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リヴィエール公爵家の子供達1




馬車に揺られること約1時間。




アルジャンテ王国内に於ける、我がリヴィエール公爵家の所有する屋敷は、国内の貴族の中でも少なく、別荘を含めても5箇所しかない。(上位貴族となると、領地・王都には勿論、観光名所と呼ばれる土地には必ず別荘があるのが普通・・・になてしまっているのが現状である。最も、見栄を張るだけに建てられた別荘は必ずしも毎年使われるという訳ではなく、無駄に地価を上げる要因として昨今、議論の素にもなっているのがだ、未だ解決には至っていない。)その内の一つである、王都に隣接する学園都市アスポワの邸宅に、私たちは戻ってきた。




何故、王都の屋敷を利用しないのかといえば、理由は至極簡単。私には少し年の離れた姉と兄が居るからだ。




アルジャンテ王国(このくに)では身分に関係なく7歳から、学園都市(アスポワ)にあるそれぞれの教育機関に子供を預ける事を義務付けられている。・・・身分に関係なく、とは聞こえが良いかもしれないが、その実、貴族の子息令嬢が通う学園に平民たちが通うことは『ある例外』以外にはなく(前述したが、この国の貴族は総じて見栄っ張りなのである。当然、子供たちが通う学園施設は一級品で揃えてなければならないと、学問に関係ないところばかりに資金を費やし、また学園はそれらの維持費の名目で貴族から資金を巻き上げているのが現状で、平民には到底払うことのできない凄まじい学費が発生しているのだ。但し、例外として平民の中でも飛び抜けて頭脳明晰で、将来有望だと認められた者のみ、最高教育課程まで学費免除という高待遇で迎えられるのだが、その大半は腐りきった貴族の悪習慣(ありかた)に辟易し、自らの意思で学園を去っていく事が多いのも事実である。)平民たち専用の学園も、この都市内には数多く存在する。




そして、国中から子供たちが集められるということは当然、住む場所も必要となるといことで、基本はそれぞれの学園の専用宿舍を利用するのだが、我が家のように別宅を建てたりすることも認められているため、学園都市(アスポワ)は王都に負けず劣らずの広さを誇っている大都市の一つに数えられるのだ。




尤も、王都にある屋敷を利用しない理由は、リヴィエール公爵家(わがや)の生業が外交業だという事が大きく関係している。


王都には他国の使者が各々の思惑を抱きやってくる。当然、直ぐに片付く案件であれば良いのだけれど、国同士の思惑が絡むとそれ相応の時間を有するもの。勿論、王城には立派な客間や貴賓館もあるけれど、慣れない異国で缶詰状態は息が詰まるだろうと、公爵家の屋敷を自由に利用できるよう配慮しているのだ。他の貴族からするとありえないと顔を顰める事だけど、これこそがリヴィエール公爵家が長年地道に繋いできた他国との信頼関係の真骨頂と言えるだろう。自国の腐りきった貴族に媚を売るよりは他国の将来有望な王公貴族との絆を強める方がいくらか国のためになる・・・古くから受け継がれる我が家の方針なのだ。





「お父様!お母様!!お帰りなさいっ!!」



「・・・シェリル、もう大丈夫なの?」





馬車から降りてすぐ、屋敷からこちらに向かって駆けてきたのは、私の7歳年上の姉、セレスティーヌと5歳年上の兄、フォルトゥナ。二人共王立学院の制服を着たままの姿で駆け寄ってきたけれど・・・・・・・・・・・・・あれ?今・・・昼前・・・のはずだよね?平日だし・・・セレス姉様、フォルト兄様、授業はどうなさったのです??




