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閑話:小さな大冒険





幼子二人を乗せた自動操縦(オートモード)の小船は、アルシエール公国内の遺跡で発掘された『旧時代の遺産(アーティファクト)』の部品(パーツ)を複雑に組み合わせて完成させた、世界でも珍しい逸品(もの)なのだが、如何せん、今回が処女航海(メイデン・ボヤージ)。前例がないのである。





「・・・・・・ねぇ、アルにぃ・・・このふね、ちゃんともくてきのばしょ、たどりつくよね?」




どういう原理で動いているのかは全く不明ながらも、程よい速度で動き続ける小船に、何を感じたのか、不安そうにアルベールに問いかけたジルベールは「とうさんをしんじてないわけじゃないけど・・・」と、呟くと、ぎゅっと、防寒用に纏った毛布を握り締めた。




「そうだね・・・・・・僕たち二人だけでもリヴァージュの町に行けるように、いろんな工夫をして船を作ってくれているらしいから・・・きっと無事に辿り着けるよ。」




不安がるジルベール(おとうと)を安心させるように、傍に寄り添い、ぎゅっと抱きしめたアルベールだが、彼の(なか)にも不安は大いにある。




(・・・そもそも、『旧時代の遺産(アーティファクト)』の部品(パーツ)を使ってるっていう時点で不安しかないんだけどなぁ・・・。現代人は『旧時代の遺産』を使用することはできないんじゃなかったっけ?それにもし使えたとしても、部品の使い方がこれで正しいとは限らない・・・。)




でも、こうしてちゃんと動いてるし、方向としても間違っていないから、今の所(・・・)は大丈夫なんだろうと、言葉にはしない(ジルベールが不安がるから。)けれど、そう判断したアルベールはふぅっと息を吐いた。




まだアルシエール公国の海域内ではあるが、彼らが居た港町・ファレーズ上空に広がっていたどんよりした雲は薄れ、陽の光が淡く降り注いでいる。船の程よい振動と同時に跳ね上がる水飛沫と薫る潮の匂い・・・生まれた時から火薬や硝煙の香りに包まれた生活に慣れてしまっていたアルベールにとっては、それだけで全てが浄化されるように感じた。





「・・・・・・・・・とうーさんたち、だいじょうぶかなぁ・・・・・・」



「・・・僕らがいない方が、父さん達も動きやすいし、大丈夫だよ。」



「・・・・・・そっか・・・・・・・・・」




軽く背中を撫でながら、安心させるように語るアルベールの言葉を素直に飲み込んだジルベールは、やはり緊張していたのだろう、漸く体から力を抜くと、そっと瞳を閉じた。




「眠いなら寝てもいいんだよ、ジル。」



「・・・うん。おひるねなんてすごく、ひさしぶりなきがする・・・。」




大好きな兄に抱かれながら微睡むジルベールにアルベールも「・・・そうだねぇ・・・」と苦笑した。




本来ならば家で、友人宅で遊びながら勉強して、疲れたら休んで・・・子供らしい生活をしていなければならない年頃ではあるのだが、近年、内戦は激化の一途を辿り、非力な者は、少しでも生きながらえようと暗くて狭い空間に身を寄せ合い、何時来るかわからない敵襲に備え、大人たちは仮眠を交代で取りながら見張りをし、子供たちも、もしもに備え熟睡は出来ず、常に物音に敏感に過ごしていた。そんな不規則な生活は当然、二人の成長速度を遅め、年齢よりも若干幼く見えてしまっているのである。




「・・・眠れるうちに寝ておこうね。アルジャンテ王国はアルシエール公国みたいな内戦はないらしいけれど・・・・・・」




貴族の行いの差が激しいらしい・・・とまではアルベールは言えなかった。折角安心して気を緩めた弟に新たな不安を与えるべきではないと解っていたから。




「・・・でも、きっと・・・・・・僕たちの事は母さんが守ってくれるはずだから。」




お守りにと渡された首飾りをそっと握り締め、祈るように口にしたアルベールに応えるように、白乳色の真珠が一瞬だけ仄かな淡い光を放ったが、幼い兄弟はそれに気づくことなく、穏やかな眠りに身を委ねた。




彼らが次に目覚めた時、そこは果たして目的の場所なのか、それとも違う運命を辿るのか。




その『先』はまだ何も記されてはいない――――――――――――――

伏線・・・ではないのですが、次話の内容に関連する所でもあるので、短いですが書かせていただきました。

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