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弱肉強食の世界2

 食事を終えてしばらくした後、俺はぼんやりと虚空を眺めながらぼぅっーとしていた。暴喰グラトニーを使った後は頭があまり働かない事が多い。喰らった物を消化して魔力量を増やす際の後遺症のようなものだ。別段、害があるわけではないし、それも初めの十分程度なので問題ない。いつも膨大な量の魔力が増えるのだが暴喰グラトニーの事を考えると微々たる物でしかない。

 俺は不意に近くにいた楓が声を出すのをぼんやりと聞いていた。それを認識するまでにしばらく掛かってしまう。


「先輩、人がやってきます。人数は二人。明らかにここを知っての行動ですよ」

「……ん? ああ、そうか。じゃあ外に出てみるか。楓はどうする?」


 動かない思考を無理矢理回転させてどうにか答えると俺は立ち上がった。


「一緒に行きますよ。どうやらそれほど強くないようですし。まぁ先輩を基準にしたら、の話ですが」

「大丈夫だろう。まだユニークスキルは使えるしな。それに」

「それに?」

「いや、何でもない」


 新しいスキルが発現しそうだ。そう言おうとしたが黙っておいた。まだ誰かに聞かれるわけにはいかない。別に楓なら問題はないが近くに敵がいる状況で聞かれている可能性を考慮すれば隠しておいた方が身のためだろう。相手に耳が良くなるスキルがないとは限らないのだ。スキルとは未だに不明な点が多い。どんなスキルがあるのかすら分からないのだから警戒しすぎても損はしない。


「というわけだ。行くぞ」

「はい」


 短く答えた楓を背に俺は拠点から出るべく入り口へと向かった。

 入り口を塞ぐ扉はプラスチックの板を使っている。普通なら日中の熱で溶けそうなものだが魔力を流して強化したからか、溶けることはなかった。魔力自体には何かを強化する作用があることが判明している。それは身体能力も例外ではない。

 そんな入り口から出た俺は楓が出たのを確認した後、すぐ近くにあるカモフラージュ用の拠点へと座り込んだ。近くには岩があり、それで隠れているため、気配を探るスキルや魔力を探るスキルがない限り、俺達の行動がバレることはない。地下の本拠点がバレなければ今の所は問題はない。


「変わらずこっちに来てますね。やはり向こうはこちらに私達がいることを理解しているようですね」

「そうか。なら、戦闘になるかな? この間、一度だけ撃退した郷田の所のコミュニティーだろう」

「あの、暴力で女を屈服させて食い物にする最低な人ですか」

「ああ。あそこに入ったことはあるが酷い有様だった。ヤり捨てられてる女性ばっかりいて胸糞悪かった」

「助けなかったんですか?」

「あの時は余裕が無かったんだよ。状況が飲み込めなかったし、家族が死んだばかりだったからな」

「そうですか。まぁ先輩ならどのみち助けなかったでしょうけれど」

「何でそう思うんだ?」

「助けたら責任が生じるからですよ。いくら先輩でも何十人もの人を助けながら生きていけるほどの余裕はありません。違いますか?」

「違いない。お前さんは俺の行動を見透かしすぎて怖いな。おっと、それよりお客さんが来たようだ」


 遠くから見えてきた人影には見覚えがあった。それは先程言っていた郷田本人であり、そしてもう一人は千里眼を持つ郷田の恋人であった。郷田の持つスキルは千剣万化。様々な剣を作りだし、操るスキルだ。

 千里眼は文字通り千里を見通せるスキルだが予めマーキングを施したものであればどこまでも補足できるという力もある。その効果を使ってやってきたのだろう。そして、楓はその千里眼の対象者だ。


「済みません、先輩。私がここにいたせいでご迷惑を」

「気にするな。俺の糧が二つほど増えるだけだからな」


 やがて、その二人は俺たちの目の前にやってきて不敵な笑いを浮かべながら言った。


「よぉ。やっと見つけたぜ。お前をずっと犯すためだけにこんな所まで来たんだ。今日はたっぷり野外で可愛がってやるよ」

「相変わらずのクズっぷりですね。頭が下半身に直結しているんじゃないんですか?」

「郷田くんのオモチャの癖に生意気ね。さっさと犬みたいにしっぽを振りなさいよ」

「ご冗談を。それはあなたがやっていることでしょう。所詮、雌犬でしかないあなたにはお似合いですね」

「! あなた、生きて返さないわよ」

「まぁまぁ落ち着けよ、加代子。俺がたっぷり楽しんだ後に痛めつけてやればいいんだよ」

「それもそうね。郷田くん、早く済まそう? コミュニティーに帰ってシャワーを浴びたいわ」

「それもそうだな。さぁて、やるか」


 郷田は百を越える剣を生成し、宙に浮かべる。ロングソードから始まり、サーベルや刀など多種多様な刀が生成されていく。およそ刀剣という類の物を使える者がいれば、大いに役に立ったのだろうが残念ながらここには剣を能力で操るしか能のない人間が一人しかいなかった。

 郷田もそして加代子と呼ばれる女性も嗜虐的な笑みを浮かべて告げる。


「今なら傷を付けずにいてやるぜ」

「そうよ。さっさと尻尾を振りなさいよ。わんわんってね」


 その様子はまさに自分達が圧倒的優位に立っていると疑わないものであり、強者の奢りであった。ここに圧倒的脅威である俺がいることを知らずに。アイコンタクトで俺に合図を出してきた楓に対して頷き、そして一歩前に出た。


「さっきから無視するなよな。おたく等、俺に撃退されたの、忘れたのか?」

「はんっ、そんなのまぐれに決まってらぁ。ちょうどいいから纏めてやってやるぜ」

「お、おう。認識はしてたのか。まぁ何でもいいけどさ。うちの後輩にちょっかい掛けるの、止めてくれないか?」


 そう言って俺は暴力グラトニーを発動させて郷田の左腕を喰らった。間抜けな顔をしながら郷田は喰われた腕から流れた血を眺めていたがやがて痛みがやってきたのかうずくまり始めた。


「ぐ、ぐぉおぉぉおおおぉぉお! てめぇ! 何しやがった!」

「さてね。これで分かったろ? お前は俺には勝てないってな」

「ふ、ふざけんな! 俺様は最強何だぞ!」

「最強だからどうしたんだ? 自分より強い奴がいないと本気で思ってるならお粗末だな。そんな訳ないだろ?」


 完全無欠な奴はいない以上、本当の意味で最強な奴はいない。いるとすればそれは一種の化け物だ。人間ではない。

 俺が郷田と話しているのを隙と見たのか、加代子と呼ばれた女性がナイフでこちらに迫ってくる。それを冷めた目で見つめていた俺は暴喰グラトニーを発動してその存在を全て喰らった。暴喰グラトニーは瞬時に予備動作すらなく全てを喰らう。そこに隙は存在しない。今まで喰らえなかったものは例え、格上の相手であろうともなかったのだ。人間一人くらいわけないというものだ。


「う、嘘だろ。加代子……」

「悪いな。敵意を向けてくる奴を殺さないほど、お人好しじゃ無いんだ」

「な、なぁ悪かったよ。お前には手をださねぇ。もちろん、そいつにもだ。見逃してくれないか?」

「どうする?」

「先輩、コミュニティーに放り込んで始末しましょう。それが現実的ですからね」

「まぁそれでいいか」

「お、おい!」

「コミュニティーの奴らに謝ってこいよ。それで許してやる」


 俺はそう言ってにこやかにそう告げた。郷田は青ざめた顔を震わせてこくこくと子供のように頷いたのであった。

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