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弱肉強食の世界3

「先輩、あれで良かったんですか?」


 俺は寝転びながら繕いでいると楓がそんな事を聞いてきた。あれ、とは郷田の処置とコミュニティーのことだろう。あの後、郷田を郷田のコミュニティーに放り込んで謝罪させた。それはもう滑稽なことになり、郷田は散々っぱら殴られ蹴られ放題された後、意識混濁に陥っていた。暴喰グラトニーで魔力を予め喰らっていたのでスキルを使うことはできないでいた郷田は抵抗すらできずに悔しそうにしていた。


「コミュニティーの事か?」

「ええ。女性達に頼まれて守って欲しいって言われてましたよね。どうして断ったんですか? 食料なら余るほど手に入るようになりましたよね?」


 確かにサウザント・センチピードはデカいので一匹でも持って帰ればコミュニティーの一つや二つは余裕で養える。それだけの余裕があるにも関わらず、俺が断ったのには理由がある。まぁ単に面倒だというのもあるが今後の目標のことを考えて断ったというのが大きい。まぁそれはまだ言わないでおこう。いずれ口にはするが今言うほどのことでもない。スキル持ちを狩るなど正気ではないと思われても仕方ないのだから。


「俺は一生、あいつらの面倒を見るつもりはないよ。お前だけなら文句はないがそれ以上はごめんだ」

「私は別にいいのですが彼女達は死ぬか、別のコミュニティーに移るしかないですよね? 郷田もスキルがなくなったみたいですし。というより、先輩が奪ったようですが」

「まぁな。そうするしかないように追い込んでやったんだよ。自分で選択できなきゃ、この先きっと人任せに生きていくことしかできなくなるだろうしな。郷田のは自業自得だろ。俺も試しにやってみてできただけだしな。さすが暴喰グラトニーだよな。チートだよ、チート」


 暴喰グラトニー全て(・・)を喰らうユニークスキルだ。それを思えばスキルであろうと魂であろうと喰らうことができてもおかしくはなかったのだ。暴喰グラトニーで自身の物になったスキルは自在に操れる。今や完全に千剣万化も千里眼も俺のスキルになっていた。

 これらのスキルを使えば更に戦闘の幅は増えるだろうし、魔力の節約になり、戦闘時間も増える。一度だけ暴喰グラトニーを使える程度魔力を残しておけば戦闘後に纏めて喰らえばいい。

 話を戻すが女性達がどんな選択をしようと俺には関係のない事だ。俺は俺のやりたいように生きる。両親に好きに生きろと言われ、生き延びた俺にできるのは好きに生きて、ひたすら生き残るだけだ。


「俺は最後まで生き残る。ただそれだけだ」


 そう言って俺は目を瞑った。他の人に関わっていけるほどの余裕は俺にはない。否が応でも関わらなければならないならば、致し方なしと諦めるがそうでないのであればできるだけ関わらないでいこうという方針でいるつもりだ。余力は常にあるに越したことはない。いつ、キャパシティがパンクするのか分からないのだから。


「先輩は……いえ、何でもないです。お休みなさい」

「……………………」


 何かを言い掛けた楓であったが何も言うことなく、横になる気配だけを感じ取った。何となく楓が言いたかった事を察しながらもあえて何も言うことはなかった。それは俺にもまだ曖昧にしか言葉にできなかったものであったから。それから俺は数分もしないうちに眠りにつく事になった。


▽▽▽


 翌日の空は蒼天が広がっていた。要するに晴れだ。そんな中、俺は拠点から出て軽く準備体操をした後、スキルを使いこなす練習をする事にした。千里眼はともかく、千剣万化はかなり精密に操らないと狙った場所へ当てられそうにないと判明したからだ。体の大きな魔物ならば問題はないが体が小さくなっただけでまともに当てられなくなるなどとなれば実戦で使うには致命的だ。それを回避するための訓練を今からする。

 何か特別なことをするわけではない。スキルを使い続けてみるだけだ。何事も数をこなせば上手くなるというものだ。俺は早速、千剣万化を使用してみる。すると俺の思い描いた剣が宙に現れる。それは次々に数を増やし、三十を超えた辺りで急に負荷が増えた。どうやらこれが今の限界らしい。


