわね」

「こら、楓くんが困ってしまうだろう。それよりもあまり時間はないんだ。本題に入ろう」

「ええ。楓ちゃん、あなたに私達が作り出したスキルを託すわ」

「スキル、ですか」

「ええ。使い魔を作り出すスキルよ」


 そしてどうしてそれを作り出したのかを説明してくれた。死後、精霊のような存在になった二人はいつか帰ってくる先輩の為にと用意していたそうだ。自分達の存在を削りだしてまで。そうすることでしかスキルは作り出せなかったと言う。それはまさしく禁断の果実と同じ意味を持つ。ある意味、先輩の両親に等しいスキルであった。


「これを使って玄人を助けてあげてくれ。あいつはきっと無茶をするだろうからな。まぁ何事も難なくこなすのだろうが」

「あなたもそうだったものね。あなたに似て何でもできるの。この人もだけど、あの子もそのせいで孤独なってしまうでしょう。だから、あなたが支えてあげて」

「俺達はもうすぐ消えてしまうだろう。だから君に託す。私達は君が玄人のお嫁さんになってくれるなら歓迎するよ」

「え、えと、あの」


 突然そんな事を言われて慌てふためく。両親に公認してもらったのだ。嬉しいことは嬉しいが慌てるのも仕方ない。こんなに幸せな気持ちになれてしまうことに戸惑っていたから。


「あなたにも準備は必要そうね。でも、いつかはお願いね。ついでに私達のスキルもあげるわ。うまく使ってね」

「この空間も私達がいなくなればなくなるだろう。すぐに玄人の元へと向かうと良い」

「は、はい。えと、ありがとうございます」

「どういたしまして。今、渡すわね」


 そう言って先輩のお母さんは私に触れてきた。何かが私の中に入って来るのを感じ取り、私はそのスキルの使い方を理解する。その全てがユニークスキルであった。使い魔生成ファミリア親愛之真心ディア・トゥルーハート四魔融合エレメンタル・ヒュージョン。この三つが全て私の力になったのが理解できた。同時に私の持つ魔力察知が魔力探知に変わるのも分かる。


「あの子の事、願いね」

「はい」

「伝えてくれ。俺達はいつまでも見守っているとな」

「任せてください」


 二人に背を向けて走り出す。二人の気配が消えていくのが感じ取れるのが歯痒い。悲しくもあり、そして託されたことに誇りを覚える。私も先輩と共に戦える。その事を思うと嬉しくもある。それだけの力を二人にはもらったのだ。恩返しをしないといけない。


「待っててください、先輩。私も手伝いに行きますから」


 強すぎる人は誰からも疎まれ、孤立することになる。けれど、私はそんな人達にはならない。ずっと先輩と一緒に生きていくと救われた時に決めたのだから。覚悟を持って私は走る。後ろから感じ取る気配が消えるのと同時に先輩の力が無くなるのを感じながら。

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