最終話 -202号室-
目を覚ますと、このおぞましき部屋、裏野ハイツ202号室の中心に置いてある、悪趣味な椅子に私は座らされて、手や足を縛り付けられていた。
裏野ハイツ202号室――
それは壁、天井、床のいたるところほぼ全てに隙間無く鉄板が打ち付けられた、昼間でも一切の光の入らぬ真っ暗な部屋。灯りは天井の鉄板から吊り下げられた裸電球一つのみの怪しげな部屋。そこら中に散らばる悪趣味な道具たち。ノコギリ、金槌、ペンチ、鉄棒、鞭、錐、等等。
どんな叫び声を上げようとも一切の声が外に漏れぬ部屋。
悪趣味な行為が毎日行われるおぞましき部屋。
私の爪を剥ぎ歯をへし折り体を焼き足の健を切り打ち据え切り付けありとあらゆる苦痛を与えるための部屋。
「お目覚めですかな?」
「…………」
目の前で手術着を着て手袋をはめた御手洗医師が、何やら道具をいじりながら私に問いかける。その後ろには裏野ハイツの住人たちが全員揃っている。
「いや、一時はどうなるかと本当に焦りましたよ。あなたが死んでしまうかと思いましたから。まぁ記憶を失ったときも本当にどうなるかと思いましたが、死にもせず、精神も崩壊せず、こうして失った記憶をも無事に思い出していただけるとは……本当に重畳至極」
メスを持つ御手洗
半田ごてを持つ鍛冶場
ノミを持つ姥捨山
ペンチを持つ香宗我部夫
鞭を持つ香宗我部妻
皆恐るべき凶器を手にとても良い笑顔を浮かべている。
「さぁ……安心してください……今度は精神が保つように、あなたが死なぬように、気をつけて、丁寧に、丁重に、慎重に、行わせていただきますから安心してください」
御手洗がそれを始めようとしたとき、後ろから大人たちをかき分けて香宗我部のぼっちゃんが顔を出した。
「まって!」
動き出そうとしていた他の住人たちも動きを止め坊ちゃんを見る。
「おやおや、どうしたんだい坊ちゃん?」
「このこもなかまになるからしょうかいさせて」
そう言った坊ちゃんの腕の中には、包帯に巻かれながらも、殺意の視線を私に向けている烏の姿があった。その烏は私を見ると鳴き声を上げる――
カーカーカーカーカーカーカーカーカー
裏野ハイツどもはその烏を笑顔で受け入れる――
新しい仲間だと――
新しい絆ができたと――
カーカーカーカーカーカーカーカーカー
私は思わず笑ってしまった――
「はっはははは…………」
「あっはっはっはっはっはっはっ…………!」
「はぁーーーあ…………なぁーんだ…………」
「…………そいつは雄かい? それとも雌かい?」
カーカーカーカーカー……カーカーカーカー………………