「ふぅ……よし、いけ」


 静かに宣言。列を成して動き出す刀剣達。螺旋を描いて動く刀剣は次の瞬間には地面へと突き刺さっていく。全て刺さり終えると更にそこからランダムに刀剣を抜いては空中で乱舞させる。剣の振り方など殺陣の演舞位でしか見たことがない。それを参考に見様見真似で乱舞させていく。その数を徐々に増やし、最終的には三十の刀剣が乱舞する空間が出来上がる。乱舞する刀剣を一つずつ止めて地面に突き刺す。やがて最後の一本になると俺はそのまま全ての刀剣を消した。

 千剣万化の使用感としてはそこそこ手応えを感じ取った。軽く使っただけだが数本程度なら今の俺でも使いこなせそうだ。その数本もあれば、充分に戦闘をこなせる。よほど堅い敵でも出ない限り、倒せない魔物はいないはずだ。

 千剣万化は魔力消費が作る際にのみ発生するということと操る際も魔力を消費しないという魔力消費の少なさが扱いやすい理由の一つに上がる。暴喰グラトニーは魔力消費が激しいのでこれ一つしか使えなかった俺は必然的に戦闘の持続時間が極端に低くなる。千剣万化というスキル一つを得るだけでも戦闘の持続時間がかなり長くなった。更に低燃費なスキルなので集中力さえ切らさなければ、魔力がなくなるまで戦闘は続けられる。

 スキルで生成した刀剣達は魔力による修復が可能であり、失ってしまったなら新たに作り直すことも可能である。俺の力量さえ上がれば三十から上の数も生成できるようになるだろうから文字通りの千剣までいけるようになるかもしれない。

 しかし、こんな良スキルにも欠点はある。それは剣以外の武器を生成できないことだ。例えば、槌や槍などは生成できない。短剣やレイピア、刀やロングソードならタイプが違うだけで生成可能だが槍や薙刀などになると無理らしいのだ。何とも融通の効かないスキルばかりで少しだけそこは不満に思えてしまうが性能面を見るとどのスキルもそれほど気にならないものとなっている。

 そんなスキルを考察していると後ろから楓がやってきて声を掛けてきた。


「先輩、今日はあそこに行くんですよね?」

「ん? ああ、そうだな。あそこは唯一の風呂を共有してくれるコミュニティーだからな。といっても、あそこにしか風呂は無いんだがな」

「先輩もよくあんな場所を見つけましたよね。あれだけの水を沸かす力があるなんて強いコミュニティーの証ですし。私もそんな所へ行けたら安心できたのですが」

「そうでもないだろ。最終的には子供を無理やり産まされる羽目になるさ。このご時世だ。スキル持ちを増やさないと絶滅の危機だからな。だからこそ、あそこは混浴なんだから」

「それはそうかもしれませんね。先輩の所に来て正解だったのかも」


 コミュニティー名、湧水の湯船。ここのコミュニティーでは風呂場を提供している。どのコミュニティーが使ってもいい共有の風呂場だ。大きな銭湯並に広く、大人数が使えることで有名であり、魔法とスキルにより成立している風呂場でもある。

 ここの風呂場で問題があるのは提供はしているが混浴だ、ということだ。これは風呂場を貸し与えるのにおいての唯一のルールであり、子供を産み育てることによりスキル持ちを増やそうとする湧水の湯船の指針でもあるからだ。

 強引に犯されるような事はないがここでは当たり前のように女性なら口説かれるし、男なら子作りしないかと誘われる。まぁそう言うのも湧水の湯船の人員だけでよそのコミュニティーから来た人はそんな事はしない。むしろ、しつこい勧誘をどうやって断り、風呂を出るかと言うことを終始考えているほどだ。

 と、いうのも男がここで子作りをして子供ができてしまったら湧水の湯船に加入することになってしまうからだ。それは元のコミュニティーを出ることになり、元々あった地位を捨てることになる。更に元のコミュニティーで結婚していようが恋人がいようが湧水の湯船に強制加入する事になるのだから堪ったものではない。逆もまた然り、なのだ。