「ただいま、セレス、フォルト。出迎えは嬉しいんだけど・・・二人共授業はどうしたんだい?」




その疑問は私だけではなかったようで、お父様も、子供たちの熱烈な出迎えに頬を緩ませながらも首を傾げていた。因みにお母様は・・・・・・うん。笑顔が果てしなく恐ろしいです。




「だって、シュヴァリエが、お昼頃にお父様たちが戻られるって言ったから!」



「気が気じゃなかったんです。シェリルがお城で倒れたって聞いて。・・・父様たちもずっと戻ってこなかったし・・・」



「「授業なんて受けてる場合じゃないくらい、早くお会いしたかったんですっ!!」」




そう、潔くきっぱりと言い切った二人に、お父様は本当に嬉しそうに微笑み、お母様は更に怖い笑顔を深めた。・・・あ、これはまずい。




「二人共・・・・・・・・」



「セレスねーさまっ!フォルトにーさまっ!!ただいまですっ!!!」




お母様の声を遮り、行儀が悪いと思いつつも、二人に抱きつけば、セレスお姉様もフォルトお兄様も、嬉しそうに「お帰りなさい!シェリル!!」と受け入れてくれた。・・・よしよし、上手くお母様の勢いを殺げたわ!この調子で畳み掛ける!!




「おねーさまもおにーさまも、きょうはおやすみ?シェリルとあそんでくれる?」




嬉しそうに、尚且つ取って置きの上目遣い(・・・うん。今までこんなことやったことなかったけれど、これはこれで案外楽しいかもしれない。)で訴えかけると、お姉様もお兄様もとびきりの笑顔で「勿論!!」と応えてくれた。そして、何故かお父様が胸を抑えて「・・・・・・うちの子たち、天使過ぎる・・・」とか言ってるのには敢えて見ないふりをしておく。そうすればほら、お母様の怒りの矛先は必然的にお父様に・・・。





「・・・・・・エドゥワールぅ~?」



「ほ・・・ほら、エリザ!子供たちが元気なのは良い事じゃないか!!・・・セレス、フォルト!あまりシェリルに無理させちゃダメだよ?シェリルも、はしゃぎ過ぎないように・・・ね?」



「「「はーい、お父様(パパ~)」」」





もう、貴方は何時だって子供達に甘いんだから。とチクチクと小言を言うお母様だけれど、まぁ、私達が気侭に遊んでいる間、お父様達にもゆっくり休める時間が取れるのだし、そう悪い話ではないと、お母様もきっと理解はしてるんだと思う。ただ・・・何よりセレスお姉様とフォルトお兄様の行動力というか実行力が予測外過ぎただけなのだろう。・・・そう言えばお二人共、誰に似たのか割と思い立ったら即実行に移す性格だったなぁ・・・セレスお姉様に至ってはアルベールお義理兄(にい)様との結婚も、「国の違い?貴族と他国の平民の差??それが何か???好き合ってるのだから何も問題はないわね。」と、渋る国の重鎮達をばっさりと切り捨ててたものねぇ・・・まぁ、この調子だと今生もそういう結果になりそうだ。





「・・・・・・そういえば、おねーさま、おにーさま。ロイとクロエはどこです?」




お姉様とお兄様に手を引かれながら、私の体調も考慮して室内で遊ぶことにしたのだろう、屋敷の中へと向かう途中でふと、疑問を口にすれば、二人は「ロワイエもクロエも、今はお休み中よ。」「僕達と同じくらいシェリルのこと、心配してたんだけど、ほら、まだ小さいからね。疲れが眠気に出てるんだよ。」と、教えてくれた。




因みに、今話題に登った人物である、ロイ・・・ロワイエ・クロイゼルとクロエ・クロイゼルは兄妹で私に仕えてくれる事になる、クロイゼル家の子供達だ。同い年のロイは執事として、クロエは侍女として教育され、熾烈を極めるであろう学園生活を常に支えてくれていた。・・・そう、時には多方面で危険な牽制なんかも、平然と・・・・・・。




(・・・・・・私の為に、よく、尽くしてくれていたのに・・・・・・結局最後に助けの手を差し伸べてくれるロイを、選ぶことはいつもできなくて・・・・・・)