 実際にそうなった例があってから殊更警戒が強くなって湧水の湯船の人員は困っていると聞いたことがある。このコミュニティーから睨まれるということは他のコミュニティーにも睨まれる事に等しい事になるので逃げることもできない。そうなれば生きていけないからだ。それを恐れてここには来ずに近くの川で水洗いで済ませる者も多い。魔物に襲われるリスクがあるのであまりおすすめしない方法ではある。


「で、前回は何とか切り抜けたけどさ。どうするんだ? 実際問題、恋人とか夫婦なら何も問題無いんだが嘘はバレるし、誤魔化しようもないんだよなぁ」

「私に言われても困りますよ。ただでさえ、恥ずかしい混浴なのに考えたくもありませんね。まぁ水着着用OKなのが救いですか」

「それだけが憂鬱だよ。俺もあそこだけは手放せないからな。今の所、あそこだけが魔石を生成できるからな」

「魔石、ですか。そう言えば魔石って何なんですか? 燃料になるのは分かっていますけど、汎用性が高くありませんか? ガスコンロにも使えますし、電気にも使えますよね?」

「ああ、魔石か。魔石は魔力が込められた石だ。純粋な奴になると魔結晶、魔力が結晶体になった奴だ。ガスコンロや電気に使えるのはそういう属性があるからだよ」

「例えば、火とか雷ってことですか? RPGみたいですね」

「そう言うこと。火、水、風、土。この四つが今は発見されている魔力の属性だ。これらは魔法にも同じ様に言える」

「そうなんですか。あ、先輩、魔物の体内には魔石はないんですか? 魔物と言われるほどですから魔物ならあると思うんですけど」

「当然あるさ。むしら、奴らの心臓部が魔結晶なんだよ。但し、無属性。つまりは属性がないんだ。だからガスコンロにも電気にもそのままでは使えない」

「それを加工して作ってるのが湧水の湯船ってことなんですか?」

「そう言うこと。魔結晶はめったに作らないみたいだけどな。あいつらはライフラインを現代レベルに留めてくれている恩人であると同時にそれを盾にする事もできる。だからあそこには誰も手を出さないんだよ。魔石が無くなったら生活レベルが下がるからな」


 属性魔石や属性魔結晶を作ることができる力を持つ湧水の湯船はある意味、このご時世で最強のコミュニティーと言っても過言では無いだろう。ライフラインを握れれば、誰もが従うしかない。不便よりは便利な方を人は選ぶものだ。それはどれだけ強い者であっても例外ではない。どれだけ強くあろうとも複数のコミュニティーを相手にはできない。本当にうまくできている。

 属性魔石や属性魔結晶を作ることができるのは魔力付与マジック・エンチャントというユニークスキルがあるからだ。魔力の属性変換は誰にでもできるのだが魔力を物に付与するのはこのユニークスキルがないとできない。身体強化や武器の魔力強化と言われる技は常に魔力を使用しているからこそ成り立つ。体や武器に一定量の魔力を流して強化する形だ。魔力付与マジック・エンチャントはある程度の期間ならば、魔力をその場に保つことができる。これを使い、魔法を保存することも考えられているのだが今の所うまくはいっていないようである。


「魔石にも消費期限があるからな。三ヶ月は持つけど、劣化はするし」

「それでも便利ですからね。やっぱりお風呂は我慢しますか? お風呂は無理ですが湯を沸かして体を拭くだけでも私は満足ですし」

「悪いけどそうしようか。あそこの女は淫乱すぎてヤバい。あそこの風呂場、常時微量の媚薬の霧が蔓延してるからな。俺が女を苦手になったのもあそこのおかげだ」

「そうだったんですか? 私は何ともありませんでしたが」

「そりゃお前さんの周囲に暴喰グラトニーを薄く展開してたからな。お陰様で暴喰グラトニーの精密操作には慣れたぜ」

「そんな事してたんですか。先輩自身はどうだったんですか?」

「もろにくらったよ。だからあの夜、お前に抱き付いてただろ? あの媚薬には酩酊効果もあるらしくてな。流石の俺もそんな状態じゃまともな思考は残ってなかったんだよ。辛うじて理性は残ってたけどな」

「あれはあれで面白かったですけどね。先輩が子供のように泣いてましたし」

「くっ、殺せ!」


 黒歴史を思い出してしまった俺はそれからしばらく楓の玩具になることしかできなかったのだった。

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