何度、全てを捨ててロイの手を取り、逃げ出せたらと、彼の想いと同じ分だけ彼を愛せたなら、あの悲劇の結末たちは訪れなかったのだろうかと、今にして思うけれど、私のロイへの想いは愛情よりも家族愛の方が強いのだ。生まれた時から、身分の差はあれど家族同然で育ってきた私たち。けれど、私はアレクを、政略的な意味が強かったとしても彼を選び愛し、ロイは・・・自身の想いを封じてまで、私の傍で支え続けてくれていた。並大抵の精神力ではないことくらいわかるし、それが彼の、愛し方なのだとしても、それに応えられない自分が酷く嫌な人間に思えて・・・・・・それすら見ないふりをして、アレクの隣に縋り付いていたのも事実だ。(その結果、見当違いな方向から嫉妬の爆撃が来ることになったのだけれど、そう言えば、私、ロイにだけは、傷つけられた事、ないのよね。本当なら、真っ先に彼に愛憎入り混じる感情から刺されるなり無理心中なり、なんなりされてもいいはずなのに・・・)




「・・・ふぅん?ふたりとも、おねぼうさん??」




ともあれ、お兄様の説明は5歳児には少し難しすぎるだろうと、敢えて斜め上の返事をすると、お兄様は苦笑しながら「そっか、シェリルにはまだ難しかったね。ごめんね。」と何故か謝られてしまった。




「お寝坊といえば、シェリルの方よ?お城にお出かけしたかと思えば倒れてずっと・・・10日間も眠りっぱなしで・・・ようやく戻ってきてくれて私たちがどれだけ安心してるか・・・・・・ちゃんとわかってるの?」




お父様譲りの緋色の大きな瞳を潤ませながらも、繋いだ手は強く、私に問いかけてくるお姉様は、昔から言葉よりも表情で語る人だ。お説教じみた言葉は年上だから。でも、その表情を見れば、家族の誰かが欠ける事を極端に嫌う、本当に私の事を愛してくれてるからこそ、不在だった10日間が不安で寂しかったのだと、そう訴えかけている。倒れて寝込んだことは不可抗力だったけれど、それでも、叱られているのに、私は嬉しくなる。(勘違いしないでね?私、怒られて喜ぶような性癖はしてないからね?ただ・・・なんというか、私、ちゃんと皆から愛されてるな~って安心したというか・・・いや、前から家族や従者達から愛されてるのは知ってたけど、なんというか・・・全てが違う状況じゃないって言う現状に安心しているのかもしれない。)




「・・・えへへ、ごめんなさい、おねーさま。」



「・・・なによ、嬉しそうに・・・本当に反省してるの?」



「姉様、別に今回のはシェリルに非があるわけじゃないでしょう?」



「そうだけど・・・・・・なんっか、腑に落ちない!」




もう、今日は目一杯構い倒してやるんだから!!と宣言するセレスお姉様に、フォルトお兄様はただ苦笑を浮かべるだけで、止める気はなさそうだ。尤も、お姉様の暴走を止められるのはアルベールお義理兄(にい)様だけなのだけれど、残念ながらお姉様と義理兄様はまだ出会ってすらいないので今は諦めるしかない。




(・・・・・・そう言えば、今の時期って『エテルネル共和国(あのくに)』まだ出来てないんだよね?内戦が続いてて・・・正式にエテルネル共和国として稼働始めるのが私たちが10歳になった頃で・・・・・・義理兄様とジルに会うのは、建国記念祭の時―――――――――)




「・・・・・・どうしたの、シェリル?具合、悪くなった??」




急に黙り込んだ私をお兄様が心配そうに覗き込んでいた。




「え?あ・・・ううん。おなかすいたなーって・・・。」




曖昧に笑えば、お兄様は「そっか、もうお昼だもんね。」と微笑んだ。気を許した人物の事をとことん信用し疑わないのがフォルトゥナお兄様の長所であり短所でもあるところだけど・・・性格は非常にお父様譲りで、実は信用しているように見せかけて、裏で徹底的に多方面から調べ上げ白なのか黒なのかきっちり判断し、行動に移すような人だ。今は幼いから私の嘘も見抜けないだろうけど、数年すればきっと、直ぐに見破られるようになるだろう。なるべく、お兄様には嘘はつかないでいたいものだ。





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